第27話 この街《西棟》で二人を探せ 一

今までの経緯を不思議少女……もといエレナちゃんに、セレスシスさんの持っていた自身を好きなものに変身のできる変身球メタモパンタシアンを使用して、西棟へ潜入していたことを話した。

「面白そうね。ならエレナちゃんが、付き合ってあげてもいいわ」

「それは助かる。西棟やこの不思議な渋谷の街のことも全然わからないし、ガイドしてくれるとうれしいな」

「ガイドじゃなくて、お付き合いをしてあげるって言っているの」

「お付き合い?」

「だ・か・ら、お付き合いって言ったら男女のアレだよ……女の子にどこまで言わせるの!」

大阪の漫才コンビよろしく並みにめちゃくちゃ背中をどつかれて、俺は三メートルほど吹き飛ばされてしまった。

「ごめんね……手加減するの忘れてたわ」

てへって舌を出してあざとかわいい顔をする。

「私の惑星くに地球こことの重力の違いで、力の加減が難しいの」

「とても小学生の力とは思えない」

背中の痛みをこらえつつ立ち上がる。

「失礼ね。私は中学生。一五歳なんだからね」

見た目はは小さいから小学生だと思っていたが、見た目以上に年が近かったことに驚きを隠せない。

「こう見えても、私の惑星くにでは平均的な身長なんだけどなぁ」

なるほど小柄で怪力としては、ファンタジーに登場するドワーフを連想せざる得ない。ドワーフのエレナちゃんとか言ったら、なんとなく三メートル以上はドツかれてしまうので黙っておく。

いかんいかん。話がずれてきている。

「話は戻すが、本当にここは西棟の中なんだな」

「そうだよ。西棟の中で間違いないね。けど、普通の空間とは違うからだだっ広く見えるだけ」

「なんだよそれ。いまいち付いていけないんだけど」

「説明すると超絶長いから、西棟の中に極薄空間を用意して街を作ったって言えばいいかしら」

「極薄空間?」

「いわゆるディラックの海ってやつね」

「なんだそれ」

「簡単に言えば厚さ一から三ナノメートルの薄い空間を作って、その中に渋谷の街を作ったってこと」

「まてまてまて……ナノメートって、1ミリにも満たない厚さの空間の中に、俺たちは今いるのか」

「そうそう、地球の技術では不可能でも、ミルケン星の技術を使えばサクッと作れるわ」

出たな。これも宇宙の最新技術なんだろな。

「地球人には理解できん。それは虚数空間きょすうくうかんなのか」

「虚数空間? いい線を言っているけど、うーんとそれとはちょっと違うかな」

「虚数空間は無数の可能性を表すことができるけど、このディラックの海は完全なる無なの」

「無? なにもないのか」

「そうねある程度の立ち入れる場所に制御をかけているけど、完全なる無の世界。だからもし、立ち入りの制限をかけてていない場合、だれもが迷子になっちゃうわ」

「迷子の子猫ちゃんになったらどうなるんだ」

「犬のおまわりさんでもいれば別だけど、ディラックの海にそんなもんは存在しないから、永遠にさまよい続けることになるわ」

怖すぎるそんな危険なものをこの地球上に構築していたのか。

「永遠の迷子はやだな……」

「本当に永遠だよ、時間間隔も無だから、年を取ることもなければ、昼も夜もない。完全なる無の世界。だから頭がショートするか、自害するしかないわね」

「まじかよ。そんな危険な場所に今いるってわけか?」

「ノーノー。さっきも言ったけど、立入りを制限しているって言ったでしょ。ここの場所は無であっても完全な無ではない」

俺は挙手をして教えを乞うことにした。

「…………先生、いまいちわかりません」

「うむ。それでよろしい」

最初は冗談めいた顔つきであったが、腕組をしたエレナちゃんは真面目な顔で答えてくれた。

「簡単に言えばミルケン星の技術によって、無の空間を制御することに成功したって思えばいいの。それ以上の領域に踏み込むと、宇宙特許侵害で暗殺されるわよ」

「暗殺って物騒な……」

「あら、嘘は言ってないわ。これはミルケン星の特許技術だもの。例え技術力の遅れている地球人が解き明かそうものなら、殺されても仕方なくない」

あっけらかんと答えられる。

「先生、わかりました。この空間はミルケン星の素晴らしい技術で作られた、渋谷の街ってことで分かりました」

「うんうん。素直でよろしい」

小学生体系の女の子に頭をナデナデされてしまった。なんとも情けない光景だろう。

「話を本題に戻したいのだが、いいか」

「この街のことが知りたかっただけじゃなかったっけ」

「それもそうなんだけど、二人の人を探しているんだ」

「あー、そういえばそんなこと言ってたよね。ほんとに忘れてたわ」

「でさ、どこに居るか知らないかな」

「そうね。見当はつくけど、そこにいる確証はないわ」

「俺だけじゃ不思議な渋谷をさまようしかできない。だから知恵を貸してほしい」

「二人は恐らくVIP待遇だろうから、渋谷ヒカリエのオフィスフロアーが怪しいけど、そこは限りなくフェイクね」

ご機嫌にウィンクして答えるエレナちゃん。

「なんで二人がVIP待遇かは知らないが、そのぐらいの権力者を匿うなら、やはり最新施設はありなんじゃないか」

「そう思わせて、意外な場所ってあるものよ」

ディラックの海の中ならば、もっと秘密裏に隠せる空間を作り出せるのだろう。

「では昴に質問です。ここの渋谷にあって、本物の渋谷にないものは何でしょうか?」

「俺は渋谷民ではないから、そんなの知るかよ」

「あら、結構単純よ」

「単純?」

田舎者だから馬鹿にしているのか。

「さぁ、見回してごらんよ。実物にはない違和感を」

両手を空に掲げてクルクルと回るエレナちゃんを見つつ、俺もその違和感を探してみることにした。

「違和感といっても、俺は山梨県民な者で、東京なんて滅多に来ないし、どこも変わらないと思うが……」

「君の眼は節穴だらけだね」

やれやれ困った顔をされる。

「渋谷ヒカリエから続く坂道をずっと辿ってごらんよ」

エレナちゃんは渋谷ヒカリエから続く坂道の天辺を指さした。

「この先だよな、でかいビルが建っているがそれがどうかしたのか」

「渋谷ヒカリエの坂を上ると、本来なら青山に出るけどさ、青山にはあんなに高いビルは建っていないの」

へーと思いつつ腕組をしてあのビルの正体を考えてみた。

「あのビルに見覚えないかい」

東京の土地勘はほとんどないから、パッと見ただけで何のビルだか見当がつかん。

とはいっても見覚えがないわけでもない。

答えが出ないと踏んだのかエレナちゃんが喋りだす。

「答えは……秋葉原UDXビルでした」

「……? ここは渋谷だよな、なんで隣に秋葉原があるんだ」

ディラックの海といい、ここはとんでもワールド。時計ウサギを追って穴に落ちたら不思議の国のアリスの世界に迷い込んだ気分だ。

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