第26話 西棟へようこそ!変態不審者さん
「なぜ私がお兄さんなのかな?エレナちゃん」
動揺する玲香先輩に変身した俺に、至って冷静なエレナちゃんは淡々と答えた。
「最初に会った時からだよ。フタバのカウンターでフラペチーノを飲んでいた時に女子高生に話しかけている玲香パイセンを見かけて、またゆりゆりするのかと思ったんだけど、今度は男の警官にも話しかけたでしょ」
あの先輩百合だったのか。談話室で後輩っぽい子といちゃいちゃしていたが、嫌ではなかったんだな。
「それは調子はどうかなぁって思ってね。たまに変な動きしたら嫌でしょ」
「ふーーーーん、缶コーヒーだって、フタバだっていつも飲んでたのに、年に数回なんて言ったのかしら」
これは言い訳できないな。あの時にはすでにエレナちゃんに正体がバレていたのか。
ならば逃げるための何かいい案はないか。
「それで、何か良い言い訳でも見つかりましたか?変態不審者さん」
エレナちゃんの中ではしっかりと俺が男だとバレている。
例えどんな言い訳をしても無駄だろうな。
「いつまであたしの玲香パイセンの格好をしているの!変態不審者さん!!」
正体を明かすしかない。これ以上騒ぎ立てて警備員を呼ばれても仕方ない。
「エレナちゃん、そのとおりです。私は……もとい、俺は玲香先輩じゃないんだ」
「正体表したね」
「だけどこれだけはわかってほしい」
涙目ながら、俺は玲香先輩の姿のままで訴えた。
「なんですか?」
「俺は変態不審者ではない」
「その姿でそれを言うな!」
「だよな、変身を解くからそれまで後ろを向いててくれるか?」
「逃げるつもりでしょ」
「逃げないってば、出口は警備室に通じる通路しかないんだろ」
「首にしているネックレス。それを使って変身したんでしょ」
「ネックレス?」
俺は胸元を触ってみたところ、丸い球が付いているネックレスをしていた。
周りを見渡すと、姿が移るちょうどいいガラスがあったので、近づいてみると確かにネックレスにあの球体が付いていた。変身していると球体は首元に来るんだっけ。すっかり忘れていた。
後ろからエレナちゃんが語り掛ける。
「あんたセレスシスの持っていた
「ちょっ、エレナはセレスシスさんを知っているのか?どこにいるんだ。俺は二人を探しにここまで来たんだ」
「エレナちゃん!」
「なぁ頼むよ!エレナちゃん。教えてくれ、セレスシスさんとララの二人はどこにいるんだ!!」
セレスシスさんの名前だ出たことで、俺は無我夢中でエレナちゃんの肩を両手でつかんでいた。
やっと掴んだ手がかりを逃がしたくなく、勢いあまってエレナちゃんを強く揺さぶってしまい、微弱にも泡拭いていた。
エレナちゃんを休ませようと、駅前のベンチまで抱っこして運ぼうかと思ったが玲香先輩の体では非力のため、変身を解いて元の姿で運んだ。
運んでいるときに意識がとぎれとぎれであったが、戻っていたようだ。
「あっあんた……誰?パイセンに……変身していた……人……かな」
「しゃべるな、下かむぞ」
体力までも変身相手に依存してしまうとは思わなかった。ウサギとネコに変身したときも能力の差に圧倒されたっけ。変身相手への依存はよく覚えておこう。
エレナちゃんは、しばらくベンチに横になってもらったら、少しずつではあるが元気になってきた。
「さっきはごめんな」
「それよりさ、あの……あのさ、あたしのほうがかわいいんだけどさ……あんたも結構かっこいいじゃん」
エレナちゃんはどんなけ自分が好きなんだよ。ん。俺のこともなんか言ってなかったか。
「ところでお兄ちゃんは、あの
「セレスシスさんは、彼女じゃない。だけど黒服の男たちに攫われてしまって探している」
「その……すっ好きなの?」
「好きとかではないんだけど……なんだよその質問」
「あの
「そうか。それで、セレスシスさんとララが、どこにいるか知らないか?」
少々前のめりになりながら訪ねた。
抱っこして運んでいた時は、夢中で気がつかなかったが、ほんのり甘酸っぱい香りがエレナちゃんからするのを感じた。それに顔が少々赤いようにも見えた。
「ララ?」
「ララって言うのは……ええっと、セレスシスさんの大学時代に寄宿舎で同室だった子で、一緒に攫われたんだ」
「あぁ、あのお嬢様学校時代の同居人か。とすればララもいいところのお嬢様だな」
「ララがお嬢様?」
「ほんと地球人って、
ララってお嬢様なのか。許嫁と結婚させられるってぐらいだから、それなりのお嬢様なんだろうな。
「そんなお嬢様たちだから、匿われている場所にならなんとなく心当たりがあるかも」
「本当か」
「顔が近いってば!キスするつもりなの……心の準備が」
「いや、その気は全くないから」
「もぉ」
そっぽを向かれてしまった。何か機嫌が悪くなることを言ったかな。
ちょっと話題を変えるか。
「ここは西棟なのか。それとも渋谷の街に飛ばされてしまったのか」
エレナちゃんは少し考えながら、ゆっくりと向きを直す。
「たしかに渋谷の街なんだけど。うーーーんとね、西棟に作られた渋谷の街って解釈が正しいね」
意味が分からん。そんなに広くない西棟に巨大空間の街が広がっているのか。
その説明が本当だとすると、グループウェアで見たフロアマップなんて全く役に立たないぜ。
「西館は宇宙から来た人々が、地球に慣れるための訓練用施設を試験的に作られた街だからね。だから、その辺を歩いている人は、地球人と接するための訓練用アンドロイドなワケ」
「通りで、定型文しか言わないのか」
「呑み込みが早くて助かるわ」
「ところでさ……お兄さんはなんて呼んだらいいのかしら」
「太田昴。昴でいいよ」
「あたしは、宇宙一かわいいエレナちゃんね。だからあたしのこと、好きになってしまうのはわかるわ」
「突然なに?何かの勧誘か何か」
エレナちゃんはもじもじしながら「分からないならいい。大丈夫」という始末。
宇宙人はセレスシスさんといい、よく分からない人が多いのかな……。
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