夜空を見上げていたら女の子が降ってきたが、これが天使なのか!?

水瀬真奈美

プロローグ 

最近、なにげに思うことがある。

高校生になってから、たかが数年前の幼稚園や小学校ことを思い出そうとしても、ぼんやりとしてか記憶に残っていないことだ。

だれしも幼稚園や小学生期間を経て、今の高校生である自分が居るわけだから、確かにその時間は存在していて考えて行動していたが、過去の自分は常にその時間軸に置いてきぼりになっているから、今の自分が思い出せないのではないか。とか思うことがある。


唐突も無くフラッシュバックして、過去の出来事が蘇りはしても、面影や声だけが再生される。

その光景は一コマ一コマを連続して映し出すことで、あたかも動いていると錯覚させている昔の八ミリ映画を見ているかのようだ。

コマ送りの映像で思い浮かべるのは、僕は喜劇王のチャップリンよりも、あぶない刑事のエンディング派です。そこはどうでもいいけど。

その映像には一部が欠けたパズルのように重要な情報か隠され、確信を得ようと脳内を検索しても断片的にしか記録が存在していない。

自身の脳内にある思い出とは何だろうか。

目で見た映像と耳で聞いた音声は、電気信号により海馬に記録されたはずだ。

だが現実は劣化があるアナログ的な記録でしかない。そんな脳は不完全な存在だと感じる。

記憶には強く印象に残っていたものは特に覚えているそうだ。

では弱い印象の物はどうだろうか。いつの間にか消えてしまう。

もしかして劣化しないのであれば、容量が足りないから記録の限界値に達したところで無限ループの上書き保存を繰り返しているのだろうか。

そうであれば、俺の脳はすでに記録の限界を迎え、小学生以下の記録の上書きを始めていることになる。下手をすると中学も怪しいかもしれん。

記憶とは何のために存在しているのか。

こう思ったのは、幼なじみと出会ったときの記憶が思い出せない。

幼なじみは一人だったのだろうか。

もし机の引き出しを開けるとタイムマシーンがあるなら、その記憶がどう出会ったのか検証していきたい。

そして、再度記録し容量がある限り、残しておきたい。


そう感じたのは高校二年の夏のこと。

夕食のキーマカリーをナンに付けて食べていたときのことだ。

唐突に父親から幼稚園ぐらいのことを覚えているかと訪ねられた。

普段、昔話ををすることはほとんど無かったから、ちょっと違和感を覚える。

我が家のキーマカリーは、じっくり炒めた玉ねぎと挽肉がたっぷり汁気がないのが特徴。他もみんなそうか。キーマだもんね。

カリー特有のスパイシーな香りが鼻の奥深くを刺激し、鼻がむずかゆく、指で鼻頭をこすりクシャミは防げた。キャベツのコールスローを食べながら考えるフリをして、返答は「うーん、覚えてないかも………」とした。

一口サイズにまでちぎられた最後のナンで、小さな銀色の器に盛られていたキーマカレーの残りをすくい取り、その日の夕食を終える。

キッチンに空の食器を置くと、合宿の準備のため自室へと向かう。

辿り着くとクローゼットからAmazonみたいなロゴの入ったスポーツメーカーのロゴが入ったボストンバックを取り出し、ほぼ一週間分の着替えを詰めながら、先ほどの質問を思い返していたのだ。

実は「覚えていない」のは嘘で「覚えている」といっても、うろ覚えでしかの記憶しかないのが正しい。

俺の家は二人姉弟。文字通り姉がいる。四つ上の姉がいて弟の俺がいる。幼稚園の時は小学生の姉によく引っ付いて、お姉ちゃん先生からひらがなや算数を教わっていた。近所には幼なじみが住んでいて、幼稚園から今の高校まで一緒に進学していった仲だ。お姉ちゃん先生の授業も一緒によく受けていた。幼稚園児が小学校の問題を答えても、できるわけがなく二人は優秀な生徒では無かったかもな。

ここまで覚えていれば上等じゃないかと、感じる人も居るだろうが、問題は幼なじみとの出会いや仲良くなっていった切っ掛けとか、そのほかにもなにか大切なことを思い出せない。

時間の逆行ができるのであれば、まずは身近な自分の過去をきちんと知りたい。

そう思う夏の夜。

俺は雑に荷物をまとめ、合宿のしおりをしまい明日に備えて就寝した。

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