第2話 異国の美少女は積極的すぎる件

彩星にからかわれ後、一同は涼しい館内へ。汗でベタベタした体から、熱が奪われすーと冷えていくのがわかる。

ブルブル。むしろ寒いくらいだ。

天文部一行は、机がロ型に組まれた会議室に通された。椅子に腰掛け、待っていると大学側のメンバーが入ってきて、今回供に研究するメンバー紹介をお互いにおこなう。

教授を筆頭に、准教授や大学院生のメンバーも居て、彩星は年齢的に一番下のようだ。

とはいえど、ここでは中堅所らしい。詳しくは知らないが、その中でも彩星の研究はかなり的を得た物になっているようで、大学二年にしてこの施設を自由に使える権限までもらえたようだ。うん、自慢の姉さまだ。


研究熱心で、邪魔とか言って高校まで赤のロングヘアだったが、バッサリとショートにしてしまうほど、研究が好きな人なのだ。

目が悪く、厚めのメガネをしており、研究で籠もっていてはもっいないほどの美人である。

しかも双丘は大きい撓わを実らせており、歩いたり、プロジェクターで投影された資料を棒で指していると、やたらと揺れる。揺れる。

あの弾み方は、まるで水風船を仕込んでいるかのよう。部長とか、ほかの男子は釘付け状態だ。

やはり、ちょっと恥ずかしい姉さまだな。


俺と違い人付き合いもうまく、すぐに打ち解ける性格で、終始和やかに施設紹介やら、今回の研究内容の共有など、一通り姉がすべて行っていた。

弟の俺がいるというのもあるのかもしれなが。


「──というわけで、今回の研究課題は、銀河系から最も近いマゼラン星雲を観察したいと考えております。いかがでしょうか清洲崎高校生の皆さん」

「ありがとうございます。太田先輩。こちらで問題ございません。では早速観測に入りたいのですがよろしいでしょうか」


部長はそう言い、会議は終了。

研究室に全員で押しかけるのは、狭いため班に分かれることになった。


俺は美晴と同じ班に入る。この班は後半組で、前半メンバーが終わったら研究室に入る。それまで暇な時間ができたわけで、


「姉貴。ちょっといいかな」

「どうした、昴」

「姉貴の研究室を見せてもらってもいいかな。こんな機会はほとんどなだろうし、どうかな」

「もちろんかまわないよ。ちょつとだけ散らかってるが、招待するよ。美晴ちゃんも来るかい」

「はい、興味あります。彩ねーのお部屋。機材とかすっごいんでしょ」


俺と美晴は、彩星の研究室を訪ねることになった。

さぁどうぞと研究室に通される。ありゃ…。

散らかっている。ちょっとではない。ものすごくだ。

書類の束や書籍が床からタワーを形成しており、それが臨海高層タワーマンションの様にいくつも並んでいる。

この田舎にタワーマンションなんぞ建てても誰も住まないが、すでに彩星は建設ラッシュの最中のようだ。


「おぉ、気をつけてね。その辺の束は崩れやすいからね」

「その前に片付けようよ。姉貴、ほこりとかかぶってる物もあるから、いらない物も多いんじゃないの」

「よく見ているね。そうなんだよ。ほとんどいらないんだよ。資料は頭の中に全部入ってるからね。けど、ついつい捨てるの忘れちゃってね。てへっ」

てへっ、じゃないわ全く。


「なぁ、すばるぅーくん。お小遣いあげるから、おそーじ手伝ってよ」

「手伝いじゃなくて、やってくれってことではないか」

「おほほほ。お察しの通りそうとも言うかな」

「たくもぉ」


期待はしていないが実入りになるのは助かるし、姉との時間も確保できるのであれば良いのかもしれない。

さらに欲しい資料があったら、世の中に出ても問題ない物だけ持って行っていいことになったので、美晴と掃除を始めるのであった。


「姉貴。二階は何があるの? 天窓もあって快適空間って感じだね」

「ん? あぁ、二階ね。天体シミュレーション用に稼働中のサーバー二台と書庫にしているほかに、望遠鏡を置いているよ。疲れたときに空を見たくなるのさ。二人で使っていた望遠超はまだ使っているのか」

「うん。現役だよ。また二人で星を見に行きたいな」

「それいいね、行こう。早速、合宿が終わったらいつもの場所でどうかな?」

「オーケー、帰ったら準備しておく」


僕は彩星と久々に星を見に行けることで、遠い存在になってしまった二人の関係が縮まればと期待を寄せた。


「昴。コレすごいよ。中性子星に関する論文が出てきたよ。あっ。こっちもすごい」


美晴は宝の山を漁るかのように、せっせと書類を確認しつつ束を溶解処理用の段ボール箱に詰めていた。本当に彩星の研究室は宝物の山だ。

様々な研究者の論文や科学雑誌など、僕らにとっては輝かしい物だ。


「晴美ちゃん。その論文は持って行っていいよ~」


彩星は器用にもパソコンに張り付いたまま計算式を考えながら、上機嫌に答えていた。

ふと美晴の後ろにある時計に目が行く。


「あっ美晴。そろそろ俺たちの番になりそうだから行こう。姉貴。掃除は一端中断するぞ。また来るよ」


彩星は部屋を出ようとする昴を呼び止め


「夜は親睦会を用意したから、存分に楽しめ」

「おぅ、ありがとう」

彩星に手を振り研究室を後にした。



後半組のメンバーと合流して研究室に入ると、たくさんの機械とパソコンが並んでいる。

白衣を着た大学院生と准教授から、詳しい説明を受け観察に入った。

表示された物体がどういった物であるのかはある程度わかる。

それなりの天文学の本を一通り読んでいれば、こういったものはあるから。しかし、機器の操作はがさっぱりだ。

パソコン画面をぼんやりと眺めていると、後ろから声を掛けられた。


「アナタが彩星さんの弟さんデスか?」

「えぇ、そうですが、なにか……」


声のする方に振り返り見上げると、白衣を着た見知らぬニコニコ顔の碧眼美少女か立っていた。

年の頃は俺と同じか、ちょいと上だろうか。外国人はあまり見慣れていないので、大人びて見えている。

彩星と背格好はほとんど一緒で、黒いパーカーのフード浅くかぶり、上に白衣を着ていることから、ここで研究している人なのだろう。

モデルかと思うほど目鼻筋がはっきりしてる顔からは、笑顔が漏れる。

こんな美人な人が研究者なんて、世の中はすごい。キレイすぎる天文学者として売り出したら人気でそう。


「ワタシはセレスシスと申しマス。彩星さんとは一緒に研究をしているのデスよ」

「あぁ。そうなんですね。ご丁寧に、いつも姉がお世話になってます」

「ところで……」


そう言うとセレスシスは真顔になり人差し指で俺の顎を持ち上げ、青い瞳で見つめてきた。


「彩星さんの言ってたとおり、ふふふっ、かわいいデスね」


いえいえ、アナタの方が断然かわいいですよ。

しかし顔が近い。そして何の香りだろうか。

シナモン風のさわやかな香りの中に、砂糖の様に甘い匂いが混じる。まるでシナモンロールを思わせる食欲をそそられる香りだ。

間近で見るセレスシスの顔の深いブルーの瞳が、俺を見つめている。

瞳があまりにも澄んでいるからなのだろうか、きらめいている眼球に俺の姿が映し出されていた。

その自分の姿を見つめている俺がいる。

瞬きする余裕も無く、意識がどんどん遠くなるのをただ、感じた……。


「ゴホン!」


美晴の声で遠くなっていた意識が戻り我に返る。

さっきのは何だったんだろうか。 

美晴は続けて話し出す。


「えぇっと昴。それとなんて言いましたっけ……」

「はぁ~い。ワタシはセレスシスです。アナタは弟さんの幼馴染みさんデスね」


満面の笑みで答えるセレスシス。

声の主の方に目をやると、俺とセレスシスの間で美晴が腕組みをして仁王立ちしていた。

美晴のジト目はちょっと恐い。


「晴美ちゃんデスよね」

「惜しいけど違うよ。セレスシスさん。彼女は美晴ですよ」

「オゥー、失礼しました。ワタシってば、 おっちょこちょいデス。ごめんなさい美晴さん」


セレスシスは、そう言い美晴の両手を手に取り謝っていた。


「そんな、いいんですよ。間違いなんて誰にだってあることですから……」

「いえ、ダメデ~ス。ジャッポネス流の伝統的な謝罪方法である、土下座しかありマセん!」

「土下座なんて、しちゃダメ!」


美晴は慌てて止めに入った。土下座をするのは覚悟を決めた大事なときだけで、些細なことではしないことをセレスシスに解いた。

オォー、また失敗してしまったと、右手で拳を作ると頭をぽかんと叩き、定番のポーズを決めた。

セレスシスは結構お茶目な方なのかも。


「ところで、話は変わりますが、弟さんは好きな人は居マスか?」

「えぇっと!? 唐突ですね。いきなり何を言っているのですか」

「居マスか?」


ニコニコ顔をグッと近づけてきたので、とっさに顔を背け


「いえ、居ませんがそれが何か」

「それなら結構デス。ワタシと付き合いしマセンか」

「えーーーーーーー」

「セレスシスさん! またしても一体何を言っているのですか!」


驚く美晴とともに目が点だ。

出会って数分足らずで告白するなんて、聞いたことが無い。

外国では、当たり前なのだろうか。例えばイタリアの様な情熱的な恋愛が多い国ではもしかしたら、出会ってそれなりに気に入ってしまえば、とりあえず告っておく。それともこれは、ジョークなのかもしれない

しばらくきょとんとした顔をしていたので、セレスシスはニコニコ顔から不思議そうに僕らを見つめている。


「オー。ワタシってば、また何かおかしなことを言ってしマイマシタか?」

「日本では出会っていきなり告白するなんて、あまりないものですから、戸惑ってしまい。ってか、冗談ですよね」

「いえいえ、ワタシは真面目デスよ。アナタに興味があるのでお付き合いをしてみたいと思ったマデデス。はい」

「えぇーーーーー!」


美晴はまたもや絶叫する。


「昴と付き合っても、いいこと無いですよ。変態なんです。そうです変態です。変態同盟とか友達と組んでいるヤバイやつなんですよ。だからやめてください」

「変態とは興味深いデスね。アブノーマルな恋愛もワタシは……興味あるデス」


慌てふためく美晴を尻目に、ニコニコ顔のセレスシスは俺を見つめている。

変な騒ぎになってた我々の所に准教授が来て、状況から元々担当では無いセレスシスは、一発退場を言い渡された。

セレスシスは去り際に、「いつでも返事を待っています」と言い研究室を後にした。


強烈な人だったが、美人な人から告白されるのは気分がいいものだ。

美晴からはずっと、

「なにニヤけているのよ」

「まさか本当に付き合うつもり?」

なんて聞かれてはいるが、正直どうするかは分からん。

なにせセレスシスのことをなにも知らないのだ。

正体不明な人物ととまでは言わないが、知らない人とは付き合うことは無いだろう。

しかし、美晴のジト目を向けられて、視線が痛い。痛い。

とはいずっとえニヤけてはいられない。

さて研究の続きに戻ることにするか。


真面目モードに戻ったがコレを覚えるだけで、合宿がすべて終了してしまいそうだよ。

そのため当然であるが、機器の操作は大学側で行い、表示された映像をお互い解析することで決まった。

アンテナの向きを一定感覚で変える必要があり、それにはプログラムを書く必要があるとか、ちょっと星のことがわかる高校生には無理な話だね。

僕たちの班の番が終わり、今日の観測は終了になった。

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