第9話 ララと幼なじみ 二
俺は幼なじみの美晴に、空から降ってきたララとの出会いについてを誤解が生まれないように、慎重にかつ丁寧に話した。
百面相ぶりも健在で、抱きかかえた事やテントに泊めた話は、泣きそうになりながらもにらまれた。
しかも空から現れるなんて最初は疑いしかなかった美晴ではあったが、ララと話すことで打ち解けあっていき理解をしめしてくれた。
「さすがに驚いたよ。昴の家に美少女、それも天使級の超絶美少女が居たんだもん」
「はぁ、さいですか」
ララの容姿を天使と連動してしまうとか、そこは俺も同感だが、どちらかというと俺の話よりもララの話を信頼するなんて、実は嫌われていたのかな。
美晴との付き合いは長いだけに、ちょっと俺、ショックかも。
「それでララは、これからどうする?目的地に行くのか。それともその船に一回戻って再度正しい場所に向かうこともできそうだけど」
「それが、
白くてしなやかな指先で、胸元のネックレスを摘まむとこちらに見せてきた。
海よりも深いブルーの宝石には、豪華な金縁で装飾されたネックレス。
この宝石が降下装置だなんてに俄かに信じられない。しかし俺は眩い閃光の中でゆっくりと降下するララの姿を近くで見ている。
今思い返しても夢を見ていたのではないかと考えてしまう。
「だよね。そう簡単ならこんなに悩まないもんね」
船に戻ることができなくても、単純に目的地とやらへ行けばいい話なのだが、ララは一人で一度も来たことがないらしい。
正確に言えば、すごく小さいときに両親に連れられて一度だけ来たことがあるそうだ。
とはいえ小さいころの記憶だけを頼りに、日本中、下手をしたら日本ではないかもしれない目的地を探し回るのはあり得ない。
先日キーマカレーを食べながら、俺も小さいころの記憶を思い返し見たがあいまいだもんな。あれ、なんか引っかかるな。
昔は近所の美晴とよく遊んでいたは思い出だけでなく、なにか忘れてはいけない事がある様な気がする。
「ねえ、ボーとしてないで昴も真剣に考えてよね」
「あぁ、そうだな、住所とか分かれば速攻解決なんだけどなぁ」
「ごめんなさい。荷物は別の降下装置で先に届けてしまいました。住所とか分かるものを身に着けていれば、お二人にご迷惑をお掛けせずに済みましたのに……」
「謝ることなんてないよ。ララは悪くない。昴もそうだよね」
「もちろんさ。最初にも言ったけど、こうして会えたのも何かの縁なわけだし」
シュンとなってしまったララを美晴と励ましていると
ぐー
聞き覚えのあるお腹の鳴る音が小さく鳴った。
俺は美晴にご飯の準備を的な合図するように目をやったが、美晴から「私じゃないよ」的なアピールを受ける。
「すみません。こんな時に……私です」
顔を真っ赤に染めたララがうつむきかげんで答えた。
「ララ。お腹が鳴る音までかわいい!マジ天使みたい。ぎゅぅ」
「ふぎぁ」
晴美はララに抱き着きララから悲鳴が漏れる。
「そう言えば美晴、家に入ってくるなりお昼がどうとか言ってたな」
「あっ、私ってば忘れてた。おばさんに頼まれて、ご飯作りに来たんだったわ」
「なんで家に俺しかいないって知ってたんだ」
「ほれ、スマホにメッセが届いてね。また都内の研究所に行くからって、美晴ちゃんはご飯の支度を頼まれたのでした」
スマホの画面を俺に差出したので見ると、母親からメッセージが美晴に届いていた。
「おい、俺にはアナログメモ書きで、晴美には近代技術で連絡するとか、うちの親はどうなってんだ」
「う~ん、昨日の夜とかちょっちだけ通信障害とかなかった?すぐに収まったけどさ」
メッセージの送信時間を見ると、俺がララと会った直後ぐらいだった。
もしかして、あの降下装置で通信障害になっていたとか?
それなら震源地にいた俺のスマホが機能しなかったから美晴にだけ送ったってわけか。
「それでか、そうなると昨日の夜からうちの親は出かけてんだ」
「家に誰もいないことをいいことに、天使ちゃんを連れ込むとか、幼なじみのあたしが居るのに……」
「なんか言ったか」
最後のほうは声が小さくて聞き取れなかった。
「なんでもなーい。さぁ、ご飯ご飯。なににしようかなぁ」
美晴は慣れた手つきで台所を漁る。
両親が居ないときに美晴がご飯を作りに来るのだ。
俺は別に料理ができないわけではない。だが偏った生活をしないようにと美晴の監守がつている。
何が作れるって、それは鯖みそに鯖の生姜煮、鯖の塩焼き、極めつけはトルコ料理の鯖サンドだ。
美晴から見たら偏った生活に見えるかもしれないが、鯖はディエイチエイやイーピーエイが豊富で、善玉コレステロールを増やすオメガ三系高度不飽和脂肪酸だ含まれている。悪玉退散、善玉カモーンの食材なら多少の偏りも許されるはず。
みんなも鯖を食べて健康になろう。
「昴、鯖はだめよ。よい成分が入っていても偏っている生活は、不健康だもの」
「なぜ、鯖を食べようとしたことがバレていた。エスパーか」
「今までの傾向からなんとなくわかるわよ。どうせ鯖じゃないかって」
「お二人のやり取りを見ていると、心が通じ合っていて夫婦みたいですね」
ララの何気ない一言で、美晴の顔が真っ赤に染まり撃沈されている。
「ただの幼なじみだからね。昴は単純だから行動が読みやすいだけなんだからね。さぁお昼の準備準備!」
捲し立てる様にしゃべると美晴は、キッチンでせっせと昼ご飯の準備に入る。
ララもピンク色のツインテールを揺らしながらちょこちょことキッチンへ向かい「ララも手伝います」と申し出たが、お客さんは座って待っていてと言われて俺のいるソファー席へ戻ってきた。
これからのことを話したが解決策もなく、しばらくこの家で泊まることが決まった。
たとえ警察に今までのいきさつを話したところで、門前払いされると思われる。
下手をしたら変な奴扱いされて、妄想癖が強いとかで強制入院なんてことも考えると警察は頼ることはできないだろう。
思案していると芳しいケチャップの香りがソファー席まで漂ってきた。
今日のお昼はスパゲッティナポリタン。「いただきます」
鮮やかなトマトの赤と酸味のある香りが胃を刺激し消化酵素がドバっと放出して、食材が入ってくるのを今か今かと待っている。しかもナポリタンには目玉焼きがセットされ、半熟黄身がスパゲッティと絡まると、酸味が一層まろやかになる。
さすがは美晴、俺の好み通りの味付けでばっちりと胃袋を握られている感がある。
「スパゲッティナポリタンですね。私も大好きです。私の
「ララに気に入ってもらえてよかったわ。昴なんて最近はおいしいとか言ってくれないんだもん」
倦怠期の夫婦かって。
美晴はすくっと立ち上がり食器を片付けると
「さてと私、これから着替えとか持って来るね」
「なんで美晴が着替えとか持って来るんだよ」
「やだね。ララと二人で泊まるつもり?私も一緒にココに泊まるから」
「ララはともかく美晴は家があるだろ」
「天使みたいな女の子を昴のスケベ星人と一緒にしておけないじゃないの。なので強制だから」
やれやれ美晴は言い出したら聞かないからな。
ララと二人で一つ屋根の下で過ごすのはやや緊張していたからいいか。
だが、お決まりのハプニング的なイベントを期待していた俺からしたら、ちょっとがっくりかもしれない。
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