第31話 救出作戦開始

作戦が固まったところで、女子寮になっている高層タワーマンションへと歩みを始めた俺こと西園寺玲香とエレナちゃん。

だがロビーにはいかにも武装しているであろう黒服たちが三人ほど居る。

そのうちの一人には見覚えがある。

さっき休憩室で、愚痴をこぼしながらコーヒーを飲んでいたやつだ。

それにもう一人発見した。

ララたちを攫った時のメンバーの一人だろう。最後の一人は新顔だな。

あの時のリーダー格の黒服が、居なかっただけまだましたろう。

あの人物だけは他の黒服と比べても、目の鋭さや行動が別格な気がした。

二度と再会したくはない。

あれ、いつの間か武蔵さんが居なくなっていた。

「さぁ入りますよ。玲香パイセン」

「うん」

「ここをくぐったらもう後戻りできませんからね」

「それは西棟に潜入したときからだよ。もう戻ることなんてできないんだ。俺には先に進むだけだ」

「覚悟はすでにできているなんて素敵ですわ」

小さくてしなやかな手を絶対に離さないように少し力が入ってしまう。

それを知ってエレナちゃんの手も強くなる。もう戻ることができない。

失敗も許されない潜入に巻き込んで御免と思いつつも彼女が居るおかげで、不安だった心も今は前を向いていける感じがした。

ウィーーーーン

入口の自動ドアが開く、同時に三人の黒服たちが一斉に警戒に入った。

さっきまで退屈そうにしていた三人は、敵意むき出しの状況でこちらを見ている。

「おかえりなさいませ。西園寺玲香様。エレナ・ホワットニー様」

受付嬢のアンドロイドが話しかけてくる。

恐らく自動ドアを通る際に、パスを読み取って判別しているのか、はたまた監視カメラで網膜スキャンを行って人物を特定しているのであろう。

「何かメッセージはあるかしら」

「確認します」

「お二人へのメッセージはありませんでした」

「そうなら結構です」

「何かございましたらお申し付けくださいませ。西園寺玲香様。エレナ・ホワットニー様」

深々と会釈する受付のアンドロイド。さすがココに住んでるだけあって慣れるなエレナちゃん、すげーかっこいい。

「さぁ、行きましょう玲香パイセン」

こちらにウィンクして僕を誘導してくれる。

さっきまで警戒態勢だった黒服の男たちは、アンドロイドとの質疑応答に問題がなかったので、警戒心を少しずつ解いていった。

重苦しい空気に支配されていたビーは、何事もなかったかのように静かに時を刻む時計の音と、私たち二人の足音だけになった。

エレベーターホールに着くと黒服一人が話しかけてきた。

「何階までご利用ですか?」

「へぇ、ここの女子寮にボーイが居たなんて知らなかったわ?」

さすがエレナちゃん返しがうまい。

「我々は臨時です。とある高貴な方がご滞在されているので」

「三三階の私の自室よ。玲香パイセンとお茶の約束があるの。何か問題でも」

「いえいえ、万が一があるといけませんので、念の為お聞きしたまでです。大変失礼いたしました」

黒服の男は深々と頭を下げるのと同時にエレベーターの上りボタンを押した。

すぐにエレベーターのドアが開いた。入り際にエレナちゃんの口が開いた。

「私も一応高貴な出身なんだけど、あなた方みたいなエスコートは付かなかったわ……私より高貴な方なんて、いったい誰かしら」

「申し訳ございません。これ以上話す権限を我々は持ち合わせておりません。何卒ご容赦いただけませんでしょうか?」

黒服はエレベーターに乗り込んだ二人に軽く会釈して許しを請う。

「まぁいいわ。じゃあね」

エレベーターの扉が閉まる。

俺は緊張から解放されたのを機に、ペタリと座り込んでしまった。

“腰を抜かすなんて情けない。まだ監視カメラがあるんだから、私の部屋に着くまで頑張って”

小さな声でエレナちゃんに語り掛けられながら、か細い腕に引っ張られて立ち上がる。

西棟エリアはエレナちゃんがいなかったら、全く歯が立たなかっただろう。

そう思うと、この出会いに感謝しなくてはいけない。

“──ありがとう”

“部屋まで持ちこたえられますか? さすがに玲香パイセンをおんぶできる自信ないですからね”

冗談めいた一言のおかげで、不安や疲れが少し吹き飛んだ。

俺はうなづくとすくっと立ち上がった。

高層階用のエレベーターなので、三三階へはすぐにたどり着いた。

すぅーとエレベーターのドアが開き二人は降り立った。

ここは男子禁制の秘密の花園その二とも言うべき場所だ。

しかもセキュリティも最大限高い場所。一階には黒服達が待ち構えている。

そんな場所で本当に二人を助け出すことができるのか。

いや、今さら弱音を吐いてどうする。ここまで来たんだ。

必ず助け出すさ。

ふかふかの絨毯張りの廊下を歩くとエレナちゃんの部屋にたどり着いた。

ここでもパスをかざすことで、入室することができる。

本当に便利なバスだ。無くしたら大ごとだよな。本物の玲香先輩にいつ認知されるか戦々恐々もしていたりする。

「さぁ、遠慮しないで入ってね。玲香パイセン」

「あっえーと、おっ、おじゃまします」

パタン。

「さぁ、昴。救出方法を探しましょ」

「切り替え早いな」

「ここから先はカメラも無いですし、それより時間がないんですよ。玲香パイセンのパスって恐らくですが、お風呂場でゲットしましたよね」

「そうだよ」

「女湯を覗く輩は許せませんがそうなると、入浴中は後輩と楽しんでいるだろうから、その後は後輩の実験室でにゃんにゃんでしょうから朝までがリミット」

「ちょっとまった、後輩とにゃんにゃんてなんだよ」

「そこは乙女のひ・み・つっーことでよしくです」

お互い顔を赤らめて秘密を想像してしまう。なんとも言えない空気になってしまった。

「そうそう、何か飲む? 冷たいお茶とかがいいよね」

「あぁ、そうだね。冷たい飲み物は嬉しい」

男女二人きりの環境にいると余計に緊張してしまう。

何を話せばいいんだ。昨日のテレビとか。相手は宇宙人だぜ。

今時テレビなんて見ないだろうしな。

「はいお待たせ。うちの惑星じもとのお茶なんだけど、お口に合うかしら」

「いただきます。あっおいしいよ。ルイボスティーみたいだけど、癖が少なくて香ばしさとのど越しがよくて、のどがカラカラだからさらにうまい」

「このお茶は森に生えているキノコを乾燥させて作っているの。お口に合ってよかったわ。地球人で言えば彩星さんもおいしいって言ってくださってるわ」

「姉貴、彩星のことを知っているの?」

突然、実の姉である彩星の名前が出てきて驚いた。

「最近は会ってないわね。彼女に初めてお茶を御馳走したのはプラパティス星の寄宿舎のときだからだいぶ前のことだけど……」

「あなた達姉弟だったのね」

「似てないだろ」

「ふっふふふ、見た目はね。でも執念で最後までやり遂げようとするところは、そっくりだよ」

執念か、確かに執念だけは人一倍あると自負している。だから今回もこうしてこれたのも二人を助けたいと思う執念だったのかもしれないな。

「さてと、お茶も飲んで落ち着いたところで二人の救出作戦と行きますか?」

「なにか策はあるの」

「ええ、もちろん。でもちょっと命をはるかも」

ニタニタにと笑顔をしてるところが逆に怖い。

エレナちゃんが待ちだしてきたものに驚愕をした。

「いや、まてまてまて待ってくれよ。ここは三三階だぞ。落ちたらただじゃすまないだろ」

「落ちなきゃいいんじゃないですか?」

「それはある意味正論なんだし、もちろん落ちたくはない」

「ってゆうか、なんでこの部屋にこんなものがあるんだよ」

俺はエレナちゃんが両手で抱えて持っている縄梯子を指さして言った。

「何があるかわからないので、深夜の通販番組で仕入れました」

「仕入れるな。それよりもそんな変なところから商品を買わないで」

縄梯子を売る深夜通販てなんだよ。

「でも、三二階へ行くのには、外から侵入する必要があるんです」

「だとしても縄梯子はないだろうが」

「ほかに方法があるとお思いですか?」

「エレベーターで行けばいいだろうが」

「さっき廊下を歩いてもらった時に気づきませんでしたか」

「……そうか、監視カメラか」

「その通りです。警備室に直結しています。警備室でも黒服が監視していると思っていいでしょう」

なるほど監視カメラは廊下中に死角がないように張り巡らされていたな。

「三二階はそれだけじゃないのよ」

「まだ何かあるのかよ」

「あのフロアはエレベーターのボタンが無い階なんだよ」

「何だって!?どうやって行くん……そうかパスか」

「正解。そのフロアの住人だけのパスが必要なのさ」

「それってまた風呂場でパスを失敬しないといけないとか」

「まさか、それは不可能だと思うよ。三二階の住人はあのフロアを一人ですべて貸し切りなんだ」

「だからって、外から行くのってありなのか?」

「それしかない」

険しい顔をしながらエレナちゃんは縄梯子の準備に取り掛かった。

「その縄梯子は、本当に大丈夫なんだよな」

「えっ、うーんとJISマークは付いてないけど、宇宙国際安全基準にマークは準じているから大丈夫さ」

なんだそれ初めて聞く国際基準だな。夜の通販は怪しい基準の商品まで取り扱うようになっているのか。

「設置完了だよ。さぁ行こう」

「なっ、ここから降りるのか」

リビングからながるベランダを見ると、縄梯子が下の階へと垂れ下がっている。

風がなびくたびに縄梯子は左右に揺れ動いている。

三二階と言う高さと、頼りない縄梯子に俺は生唾を飲み込んだ。

「さあ、行こう」

「待て、本当に安全なんだよな。三三階から万が一落ちたら洒落にならんぞ」

エレナちゃんはニヤリと笑顔をして答えた。

「ひょっとして高所恐怖症なんだね」

「そう言うわけじゃないが、流石に三三階だぜ。それに安全のわからない縄梯子だけとか誰でも恐いわ」

「私だって恐いよ。でも昴なら大丈夫だよ」

グイッとサムズアップするエレナちゃん。

「もぉ、宇宙規格を信用してないな。なんなら私が最初に降りようか?」

「女の子を危険な目に合わせる訳にはいかないよ。俺から行く」

「さすが昴。これは一応命綱ね」

取り合えとばかりに、登山で使うようなカラピナが付いた紐を俺の腰に巻き付けてきた。

「うまく巻けないわね」

俺の股に顔が時より触れている。

不意にリビングの端に置いてある姿見が目についた。

エレナちゃんが俺の股間付近を何かしているように映った。

何考えているんだよ俺は、エレナちゃんは俺の安全のために一生懸命縄を結んふでくれているだけだ。

邪な考えは捨てないと、思う反面体が反応してしまう。

こそばゆい気持ちと体の中が熱くなるのを感じた。

女の子に変身していると感情までもが男とは異なる性質なのか感じる部分が異なる。

やばい、なんか快感……まて、やめろ、礼香先輩の体で何を考えてるんだ。

単なる変態じゃないか。。。。

「さあ昴。手間取ったけど命綱の準備も万端だよ」

「…………」

「何、顔を赤くなってるのさ」

「気にしないで、本当に大丈夫だから」

エレナちゃんはキツく結びすぎたかと思ったらしく、緩めようかと提案してくれたが丁寧にお断りした。

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