第1話 夏合宿は溶ける様に暑い……ダリの世界か!?

太陽光が痛いぐらいに降り注ぎ、とても暑い中ではあるがバスを降り立った。

エアコンの効いた車内から一変して陽炎が沸き立つ別世界、こういったときに涼しい道具とかなんかを出してくれるネコ型ロボットが居ればなおのことよかっただろう。

着ているのは夏服とはいえ、学生の制服はとても暑い。本当に夏仕様なのか疑ってしまう。

うちの学校の男子は、ワイシャツとスラックスという高校生ではいたって普通の格好。女子は白いワンピース型のセーラー服と涼しげだ。清楚な感じがするとのことで、地元では制服目当てに入学するぐらい人気高い。

しかし、女子ってわからん。将来のことよりも三年間しか着れない制服をとるんだな。

もちろん冬服もかわいいデザインなので、タイミングがあったらそのうちに紹介しようと思う。

ただ、男子制服は本当に普通以外の何物でも無い。

とはいえ珍しいのも考え物。通りすがりの他校生徒に、二度見されるほど奇抜なのはもちろん嫌だ。まぁ、普通っていうのは、これはこれでちょうどいい落としどころなんだろうね。

「忘れ物はないな。あとここから十五分ほどだから頑張ってくれ」

「ふぁ~い」

バスから降り天文学部部長が声を上げると、やる気のない返事で皆返す。

街道を横道にそれ長い登り坂を上がって行く。

ここのバス停に降り立つといつも思うことがある。電波望遠鏡前というバス停で降りた訳なんだけど、そこから十五分も歩くとか、全然前じゃないじゃない。いっそのこと電波天文台入口とか、電波天文台手前とか、もう少し距離ありますよ的な命名はできなかったものかと。これはどうでもいいことだけどね。


夏の太陽は、文化系生徒達の体力をしっかり奪っていく。

バスの中ではワイワイ騒いたのに、陽炎で揺らめくアスファルトの上り坂では誰もが無言になって、ひたすら施設を目指すのだ。

このうだるような暑さが堪える。

こんなに暑いなら、かわいい女の子とプールにでも行って、バチャバチャ水を掛け合って春青を謳歌するのもいい。

「だな。すばるの意見に俺も同感だ。なに好んでくそ暑い路上を歩かねばならないんだ。彼女とか居ればこの夏休みを楽しい物に変えてくれたのに……」

太田昴おおた すばるの意見に賛同したのは東澤直樹とうざわ なおき。俺と同い年で高校二年。一年の時からクラスが一緒で高校に入れば彼女はすぐにできるとか意気込んでいたが、今日まで独り身だ。

まぁ、俺も人のこといえないか。

「そう言うなよ。天文部にとって貴重な機会なのだからな。今日は二人とも参加してくれてありがとう」

「神崎部長はいいっすよね。彼女が居るんすから」

ふて腐れている直樹の話に割って入ってきたのは、天文部部長の神崎至かんざき いたる

一個上の先輩で高校三年生。彼女いない歴イコール年齢の俺達とは違い。以外とモテるメガネ属性インテリ系温顔男子と言った方がいいだろう。半年ほど前に彼女と別れて、先月から新しい恋いをスタートさせたリア充。

今度の相手は、テニス部の部長だってさ。我が校の中でも五本の指に数えられる美少女だ。すらっとした綺麗どころのテニス部部長を射止めるとか、さすがにすごい。


「今日からは始まる合宿は天文部の、いや天文学における新たな発見になる気がしてワクワクしているよ」

「俺もワクワクしています。新しい発見がなくても、憧れの電波天文台に入れるだけですごいことですよ」

「あぁ、女子率が高い天文部の合宿だからな。ハプニングとか期待高いっすよ。部屋間違えて入ったら着替えていたとか。お風呂に入っていたら、女子達が生まれたままの姿で入ってきたりとか。いやー、ワクワクが止まらん!」

「お前、それやったら下手するとボコられるだけでなく、警察で反省させられるかもよ。部活動停止にならんようにしてくれ」

部長は呆れてていたが、苦笑いをしながら彼の身を案じていた。

実際直樹は、天文とかにはそこまで興味をもって入部したのではなく、どこの部活よりも女子が多かったからとのこと。彼らしい発想だ。


「直樹の冗談は放置して、何でまた大学が高校生の天文部と共同合宿をすることになったんですか」

「私も不思議に思ってね。顧問に聞いたところ大学側の要望だったそうだよ。まぁアレだよ。体験入学的な意味合いもあるみたいだし。気に入ったら来年受験してってやつ」

「なるほど、そうでなきゃ高校の天文部と共同合宿なんてしないですしね」


大学だけで無く、さらに卒業生である姉貴が絡んでいるのかもしれない。知らない高校生と合宿するよりも、弟の居る母校に白羽の矢を立てたのだろう。


「なに話しているの?」

俺の幼なじみの豊岡美晴とよおか みはるが話に割って入ってきた。


「おぉ、アレだよ。美晴っちがかわいいって話していたんだよな、昴」

「ん。まぁ、そんなとこかな」


美晴とは物心ついたときから一緒にいて、最初の出会いとかいまいち覚えてないんだよなぁ。気づいたら一緒に遊んでいた。そんな感じ。

姉ともよく星の観察をしていた仲だ。

美晴は校内でも指折りの美少女らしい。直樹からの情報なので、イマイチあてにはならないがね。

真夏に似合わない白い肌。ほっそりとした体つきが、清楚な感じの白いセーラー服にマッチしている。ぱっちりお目々と、栗色のミディアムロングにふんわりウェーブが掛かった髪型からの印象は、ちよっとしたお嬢様に見える。

性格はおっとりめで面倒見のいいが、おっちょこちょいなところがあり、そこが実にかわいいと思うね。顔も実にかわいい。強いて弱点としては、お胸は残念なサイズとだけしておこう。本人も気にしているみたいだし、具体的に部分は割愛ということで。


「……っ。バカね。絶対嘘でしょ。エッチな話だったんでしょ。ってか直樹がエロエロおやじだから、昴までエロエロになったらどうするのよ」

「訳分かんねーし、俺のどこがエロエロなんたよ。かわいい水着の女の子の考えてもエロにはあたらん。さらに昴は俺が認めたエロ友だぞ」

「直樹。それ意味わかないから、俺は直樹とエロ友になったことないからさ。二人とも熱さにやられているよ。どぉーどぉーどぉー」


熱さでヒートアップしている二人をなだめものの、美晴の怒りが収まらない様子なので煽ててみるか。


「美晴も怒らない!熱くなっても俺も美晴はかわいいと思っているよ」

「ん、もぉー。昴まで」


熱さからなのか美晴は顔を真っ赤にして、ツーサイドアップの髪を左右に揺らしながら俺を叩いてきた。


「あぁ暑い、熱い! 熱い! お二人さんを見ているだけで、周辺の温度が急上昇だよ。早く付き合ってしまえ! リア充ども」


直樹は嫌みっぽく、俺と美晴の横を通りすがり呟いた。


「直樹! あんたはまたそんなことを言って。私たちは幼稚園からの幼馴染みで、…成り行きというか、……腐れ縁というか。家も近いし、同い年だけど頼れるお兄ちゃん的な……」

「美晴に先に行ってるぞ」


美晴はもじもじしていて、最後の方は下を向いていて何を言っているのかわからなかったので美晴をおいて先へ進む。

「あっ、まってよー。おいていかないでよー」


そうこうしているうちに電波天文台に到着した。

「みんな着いたぞ。お疲れさん。今から手続きをしてくる」

部長は引率の先生とともに、警備室に入っていった。

施設の入口や周辺は厳重な鉄格子に守られており、簡単には入れない。

まるで何かを守っているのか、はたまた軍関係の施設のような警戒っぷりには毎回驚かされる。


大学生の姉がここで研究を行っているため、お使いで入口までは来たことがあるが、中に入るのは初めて。緊張するよ。

部長が戻ると。手には紐の付いたIDケースを持っている。

「よし、これからIDを配るから顔写真、名前間違いがないかどうか確認してくれ」

そう言いながらみんなに渡して歩く。渡されたパスを見ると夢を見ている気分だ。一時的な滞在とはいえカード型のパスは、他の職員と同じく作り込まれた顔写真入りのパスだ。

施設内の扉は、このパスを使用しないと通行することができないため、全員分用意されている。顔写真は、先日施設の職員が学校で撮影していった。


一人ずつパスを使いゲートを過ぎると、幾重にも重なった有刺鉄線と重厚な鉄格子に囲まれた世界。まるで軍事施設を思わせる重圧を感じる。行ったことはないけど。

しかも対人レーダーが網の目のように張り巡らさせていると、姉の彩星が語っていたのを思い出すと、軍事施設と言う表現は間違いではないかもしれない。

「昴。すごいね。なんだかすごく緊張してきちゃう」

「ああ、そうだな」

「しかし、やけに厳重な警戒態勢なんだろ。電波望遠鏡は何者かに狙われているか」

不信感を募らせた直樹の意見に同感だ。ここまで厳重に警戒する必要があるのだろか。

警備員は、体格のよい人たちだらけでやたらゴツい。

電波望遠鏡以外にも何か守っている物がありそう。


「あっ、柵の所にウサギがいるよ。かわいいね」

「ほんとだ。この施設には似合わない組み合せ。だから不自然に地面が穴だらけなんだ」


俺は地面にしゃがみ込み、鼻をヒクヒクしているウサギを見つめる。

かわいい丸っこい姿を見ていると、軍事施設を感じさせる佇まいをうっすら消してくれるな。ウサギをみて和んでいる俺らの前に、突然目の前が白い物で覆われた。

上半身の胸をぷるんを弾ませ、


「昴、よく来たね。それから清洲崎高校のみなさん初めまして。昴の姉で太田彩星おおた あやせです。この合宿を実りある物にしたいと思っているのでよろしく頼むよ」


グラマラスボディの上に、白衣を羽織った俺の姉が出迎えてくれた。


「姉貴。迎えに来てくれるとは知らなかったよ」

「彩ねーちゃん。お久々です」

「一段落したからね。おぉ美晴か。久々だね。かわいいマスコット的なキャラは健在でうれしいよ。しかし、ずいぶん大きくなったが胸はこれからみたいだ。でも安心してくれ、我が弟君はあまり巨乳好きではないからね。姉の巨乳を見せたが触ろうとしてこない、けしからんヤツだよ」

「姉貴。余計なことを言うな。ってか、見せてきたことないだろ!しかも触ってほしかったのかよ!」

「昴はやっぱり大きい方が好きなの?」

美晴は顔を赤く染めながら下を向いてしまった。


「大きさなんてどうだっていい問題だよ。好きになった人がたまたま大きかったり、小さかったりするだけのこと……何言わされているんだ僕は」

「はいはい、昴の胸に関する熱い話は、その胸の奥にしまってくれや。暑い中で立ち話も何だし、さぁ中に入っておくれ」

「ったく、誰がその話題に話を向けたんだよ」

「あっはははははは」


俺はジト目で彩星を見たが、彩星は盛大に笑ばかり。

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