第16話 女三人寄ればなんとやら

──翌朝。

布団の中ががいつもより暑く感じて少し目を覚ました。

なんでこんなに暑いんだ。それにいつもよりベッドが狭く感じられた。

「んっ……」

覚醒していない脳ではあるが、なにか別の物体を隣に感じていた。

ぼんやりとしながら、恐る恐る手で物体を確かめる。

「んんっ、あぁ……ん」

物体を触るとやけに柔らかく、温かみがある。いつもより布団が暑い理由はこの物体の熱源によるものだろう。もつと触ってみることにした。

「あぁん……ふっ……にゃん」

なんだろうこの柔らかい感触は、不快感が全く感じられず、むしろずっと触っていたい衝動に駆られる。それに触るたびに漏れる物体の鳴き声と思わしき色っぽい音声はなんだ。

それにしても不思議な柔らかさだ。触っていると突起物らしきものを発見した。

手の甲あたりにあたる突起は、さきほどまでは柔らかい物であったが、次第に形を変えていった。

俺はいったい何を触っているのだろうか。

なんとも心地よい柔らかさだろう。もっとムニムニしてみた。

するとどうであろう

「ス・バ・ル……らめぇ、そこばっかり……でも……もっと……して」 

この声はセレスシスさん?

なぜ布団の中の柔らか物体から、セレスシスさんの声が聞こえるんだ。

脳の覚醒が完璧でないため、演算処理が追い付かない。

パタン!

激しく扉の開く音とともに、美晴のけたたましい声が響いた。

「セレスシスさん!!ここで何しているんですか?」

俺は美晴の一言でようやく気付いた。隣の物体がセルシスさんでセあることに。

そして触っていた柔らかい物体は、セレスシスさんの豊満な胸であった。なるほど心地よいわけだ。なっとくなっとく……。納得している場合ではない、俺の布団の中にセレスシスさんが居たということだ。

脳の完全覚醒とともに演算処理速度が徐々に戻り、マルチタスク処理にも対応できた時にはすでに遅し、美晴によって掛布団がはがされていた。

「もぉぉぉぉぉぉぉぉぉ、何しているのよ二人とも!!!」

美晴の叫び声が部屋を通り越し、外にも聞こえんばかりに響き渡る。

「オー、私ッタラ酔ッテイテ、部屋ヲ間違エテシマッタデスね」

俺の部屋にいた理由をわざとらしく述べるセレスシスさんに美晴は吠える、吠える。

「どうやったら間違えるんですか?」「誰かが寝ていたらおかしいと思うでしょ?」「ワザとしていませんか?ってかしていますよね」

美晴の質問ラッシュにも動じないセレスシスさんは、次第にニタニタ顔で答えた。

「間違えてしまったことは謝りますが、どうして美晴がそんなに怒るのデスか?」

「そっそれは……昴の幼なじみとして……」

「ふーん、幼なじみダカラ?」

「そうよ。幼なじみだから、昴の不健全交友を取り締まる義務があるの」

「私は昴に恋愛対象として見てもらえるように、愛の告白も済んでマス」

「あぐっ」

「それはそうと、私の抱き心地は最高だったデショウ。ねぇスバル」

なんとも答えにくい質問をしてくるセレスシスさん。美晴の視線が突き刺さるように痛い。

「みなさん朝から何を騒いでいるんですか?」

騒ぎを聞きつけてララも登場。

「ララ。ちょうどいいところに、とりあえずみなん落ち着こう」

「だいたいセレスシスさんがスバルの部屋で寝る必要はないんです」

「愛するものと床をともにするのは悪いコト?」

「そっそんなの不潔です。だめです今の昴にはまだ早いと思います」

「ララってば、早いっていつだったらオーケーになるのかな」

「なぁ、まずは落ち着こうよ……」

「とりあえずセレスシスさんは、昴から離れてください」

「男女が一緒に床をするのは、けっ結婚をしてからでもいいのです」

「おおーい、聞いてるかなぁ……」

「結婚を前提にしているなら愛をしっかり確かめないと、逃げちゃうかもしれないデスよ」

「うぅ、でもでもでもでもでも、やっぱり愛しているなら、愛は裏切らないと思います」

「早く昴から離れてってば!」

「うだぁーーーーーーーーもう、着替えるからみんな俺の部屋から出てってくれ!!」

俺の悲痛な叫びがこだまする。


その後は俺の叫びとともに一同退散してくれた。

着換えを済ませて一階のリビングに降りると、すでに朝食が用意されていた。

本日のメニューは、とろーりチーズのホットサンドにスクランブルエッグ、ウインナーとコーヒーである。

セレスシスさんは俺の隣をキープするのを忘れない。

だからなのか昨日と違って、空気が若干重いように感じられる。

「スバル、ほら口を開けて、あーんダヨ」

「セレスシスさん、昴が嫌がっているじゃありませんか。すぐに止めてください。玄関はあちらですよ。出て行ってください」

「先ほど昴に怒られたばかりではありませんか。セレスシス止めましょう」

「嫌がってなイサ、ねっスバル」

「いえ、自分で食べられますから」

俺はさらっと拒否をしておく。

「もう照れチャッテ」

「照れとかそういうのじゃありませんので」

セレスシスさんのあーん攻撃を妨害するため、ホットサンドを常に頬張っておく。

「あの……ところで今日ですが、昨日言っていたアルパカ牧場とやらが気になるのですが……」

ララはもじもじしながら発言をする。そんな恥らしい姿も天使みたいにかわいい。

惑星が違うとはいえ、同じ宇宙人のセレスシスさんとはえらい違いだ。

「アルパカはね。もふもふしていてかわいいよ」

「えっと、羊のもふもふとは違うのでしょうか」

「もふもふ感はほとんど一緒だけど、首が長くてつぶらな瞳がかわいいの」

「そもそもララはお尋ね者の身だから、そんなに出歩いても大丈夫なワケ」

俺に餌付けを拒否されたウインナーを頬張りながら、セレスシスさんの正論が飛ぶ。

確かに入国管理局から追われていると、セレスシスさんも言っていたな。

恐らくそれだけでなく、ララの星の使者からもそうであろう。

その中でのんきに観光を楽しんでよいのかと言えば、良いわけがない。

「ララ、残念だけど今日は様子を見たほうがいいんじゃないか。入国管理局だけでなく、ララの星の使者も、もしかしたら月から地球に来ているかもしれない」


「昨日聞きそびれたんですが、二人ってどんな関係なんですか。友人とか」

「私とセレスシスは、ラタトゥーイという惑星の大学の寄宿舎で一緒だったんです。もちろん大切な友人の一人です」

「ララって、こう見えても飛び級してる秀才なんだよ」

またまた知らない惑星の名前が出てきて、広大な話になってきたぞ。

「ちなみにラタトゥーイってどんな惑星?」

「そうですね。宇宙的規模で教育機関がとても優れています。施設や教員も一流ですし、各惑星の士族のが多く学びに訪れている平和でいい星でした」

「ちなみに地球ってどうなのかな」

「ええっと……言いにくいのですが、一番遅れているのが地球ですかね」

あぁ、やっぱり。そうだよな、他の惑星では惑星間の有人旅行が頻繁に行われているのに、地球は未だに宇宙ステーションだの無人探査機を飛ばしているぐらいだし。

ん。待てよ。ララの話では、月から地球へは空港を利用しているんだよな。地球の各国は宇宙人を受け入れているのか。

「地球って宇宙人が結構来ているの?」

「そうですね。地球行きの定期便も出でいるぐらいですから、旅行先としてそれなりに人気がありますよ」

「なんか信じられない」

「気づいていないのは、地球人ぐらいデスよ。宇宙人同士にはそれとなしにわかってしまうのです」

「セレスシスさんが俺の家にいたのも、宇宙人的な何かで」

「ララの荷物は私のところに届いてマシた。そしたら、リンク機能を発動したので逆端をしてココを突き止めたのデスよ。さすがに勘とかで探ることはできませんカラね」

宇宙人だからテレパシーぐらいできるのかと思っていたが、さすがにそんなわけないか。

「ねぇ。地球ってほかの惑星の技術を全然使わないのは、どうしてなんだろうね」

美晴が思うのは当然だ。宇宙人との交流がこんなに頻繁に行われているなら、最新技術を導入してしまえば、無人探査なんて無駄なことをしなくて済むのに。

「それはアレですね。一九四七年の事件で地球規模の大騒ぎになったためらしいよ」

一九四七年?ってロズウェル事件のことかな。宇宙船らしきものが墜落して、アメリカ軍が隠蔽したっていう。

「私も聞いたことがあります。そのことをきっかけに各惑星との地球不可侵条約を結んだとか。そのため他の惑星の技術だけだけでなく地球人に干渉しない決まりができたのだとか」

「ただしその代わりとして、自由に旅行に訪れることは許可されたのか」

「おっしゃる通りです。そのため定期便の航路も開けましたが、地球への直行ではなく、一旦地球の衛星である月にて入国審査が行われているの」

「ララは途中下車して、入国審査をパスしてしまいマシタがね」

「うぐっ、それは言わないでよセレスシス……」

痛いところを突かれてグーの手も出ないララ。

「おかげでなんとなく背景が見えてきた。宇宙か。地球不可侵条約とかなければ、最新技術を導入して宇宙へ行けたかと思うと悔しいな」

「決して悪い判断ではありませんよ。おかげで急激な発展を防げましたので、地球環境は守られていますし。実は急激な発展のせいで、環境変化に惑星が付いていけずに消滅してしまった惑星もあるんですよ」

「それを聞くと悪くない条約だな。だけど宇宙旅行には行ってみたいな」

「できなくはないかもしれませんね。毎年留学生を募集していたような記憶があります。地球からも多数参加者が居ましたし」

「彩星もその一人デスね」

「俺の姉が!?」

「半年ほどの短い期間ではありまシタが、私たちと一緒に大学にいマシたよ」

「姉貴が留学で宇宙へ行っていたのか。そうかだから連絡が全くできないときがあったのか。謎解けたわ」

俺の知らないところで、姉貴はちゃんと夢を叶えていたんだ。宇宙へ行く。さらに宇宙留学まで果たしてしまうなんてすごいや。

「なんとなく話もまとまったところで、今日はアルパカ牧場に行けるのでしょうか」

ララは完全にあきらめた様子はなく、目をキラキラさせて訴えてくる。

よっぽど昨日触った羊のふわふわが気に入ったらしい。

しかし、セレスシスさんが言う入国管理局の存在が気になる。

血眼になって探している情報がすでにこのエリアにも

「危険ね。留まったほうがいいデスね」

「大丈夫だってばセレスシス。日本は人一人を探すのにはそれなりに広いんでしょ。」

「そうデスけど、地球の入国管理局を甘く見ないほうがいいデス」

「その入国管理局とやらは地球人が運営しているんだろ」

「確かにここは地球の領土であり、地球人が管理監督していますが、諸惑星からの脅威に対抗できる術は備えていマスから……」

「その時は私の昨日みたいに私の合気道を炸裂させるわ」

入国管理局の存在は気になるが、彼らがすでにここを突き止めているなら、もう襲撃されてもいいだろう。ただ家に籠っておびえていても始まらないし、地球を楽しみにしていたララにはもっと我々の星を知ってもらいたいしね。

セレスシスさんの忠告もあったが、俺たちはララの希望通りアルパカ牧場へ行くことを決めた。

嫌な予感がするからとセレスシスさんからビー玉サイズの球体を預かった。

ララが持っていた球体とほぼ同じ感じだが、機能が違うとのことだ。

使い方はいたって簡単。したいことを球体に向かって念ずるだけとのことだ。それ以上のことは教えてくれなかった。

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