第46話 俺らのそれから
長い夏休みも終わり、学校が始まる九月に入った。
だが、外の気温は相変わらず秋模様には程遠い、真夏日の更新を目指して暑いままだ。そんな二学期登校初日の早朝。俺は生ぬるい部屋でまどろみの中、夏休みの出来事を思い返していたる
高校二年の夏休みは色々なことがあった。
部活の合宿に姉貴と久々の星空観測、そして空から人が舞い降りてきたと思ったら、その人は宇宙人。
別の惑星から来たと。俄かには信じられなかったが、黒服たちに連れ去られてセレスシスさんの持っていた
さらに研究所の西棟には架空の東京の街が作られており、渋谷や秋葉原、池袋を走破した。
そうそう、地上一五〇メートルから縄梯子で宙づりになったこともあったな。
そしてその施設ではセレスシスさんをはじめとして、エレナちゃんにも会ったな。そういえば困ったときに遭遇した不思議なウサギと猫は結局なんだったのだろうか。どちらも今回の救出にヒントをくれた。ありがとうと言っておこう。
苦い思い出は黒服たちだった。俺の家で二人を連れ去られたときは、手も足も出なかった。でもあの後でわかったことだが、黒服さんたちはみな感じのいい人で、親しい関係になった黒服の人もいた。
それよりも驚いたのは空から降ってきた女の子のララは、王家の人間で王位継承順位二位のプリンセスだそうだ。さらに許嫁も来て、えらい騒動になった。
プリンセスといえば、あの小さな妖精のようなエレナちゃんも、どこかの惑星のプリンセスらしい。最初はあまりにも小さいから小学生だと思ってしまったよ。ちびっ子呼ばわりすると怒られるので要注意だ。
要注意人物といえば、セレスシスさんはいまだに謎が多い人物だ。最初の出会いは最悪で、いきなり俺と付き合ってくれとかびっくりさせられたな。セレスシスさんはララと大学が一緒で、寮では同室だったという。
地球も広いが、宇宙はそれ以上にもっと、もっと広いことに気づかされた夏。
俺はまどろみの中で、この夏休みの出来事を思い返していた。
人生でも忘れられない夏休みになっただろう。なのでもう少し思い返すために、もうひと眠りする必要がありそうだ。
「……す……ばる……きて……」
─────カンカンカンカン!
二度寝中の俺は、けたたましい音とともに叩き起こされる。
「何事だよ!こんな早朝に!!」
「何事でもないわよ、朝食ができたから起こしに来てあげたんじゃないの。その時おばさんがこれをもって行きなさいってフライパンとお玉まで渡されたのよ。だからこうして起きれたんじゃないの? 地球の男の子はフライパンとお玉で起きるのね」
フライパンとお玉をララに渡すなんて、何を考えてるんだようちの親は。フライパンとお玉で起こさるのなんて、ライトノベルの主人公が隣に住んでいる幼なじみに、朝起こされる方法ぐらいだろうが。
「しかし、こんなに朝早くから起きてどうする気だ」
「今日は夏休みも終わって、二学期の初日だよ」
「だからそれがどうしたんだよ」
「ほれほれ、見てよこの格好」
そう言うと白いワンピース型のセーラー服に白のオーバーニーを着たララは、一回転して見せた。まぎれもなくうちの高校の女子制服だ。きれいな銀色の髪の毛はハーフツインに巻いてセットも完璧。
二学期から地球の学校に、留学生として通うことになったのだ。
これにはララの母親である女王陛下が、外務省の上嶋さんに託をして、すべてを手配してくれた。もちろん地球外から来ていることの素性を明かすわけにはいかないので、ヨーロッパの某国からの留学生という設定にしている。
ララはほほを少しばかり赤く染め上げ、
「似合ってる……かな」
「似合って……痛っ」
そう言うと恥ずかしかったのかお玉を投げて、俺の部屋から逃げて行った。
全く人の頭にお玉を投げるな。
俺は代り映えのしない男子制服に着替え、投げつけられたお玉をもって、一階へ降りてリビングへと入る。
そこには父に母、珍しく姉貴も居て、ララは着席して食事をつつけていた。
「やっと起きてきたのね。ほらあんたもご飯食べて頂戴。もうすぐ出発よ」
「いつもはあと三〇分はあるだろ。それでも全然余裕で間に合うってば」
お玉を母に返しながら言った。
「何寝ぼけているの、ララちゃんは今日が初日なんだから、職員室に寄る必要があるでしょ一緒に行ってあげなさいね」
すっかり忘れてた。ララは留学生として初日なんだっけな。
「ごめんごめん。すぐ食べるわ。ララ、起こしてくれてありがとな」
「これからもフライパンとお玉で起こしてあげよっか?」
「それだけは勘弁してください。ちゃんと起きますので」
「朝から熱いね。お二人さん」
「そんなんじゃねーよ」
朝からこっぱずかしいことを言いやがって。
──ブォーン。
外に重低音を響かせた車が止まった。あの車の音はセレスシスさんだろうか。
「私は迎えが来たみたいだから、研究所に戻るわ」
姉貴は白衣を着ると颯爽とリビングを後にしようとした瞬間、玄関がけたたましい音とともに開けられドカドカと足音が近づいてきた。リビングの扉が豪快に開けられると
「私のスッバル! おはようデスね!!」
そういい俺に飛びついてきた。柔らかい部分がすごく顔にあたるのですが……。
そんなことはお構いなしにセレスシスさんは俺の頭を撫でた。
ふとララを見ると、不機嫌そうにソーセージを食べている。
だがそれも長くは続かず、姉貴はセレスシスさんの首根っこをつかむと
「ほれセレスシス。私を研究所まで送ってくれるんじゃなかったのか」
「オオそうでした。忘れるところでシタね。名残惜しいですがスッバルまたね」
台風のようにやかましい物体は去って行った。朝も夜もないような人だからな。
──ブン、ブォーン。
車まで重低音だから、本人のこともあって余計にうるささも倍増って感じてしまった。
──ピンポーン
今度は玄関のチャイムが鳴った。
「あっ、美晴ちゃんだ。昴、いつまで食べてるんですか?」
「俺はさっき邪魔されたからな」
その発言でさっきのことを思い出したのか、ララのほっぺがぷーと膨れた。
「ほら行くわよ。初日から遅刻なんて最悪じゃない」
「いやまてまて、あとこれだけ食べさせて……」
名残惜しくカリカリベーコンを残して、俺の腕を引っ張り玄関へと連れていかれる。
「「いってきまーす」」
「ちゃんとララちゃんと美晴ちゃんをエスコートするのよ……あの子、ちゃんとできるかしら」
「まぁ大丈夫だろ、俺の子なんだし」
「だから心配なんですよ」
「…………」
返す言葉のない父。
玄関を出ると美晴も当然ながら制服姿で待っていた。美晴の制服姿も合宿以来久々に見る。
「おはよう。昴にララちゃん。ってララちゃん制服すごくよく似合ってるよ。かわいい」
「ありがとう美晴ちゃん。このボケ昴なんて、何にも言ってくれないんだもの。セレスシスに甘い顔しちゃってさ」
「あっはははは。セレスシスさんも来ていたんだ」
美晴はまたあのひと来ているんだと苦笑いをした。
「じゃあ、学校まで行きましょうか」
「しっかり私達のエスコートを頼むよ。昴君」
「ほいほい。でも、朝飯を食いそびれて力が出ないよ」
「美晴ちゃん、行くよ。ならこれでどうだ」
右腕に美晴、左腕にララと両腕に抱きかかえられ、両手に花状態の昴。
学校の誰かに見つかったら、と思うと刺されないかとゾッとする。
美晴は美晴で意外と人気があり、陰ではファンクラブもあるらしい。幼なじみというだけで、俺はにらまれている状態だし、銀髪美少女のララまで加わったとなったら、本当に命の危険すら感じるぜ。
家から学校までは、ゆっくり歩いて徒歩二〇分程度。途中でさすがに両腕を抑えるのは勘弁してもらいましたよ。
早朝のためか部活の朝練連中とは、何人か会ったぐらいで済み、学校へと到着した。
美晴と職員室への道すら、校内を案内しながら行くと、予定時間ぴったりに職員室へ。
先生にララを託すと、俺と美晴は教室へと行くことになった。
一カ月ぶりの教室は、一学期の終業式と変わり映えもなく、感動もなく自席へ座った。
しばらく座っていたがすることもないので、美晴と喋っていると生徒が徐々に集まりだしてきた。
そこに彼女が欲しいとうるさい東澤直樹も現れ、三人でしゃべることに。
「それで直樹、今年の夏はアバンチュールを楽しんだのか?」
「ンなわけあるかよ。今年も収穫ゼロ。レタスの収穫並みにかわいい子とか、居ないかなぁ」
直樹の家はレタス農家だ。この野辺山周辺ではポピュラーな収穫物になっている。
学校のチャイムが鳴ると、生徒多は一斉に席に戻った。
──ガラガラガラ。
扉が開くとそこには、インテリ系外務省の上嶋が入ってきた。
教室が少々ざわめく。
「佐藤先生は産休のため、今日から代わりに担任になった上嶋だ。よろしく頼む」
これはなんとなく予想できた。ララの護衛担当だろう。職員室を覗いたときに、一部の教師が黒服の一味がい居てたからな。確かに夏休みと同時に担任の佐藤先生は産休に入ったし、ちょうどよかったんだろう。
女子生徒からは小さな黄色い悲鳴が漏れる。見た目はインテリ系イケメンだしな。
中身は俺の姉貴好きの変態だ。と、いうことにしておこう。あの姉貴にぞっこんな時点で変態だろ。
「それから、新しい仲間を紹介する。入ってくれたまえ」
──ガラガラガラ。
男子生徒から野太い歓声が沸き起こる。何せそこら辺の美少女よりも、かわいさで言ったらダントツだろう。確実に学園トップクラスの美少女決定だな。
教台の隣まで来ると自己紹介を始めた。
「今日からここで一緒に勉強をする留学生のフォーダストリアだ」
「ララ・スー・フォーダストリアといいます。長いのでララって呼んでください」
「ビュー、ララちゃん!かわいいー」
クラスのお調子者である直樹が口笛を吹き喚起を上げる。すると周りの男子たちもざわめく。
「こらこら静かにしろ!」
名簿帳を叩きながら男子たちの歓声を止める上嶋。意外と教師とか向いてるんじゃないか。外務省辞めて文部科学省に配置転換したらどうだろうか。
「それから太田と豊岡は、フォーダストリアのことをよく知っているな。後で校内を案内してくれたまえ」
「やっほー。昴に美晴ちゃん。同じクラスになったね」
「これ私語は慎みたまえ」
「はーい、すみません」
その時、俺への男子たちからの不気味で後味の悪い刺さるような視線で超痛い。痛い。呼ばれているのは俺だけじゃないし、美晴へも向けろよその痛い視線。
「席はあそこだ。太田の隣の窓側な」
「はーい」
またしても男子の視線に刺されて痛い。俺の二学期は波乱に満ちていくんだろうな。
ララはゆっくりとこちらに進んでくる。こうして学校で見ていると、いつも見ているララとはなんとなく別人に見えててしまうから、不思議である。
「昴。隣よしくね」
「あぁ、お手柔らかに頼むよ」
なんとなくララから握手を求めてきたので、いまさらと思いつつ握手をしてしまう。
「ホームルームは以上だ」
上嶋先生の一言が終わった瞬間、ララはたくさんのクラスメイト達に囲まれてしまった。
「どこから来たの?」
「髪の毛きれいだね。それって地毛だよね」
「ララちゃんは彼氏とかいるの?」
「肌白くてつやつやだね」
「制服似合っているね。うちの学校で一番似合っているんじゃないの」
「目の色もきれい。さすがは外国人」
「お友達になろうよ」
ララは聖徳太子のごとくたくさんの声をすべて聞き分け、一人づづ丁寧に返答していった。
さすがは王位継承順位二位のプリンセスだ。国民の意見を聞き洩らさず発言しているさまを想像してしまう。
そして俺はというと直樹にヘッドクローを食らわせながら、ララとの関係を永延と尋ねられる始末だ。それなら俺ばっかりじゃなくて美晴にもヘッドクローして聞けってば。
一限目のチャイムが鳴ると、上嶋先生の号令とともに授業が開始された。担当は社会科だそうだ。
俺と美晴とララの学校生活はこれから始まる。
夜空を見上げていたら女の子が降ってきたが、これが天使なのか!? 水瀬真奈美 @marietanyoiko
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