第33話 軟禁場所での出来事

「セレスシス。何一人で騒いでいるんですか」

そのとき巻きバスタオル一枚姿でララがリビングに入っていきた。

「お二人は誰ですか。セレスシス……見るからに警備員では無さそうですね」

「俺だよ。昴だよ。助けに来たんだ」

「ス・バ・ル? でも昴は女の子ではありませんから……」

そうか、今は礼香先輩の姿のままなのを忘れていた。これではララにはわかるまい。

「ちょっと待っていろ。直ぐに変身を解いて来るから」

俺はリビングから出ると、変身を解く準備を始め、強く強く念じた。

『元の姿になれ、元の太田昴の体に戻れ!』

礼香先輩の身体が光り出すと元の体に徐々に元の体に戻っていく。

玄関付近にある姿見の前でクルクル回りながら、元の自分に戻った事を確認した。

リビングに戻るとララだけが慌てていた。

「さっきの女の人が昴で? 昴は女の人になっていた?」

「これは私が昴に渡した変身球メタモパンタシアンを使って変身していたんだよ」

「変身? なるほど、だから昴が女の人になっていたんですね」

ポンと手を打つと、納得したララは安堵した。

それと同時に体に巻き透けていたバスタオルがスポっっと床に落ちた。

「「あらま」」

セレスシスさんとエレナちゃんはつぶやいた。

服を着ているときにはよくわからなかったが、出るとこは出ている下着姿のララが呆然と立ち尽くしている。

俺は目の前で起きてしまったことに戸惑いながらも、つい見てはならない部分を見てしまう。

カラーリングは上下が水色にセットさせており、フリルをふんだんに使用したデザインだ。

そこまで確認すると、ララの顔色が変わる瞬間と同時に、体を明後日の方向に向けた。

ララは素早く床に落ちたバスタオルを拾い上げ身体に巻き付けた。

「見たよね」

「いや。一瞬だったからよくは覚えていません」

俺は唾をごくんと飲み干した。

事故ではあるが見られたララはあたふたしている。

「本当に見ていないから、安心してくれ」

「あれは事故だと思うよ。本当かどうかわからナイけど本人も見てないった言ってるカラさ」

少々泥を乗せた状態の助け舟を出してくれるセレスシスさん。

余計な泥は入れたくないんだけどな……。

「はいはい、昴は見ていたかは知らないけど、エレナちゃんはバッチリ見たよ。水色の上下の下着姿だったね」

すでに泥が乗っている船に上乗せで泥を乗せて沈ませ気か。このエレナちゃんは!

「レースがいっぱいで可愛かったよ。どこで買ったの」

ニヤニヤしながらエレナちゃんは質問している。

この小娘は完全に泥まみれにして沈没させにくるな。

「昴。ごめん。ちょっと席を外してくれるかな」

「おおぉ」

ララはいつもよりも怒りのこもった声色で話しかけてきたので、急いでリビングルームを後にちてベランダに出た。

すぐさま、セレスシスさんとエレナちゃんはごめんなのポーズをしながらカーテンを閉めた。

泥舟を沈めたのはお二人ですからね。

自宅でタバコが吸えない螢族はこんな感じなのかと思いつつ、しばらくベランダから秋葉原の街を眺めていた。

いつもは見ることのない景色に感動しつつ待った。

中ではキャキャと女子トークが繰り広げられている。なんか楽しそう。ここは景色はいいけどなんか寂しい。

約一五分程で閉ざされていたカーテンは開かれた。

「「オープン!」」

「さあ愛しのララのおめかしは完了シタよ」

「セレスシスやめてちょうだい、そんなんじゃないんだから……昴だって迷惑だよ」

「俺はそんなことないよ……それに可愛いと思う」

ララはツートーンの薄いグリーンのパフスリーブフラップを着ていた。腰にある大きなリボンが特徴的だ。

とても似合っている。

俺とララは顔を赤らめてお互いを直視できない。

「はいはいはい、青春はこの後たっぷりしてもらうとして、君たち二人は私たちを助けにきたわけだよね」

手をたたき、セレスシスは部屋に漂う甘っとろい空気をかき消した。

「私は成り行きで来ただけだからね。助け出したいのは昴だからね」

「エレナちゃんには本当に助けられました。彼女がいなかったらこの女子寮すらわからなかった」

「正直に昴がここまで来れるなんてわからなかったよ。エレナありがとう」

「それよりもセレスシスがなんでまた、入管くろふくなんかに捕まってるのさ」

「それが成り行きでさ」

「ごめんなさい。私が密入国したからなんです」

「密入国? あなたが? そうなことしなくても普通じゃないかもしれないけど、大抵入国出来るでしょう」

俺はエレナちゃんが言っていることがわからなかった。

ララは確かに宇宙船と途中から抜け出した身。平たく密入国といえばそうなのかもしれない。

だが、地球への入管が簡単にできるのであれば、なぜ途中下車したのか。

「まぁ人には言えない事情だってアルさ」

ララが不法入国した理由をちゃんと聞いていない。

黒服の警備員がたくさんつくわけだし、家柄もそれなりなんだろうな。

俺はララのことを何も知らないことに気付かされる。

何の為にララを助けないといけないのか。そんなこと考えてもみなかっった。

「昴、どうかしたの」

「いや……どうしてララが追われているのか。不法入国したからじゃないからではなく別の理由があるんじゃないかって」

「あぁはっははは、そんなことないよ。不法入国は立派な犯罪だしな、それで捕まっタンだよ」

「セレスシスさんは事情を何か知ってるんじゃないの」

「…………私の口から話せることはナイさ」

セレスシスさんはこれ以上話す気はないようだ。

「ララを助ける為にはララのことも教えて欲しい」

「私のことを……それを知ったら昴は以前と変わってしまう気がして……」

「もうこれ以上驚くことがあるかよ。空から舞い降りたかと思えば、宇宙人でしかも密入国者だろ。さらには高貴な出身ときた。これ以上驚く事なんてないさ」

本来入国管理局に捕まれば、セレブな寮に軟禁されるはずがない。

それに一階の黒服は『高貴な方』が滞在中とのことだった。セレスシスさんやエレナちゃんは、既に滞在中だったことを考えれば、ララはこそが高貴な滞在者になる。

そんなに高貴な方だあれば、ここを脱出したところで何も解決にならない。本題を解決しなくてはなた黒服たちに捕まってしまう。

「話したくないこともあるだろう。でも本当にララの力になりたい」

「私だって惑星じこくに帰ればそれなりにララほどではナイにしろ高貴な出なデスのよ」

「エレナちゃんだって本来であれば黒服にガードされたいる身分なんだけとなぁ」

「俺は普通の地球人だが、姉は他の惑星で留学までした彩星は天文学ではトップクラスだし、両親も天文学ではそれなりに名の知れた人だ。何とか頼んでみる」

「──みんな、ありがとう」

ララは目に涙を溜めて泣くのを堪えている。

「昴! お前のセイでしんみりしちゃったじゃないか!!」

「セレスシスさん、俺のせいですか?」

「ララ。もう一人じゃない。君にはこれだけの仲間がイルんだ。そろそろ話してもいいんじゃないか」

そう言われるとララは涙を拭いだ。

「そうですね。クヨクヨしてばかりいられませんね」

「実は私が国を出たのは、親の決め手相手と結婚させられそうになったからです」

「政略結婚か」

「はい。でも私には決めた相手が既にいるんです。この地球に」

「なっ、何だって!」

「話せば長くなるのですが、私が小さい頃に地球に数日間滞在することがあったんです」

「おぉなんか良イネ。幼少期の想い出なんてさ」

「セレスシスは少し静かにできないのかな」

「ちびっ子はっシンデレラでも読んでなさいよ」

「エレナちゃんをちびっ子呼ばわりとは許せないわね」

セレスシスさんとえれなちゃんは向かい合わせになってバチバチとやっている。

小学生が大学生相手に噛み付いている構図は、何処となく不思議な感覚だったりするが、エレナちゃんが本気になるほど、面白くも見えてきた。

「二人がヒートアップしてどうする。今はララの幼少にの話が先決だ」

「そうでしたね」

「ある家に滞在したの、そこにはお姉さんと同い年の男の子も居たわ」

「その男の子とは毎日、毎日遊んだわ。鬼ごっこしたり、お絵描きしたり、おままごとしたり……」

「それでそれで、その男の子とはどうなったんですか」

前のめりになるエレナちゃん、こういう恋愛話は好きそうだ。

「うんある日、一人でいたら近所の子にこの銀色の髪の毛のことで揶揄われていたの。地球の日本では珍しいもんね」

「許セン。ララの銀髪は一級品の輝きだというのに成敗してくれるわ!」

「落ち着いてセレスシスさん過去のことだから、重力刃ブラビティソードを出そうとしないでよ」

必死で宥めるエレナちゃんのことだから、重力刃ブラビティソードはヤバいもんなんだろうな。

「そうです。刃を納めないと続きを話しませんよ」

「すまない。我を忘れかけるところだった。話の続きをどうぞ」

「それでね、いつもの男の子が庇ってくれたの。そしてこの銀色の髪の毛をとても綺麗で好きだって言ってくれたの」

言い終わると両手で顔を隠しながらほをピンク色に染めて照れている。

なんて可愛いい仕草なんだ、惚れてまうやろ!

だが女子陣はちょいと厳しめだった。

「髪の毛を誉められただけ?」

「はいそうです」

「結婚しようとか。将来の約束は?」

「いいえ、そこまではしていませんが、思いは伝わっているはずです」

「「甘い!約束はちゃんとしないとダメだよ」」

ビシッと二人からダメ出しを受けるララ。

「それじゃ片思イヤんか」

「今回はセレスシスの言うとおりだわ、約束して初めて両思いになるんだから」

「ふぇぇぇんごめんなさい。好きって言われたことなかったので、その時は舞い上がってしまいました」

半べそになりながらもがらも力説する。

その気持ちは分からなくもない。『好き』は特別な言葉だと俺も感じるし、はじめて言われた時はとても新鮮でセンセーショナルだったに違いない。

とはいえララに特別な感情を抱く人がいると考えただけで、俺の胸をギュッと握り締められた感情を感じずにはいられなかった。

確かにララは可愛いいし、好みのタイプではあるが、知り合ったばかりの宇宙人であり、高貴な出身らしいじゃないか。俺なんかとは釣り合わないだげでなく、幼い頃に出会ったララの大切な思い人ではない。

そんな真実を知ったからと言って、ララを救出しないわけにはいかない。

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