第30話 この街《西棟》で二人を探せ 四

玲香先輩に身も心もなりきることで、ララとセレスシスさんの救出作戦の準備はこれで整った。

目標の女子寮は、UDXの隣に聳え立つ高層マンションとのことだ。

いざ目の前にすると高層マンションは高い高い。

普段の田舎では三階ほどの建物でも比較的高い建築物となると、このマンションは八ヶ岳級の高さがあると思う。

「何頂上を眺めてるんですか、女子寮に入りましょうよ、礼香パイセン」

「エレナちゃん。ごめんごめん。すぐに行くから」

細くしてなやかなエレナちゃんの手を繋いでいると、彼女は小学生並みの身長なので、側から見ると仲の良い姉妹に見えることだろう。

そんなどうでもいいことを考えていると

「玲香先輩。女子寮の入口が騒がしいですね」

「どういうこと?」

「いつもならアンドロイドのコンシェルジュと武蔵おじいちちゃんだけしかいないのですが、黒い服を着た連中がロビーに屯っていますね」

黒服か。ララやセレスシスさんを攫っていった連中。そんな奴らが居るということは、この女子寮のどこかに居るのは確実だろう。

木陰に隠れてロビーを二人で見張る。

すると後ろから声をかけられた。

「おや、エレナ・ホワットニーさんと、西園寺玲香さんではないですか? こんなところで何しているんです」

背筋が凍り付いた二人はゆっくりと後ろを振り返る。

そこに居たのは、竹ぼうきを持った鼠色の作業着を着た少し腰が曲がっているおじいさんだった。

「武蔵さん超絶驚きました!」

「あっはははははは、これはすまんすままん。ところで寮に入らないでロビーなんて眺めてどうしたんです。新しい遊びですかな」

「シー。黒服に見つかっちゃうよ」

「あぁ、あの黒服ですか?」

「そうそう。あれは何物なワケ?」

「あれは、たしか外務省の職員ですよ。なんでも重要人物の警護をしているとかで、ロビーにて待機しているんですよ」

「部屋のとか前じゃないの?」

「エレナさんもご存じの通りここは女子寮ですよ。いくら外務省とは言えども男性が、部屋の前まで行くなんて規則上許されませんからね」

手をポンとたたいて、エレンちゃんはいいことを思い出したらしい。

「玲香パイセン。ロビーさえ乗り切れば、なんとかなりそうですよ」

「そうなの?」

「そうです。黒服たちは男だから女子寮の管内へ侵入することができないんですよ」

「なるほど、ロビーさえ通過してしまえば、完全に男子禁制たわけだ」

「エレナさん、危ないことはやめてくださいよ」

武蔵さんは呆れ顔で腰をトントン叩きながら話してくる。

「ちなみに武蔵さん、最近新しく使われた部屋ってわかるかしら」

「最近使われ出した部屋ですか?」

「そうそう、それさえわかれば、二人の居場所もわかるはず」

「うーんと、三二階でしたかな。昨日まで空き部屋があったけど今日は使われてますね」

「ビンゴ!三三階は私の部屋。彼女たちは一階下の階なら何とかなるわね」

「危ないことはやめてくださいまし、武蔵の心臓に悪いですわ」

「大丈夫。武蔵さんには別の安全策をお願いするから」

「はぁ、エレナさんまた私をお使いになさるのですね」

「ほんと今度こそ危ない橋は渡らせないわ。だから私の言う通りにしてちょうだい」

エレナちゃんは落ち誇った表情で、武蔵さんをびしっと指をさして命じている。

「はぁ、わかりました。今度は危ないことはなさないのであれば、武蔵はお手伝いします」

うんうんと万足気な表情を浮かべるエレナちゃんとは対照的に、めんどくさいことにまた巻き込まれるとの表情を浮かべる武蔵さん。なんだかかわいそうになってきた。

そのあとエレナちゃんは、武蔵さんとヒソヒソと打ち合わせを始めた。

最初は驚いていた武蔵さんも、エレナさんの頼みならと覚悟をきめたようだ。

エレナちゃんは武蔵さんに、いったいどんなことをさせるつもりなのか。

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