第10話 ララと幼なじみ 三
美晴は荷物を取ってくるといって、三十分ほど家を空けた。
その間、ララと二人ですることもなく、トランプをすることにした。
万物共通してできるカードゲームといえば、無難なところ神経衰弱がいいだろう。バラバラにしたカードの中から同じ数字のペアが出たら持ち札として取り、最後に持ち札が多いほうが勝ちな、単純だけど記憶力を試されるゲームだ。
ララの国にも似たようなゲームがあるとのことで、ルールをすぐに理解してくれた。
コインの裏表で先攻後攻を決める。結果ララが後攻。
先行は何もヒントのない状態からスタートなので、若干不利になる。
俺はランダムにカードを二枚めくった。
スペードの六とハートの十。カードを戻して後攻であるララの番。
悩んで悩んで、端っこのカードを一枚めくった。偶然にもクラブの十。
すかさず俺が開いたハートの十をめくり、二枚のカードはララのもとへ。
「昴。早速二枚手に入れましたよ」
「偶然にしてはすごいな。当てた人はもう一回チャレンジする権利があるんだ」
「さぁ、バンバン当てていきますよ!」
その宣言通り、ララの的中率は半端ない。まるで神が天使に味方しているかのような的中ぶり。
ガンガンカードを取っていき、最後のカードもララのもとへ。
俺の手持ちは十枚。ララは四二枚。完膚なきまでやられ完敗である。
とりあえずビギナーズラックってことにしておく。別に負けず嫌いなわけじゃないぞ。
そうこうしていたら、大量の荷物とともに美晴が戻ってきた。
「おまえその大きな荷物。一体何泊するつもり?」
「ララの目的地が見つかるまで一緒にいるから、とりあえず一週間分持ってきた」
「ありがとうございます。美晴と一緒だとなんだか安心します」
「さいですか」
男の俺よりかはほぼ同年代の女子と一緒のほうが安心だよな。二人はキャッキャッと楽しそう。
美晴は戻ってくると早々「何か変なことされなかった?」とララに聞く始末。
って、俺は野獣じゃないし、たったの三十分ほどで何ができるというのですか晴美君。
時間は夕方。夏とはいえ日が傾いた午後六時過ぎ。
美晴とララは仲良くキッチンで夕食の準備には入った。
俺は暇でしばらくテレビを見ていたが、何もしないのも二人に悪いと感じ、そっと風呂場へ掃除に向かった。
高原の夏でも全く暑くないわけではない。昼間の汗を快適に流すべく風呂掃除を始めた。ララにはきれいな風呂に入ってもらいたいもんな。
湯舟を掃除し、湯を張る。お肌がすべすべになるよう、ミルク状の入浴剤を選択。
無色透明だったお湯が真っ白に染まり、甘い香りが湯舟から立ち上る。
ちなみにこの入浴剤は美晴チョイスな。
女の子の甘い香りは、ずっとシャンプーとかコンディショナーかと思っていたが、入浴剤も関係しているのかも。
俺はそんなことを思いつつ、周りを気にせず湯舟を見つめていた。
「きゃ、美晴は出るところがちゃんと出でいてスタイルいいですね」
「そんなことないよ。ララなんてお肌すべすべで、エステとか通っているの?触っていい?」
「いゃん。美晴どこ触ってるんですか。そこはだめですってば」
「えっへへへへ。よいではないか。よいではないか。ちこをよれ、減るものでもないし」
「お代官様。ご堪忍ください」
「いゃーん、ララってば思っていた通りすごいすべすべ、気持ちいい」
「晴美だめですってば……そこは……らめぇてぇ」
女子トークってやつだな、内容からして健全男子である俺には少々……だいぶ毒だな。なるべく聞かなかったことにしてここを出たいが、下半身がすでに動きづらい……ガチガチに固まってしまった。
まてまて、ここから出るんだよな……。さてと出口は一つ、今更どうやって出よう。
二人の会話や声のボリュームから、すでに脱衣所にいると思われる。
俺は風呂場の中だ。薄い壁を一枚隔てると、美晴とララが着換えをしてる最中の脱衣所がある。
当然一般庶民の家なので、脱衣場を通らずに外に出ることは不可能。
「もう、美晴はいたずらのし過ぎです」
「えっへへへへ。だってララの体は全体的に透き通るような透明感がある白さだし、それに肌がつやつやで、見ているだけでも触りたくなっちゃうんだもん」
「私たち女の子同士ですし……」
「女の子同士だから、できることがあるんだよ。続きはお風呂の中でね。洗いっこしてあげる!」
やばい。入って来る。どうしよう、どうする。ゴーしてタクシーでも呼ぶか?
広くはない洗い場では逃げ場が全くない。
ガチャ
生まれたままの姿をした
ヘブンズドアがゆっくりと開かれようとしている。
もう、だめだ。
「あの、そこにいるのは……昴?」
「えっ、昴?ちっとなんでここにいるの?うそでしょ」
開かれたドアから、天使達の入場とともに冷気が入り浴室の温まった空気と外の冷気がまじりあうことで、一瞬にして浴室内は湯煙に包まれた。
不幸中の幸いとして室内はうっすらとしか認識できないまでになった。
「いや、俺はだな、風呂掃除をして湯舟に湯を張っていたんだ」
「のぞき魔!昴ってそんなに変態だったっけ。テントを張っていたって……最低」
体の凹凸が激しい肌色の影から罵声が聞こえる。これは美晴だな。
「まてまて、誰がテント張っているって言った。湯舟にお湯を張っていただけだから。本当に掃除をしていてだな、二人が入ってきたんだよ」
こんな弁明がどこまで通用するのかわからないが、それは事実。室内の湯気には二人分の肌色をした輪郭が広がる。
よく見えないが、二人とも片手で最低限隠さなくてはならない部分を隠している様だ。
「晴美。私たちも確認をしないで入ってしまったわけですし……その、昴になら少し見られてもいいかもですが。だけど今の昴に直視されると恥ずかしいから、うしろをむいてもらえると……うれしいかな」
体の凹凸は激しくはないものの、各部位が整ったスレンダーな肌色影は答えた。これは天使のララだ。
「だめよララ。変態の手口に引っかかっては!昴は早く目をつぶって出て行って!」
「まてまて、何も見えないと出れないってば」
「うるさい。変態。のぞき魔!」
「とりあえず晴美、お湯に入りましょ。ここなら白いから入ってしまえば見えないし」
「むぅう。それもそうね。昴!絶対にこっち見ないでよ!」
「わかった。だ大丈夫。壁を向いてるから早く入ってくれ」
俺は目をつぶり壁を前に立っていた。
後ろからはかすかに人影が二人分通り過ぎるのを感じた。
ジャポン!スゥー
最初の雑味のある音は美晴かな。
チャポン!スゥー
これは天使なララに違いない。
何もすることもなく余計な妄想だけが無限に広がってしまう。
目を閉じているだけでも音がかすかに敏感になり、ちょっとした音の変化けで判別できるように昴の耳はレベルアップした。
みはるは凹凸がある分、着水音にばらつきが生じる。
しかしララは凹凸が少なスレンダーな体つきから雑味が少なのが特徴だ。
音の聞き分けができる無駄スキル!
二人分の湯舟への着水音を確認すると、すかさず
「もう目をあけていいか」
「いやー、こっち見るな昴。湯舟に背を向けたまま出ていけ!」
「わかったってば、すぐに出るから」
「ごめんね。昴」
「ララ。情けなんて無用。変態には鉄槌を」
「ララに物騒なことを吹き込むなよ」
「乙女の入浴を覗く罪人に人権などない!」
俺は目を開けると、自分の姿が目の前にあるのに気づき「うぁ」と驚いてしまった。
かっ、鏡か。目の前には全身を映せる姿見があり、昴の姿を映し出していた。
その後ろもぼんやりとではあるが、湯船につかる二人分の輪郭が映っている。ぼんやりと輪郭に注力していると凹凸のある輪郭と目が合った。
「あーーーー鏡でのぞくな!!変態す・ば・るーー!!」
美晴は桶を使って湯船の湯を浴びせてきた。しかも桶付きで。
「ぐわぁ、痛てーー」
「すぐに立ち去れ!!」
俺は桶の当たった背中を抑えつつ一目散に出口へと向かった。
パタン
風呂場の扉を閉めても何か風呂場では騒ぎ声がしているが、ビショビショで背中を負傷した俺は、ハンドタオルを片手に脱衣場を退散するしかなかった。
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