第17話 黒服たちの襲来
各自出発の準備が整い、いざアルパカ牧場へもふもふしに行くことになった。
ララは望みが叶いウキウキ状態。
しかしセレスシスさんだけは、いつもよりも険しい表情しており、一抹の不安を感じる。
そして予感は的中した。
家を出ると空には太陽が出ているはずの時間なのに、辺りは夜になっていた。
星々のない夜は、黒々として夏なのに寒さすら感じる。
変化は空だけでない、家の周りは塀があり、近所の家の屋根が見えているはずなのに虚空の白い大草原が広がっていた。
「なっ、なんなんだここは?」
「──入管の登場デスね」
セルシスさんが言うと同時に、黒塗りの車が複数台、俺たちの前で止まった。
とても高そうな黒塗りの国産高級車。
止まると同時に一斉に降りて来たのは、黒いサングラスにダークスーツ、白シャツ、黒ネクタイと白黒ツートンに統一された一団だ。
黒服集団は俺らを瞬時に囲む。
一番最後に降りた黒服の人物が、こちらに歩み寄りながら語り掛ける。
「ララ様ですね」
「……はい」
「我々は地球の入国管理局です。
「ええ、そうです」
「見た所怪我もなくご無事で良かった。地球中を探索しましたよ。何事もなく何よりです」
黒服のリーダー格の人物は、サングラスからすべての表情は読み取れないが、ホッとしたように微笑む。
「さぁ、我々と来てもらいます。それと隣にいらっしゃるセレスシス様も」
「ちょっと待った。ララやセレスシスさんを渡すわけにはいかない」
「っん?あなたは確か、太田昴君ですね。ララ様を保護していたことは感謝いたしますが、これから先は我々に従ってもらいます」
「ララをどうするつもりだ」
「どうする、とは?君には関係ないことだ。それとどこまで知っているかわからないが、このことは一切口外しないことだ」
「脅しているのか」
「そうだ。太田博士夫妻のご子息であっても、
「んっ?父と母を知っているのか」
「太田博士夫妻は存じているが、子供のきみには関係のないこと。これ以上、
俺は咄嗟にララの手を握った。いつもはあたたかかったララの手は、血の気が引いたように冷たかった。
「ララ。逃げるぞ!」
「えっ、逃げるってどうやって」
「わかんないけど、この場にいたら連れていかれるぞ。だから逃げる」
「うん」
勝ち目のない相手に勝負を挑んでも意味がない。まずは逃げて策を考える。
虚空の空間に残されているのは、俺の家だけだ。一旦家の中に避難する。そして籠城して、策を練るしか今は思い浮かばない。
この不思議な空間は、他の惑星の技術で生み出された架空の空間だろう。
本当の世界に戻る方法だってあるはずだ。
俺は地面の白い砂を取り、家の前にいた黒服に投げつけた。
先ほどまでスキのない黒服ではあったが、目を砂からガードしたことで、スキが生まれた。
家に入るなら今だ。
「みなん家に逃げるぞ!」
そう発したとたん、俺の視界は光に包まれたかと思うと辺りが揺らいだ。家がブレて見える。
足がおぼつかなくなり、よろめきだした。いったい何が起きたのか自分でもわからない。
後ろを見ると、ララや美晴までもがブレている。
「昴どうしたの?」
立っているのもやっとだ。
さらに目蓋が急激に重くなる。
何眠くなっているんだ。起きろ。起きろ。立ち上がれ。
今ここで落ちるわけにはいかない。立ち上がるんだ。
そう言い聞かせ、かろうじて立っている状態だ。
「大丈夫なの昴!」
「いっ……たい……なにを……したんだ」
さらに二本の閃光が走る。
「すば……る」
ララとセレスシスさんが崩れる様に倒れた。
「みななに何をしたのよ!」
「ラ……ララ……みはる……きをつけろ」
再度、閃光が走る。
「きゃ」
「みは……る……」
俺は完全に気を失った。
意識が戻った時には見慣れた天井が見えた。ここはリビングだ。ソファーの上に寝ていた。辺りは薄暗い。
頭がクラクラする。
あれからどれぐらい時間がたったのだろうか。
額には湿ったタオルが置かれていた。
「よかった。よかったよ。気がついた」
美晴が涙目で俺を見つめていた。
「俺はいつの間に寝ていたんだ……今は何時だ」
「ぐっすん……もう朝の五時を過ぎた所……今まで
ほぼ一日中寝ていたのか。眠らされたのはあの閃光かな。思い返しても一瞬の出来事であった。そうだ
「ララ?セレスシスさんは?……二人はどこにいる」
「二人とも入国管理局に連れていかれた……私も戦ったんだけど……合気道とか空手は全然ダメで。みんなすごく強かった。ぐすん」
美晴は耐えきれず泣き出してしまった。
「ぐっすん。あのね。ひっく。ひっ光を見ないように目を瞑っていれば大丈夫だってわかったから、さっ避けながら戦ったんだけど……くすん」
「美晴はよくやってくれた。俺なんて最初にやられちまったしな」
美晴の頭を撫でてあげた。
一人で心細かっただろうに、俺が倒れた後も必死でララたちを連れていかれないように戦ってくれたんだ。それに比べて俺は情けない。
「美晴、ありがとう」
しばらく泣いていた美晴ではあったが、ある程度泣いたところで落ち着いてきた。
だいぶ泣いたので喉が渇いて、美晴がお茶を入れてくれた。
お茶をいただきつつ、先ほどの出来事を思い返してみた。
「俺の判断が甘かった。セレスシスさんがここを突き止めていた時点で、
「昴は悪くない。できることをやっていたよ」
「それに入国管理局って何者なの?私の合気道なんてまったく歯が立たなかったし」
他の惑星から来た人物を取り締まるから、武術にも優れた人が居てもおかしくない。
それに今回は美晴への対策をしていたに違いない。
「昨日のチンピラを覚えているか」
「安っぽい感じの人たちだよね……まさかあれも入国管理局の人?」
「今日の服装はチンピラ風ではなかったが、車の運転手が昨日のチンピラに似ていた……」
「うそ。じゃあ、昨日の時点で私たちの行動はバレていたの」
恐らくそうだろう。人の多い観光地に今日のような黒服が彼女たちを囲んだら、それなりに話題になってしまう。
「ナンパを装って連れ出せば、少しは目立たないからな」
「あの光は何なんだ。ピカって光った途端眠くなってしまった」
「あの人たちが言っていた。催眠シグナルだって、落ち着いてもらうために眠らせただけだから安心してくれって」
「催眠シグナル……」
地球で作られた技術でなさそうだ。
そんなものを使われては、太刀打ちできないわけだ。とは言え最初にやられるなんて本当に面目ない。
「これからどうしようか」
美晴の声は恐怖からなのか震えていた。
「大丈夫だ。きっとひどいことはされていないだろう」
「本当に?」
「あぁ、なんとなくだけど、
「確かにリーダーぽい人は、ララ様って言っていたよね。それに車に乗せるときも慎重に運んでいたわ」
「それにあの車。どこかで見覚えがあるような……」
「えー、あんな黒い車なんていっぱい走っている気がするけどな」
「いや、あれは高級車だったよ。だからそこら辺を走っていないさ。それにこんな田舎になんて……電波天文台」
「電波天文台?合宿で行ったところだよね」
「帰りに見たんだよ美晴。黒塗りの高級車をさ」
宇宙人であるセレスシスさんがあそこで研究をしていた。さらに宇宙留学をした俺の姉貴もあそこで研究をしている。
このエリアで一番宇宙との接点が濃密な場所だ。
あの電波天文台は、有刺鉄線のほかにも対人センサーやら警備が厳重だったし、ただの研究所には似つかわしくない。
入国管理局もかかわりのある宇宙に関連した施設だとしたら、その説明がつく。
───チュン、チュンチュン
外は夜が完全に明け、太陽光がリビングに差し込んできた。
夜が明けたことだし、早速行動を開始するか。
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