第24話 いざ行こう西棟へ……段ボールはありませんか
──ピッ、カチャ
その時、電子音とともに開錠される音が響いた。
まずい。どこかに隠れなきゃ。
咄嗟にモニターの電源をオフにしその場にしゃがむ。
だが確実に隠れるためには、人間が入るに適した段ボールがないぞ!
どうする。どうしたスネーク!!
段ボールなしで、どうやって敵を回避すればいいのか。
扉が開くとともに警備員の声が響いた。
「誰か使用していますか?」
シーンと静まり返った会議室からは誰も応答がない。
「本当に誰も居ないんですね。電気を消しますよ」
「誰か消し忘れたのかな。節電節電と」
電気が消され室内は真っ暗になった。
カチャン
耳をしますと遠ざかる足音が聞こえる。どうやら行ったみたいだ。
新月の夜であることもあり、窓からの明かりはほとんどないに等しい。
さてと目が慣れた所で辺りを一度見回す。本当に誰も居ない様だ。
俺はもう一度モニターの電源を入れた。
外務省の上嶋達也について、そのほかにも記事がないかグループウェア内を調べてみた。
該当は一件、先ほどの記事のみであった。
では外務省で調べるともう一件ヒットした。
記事にはこう書いてあった。
『まもなく西棟が増築されます────この建物については外務省の管轄となるため、一部を除き研究員は立ち入りを制限いたします。電波天文台管理組合』
との内容だ。
なぜ電波天文台に文部科学省ではなく、外務省がかかわっているのだ。
この疑問をどう解決したものか。
答えの出ない疑問を解こうとしても無駄だ。
今はララとセレスシスさんを助けなくては。
無限に増える段ボールの入手はできなかったものの、西棟は外務省がかかわっていること、二人は二〇一号室にいるであろうことが分かっただけでも大収穫だ。
さてと西棟へ行くための準備をするか。
俺は球体に願いを込めた。念ずるんだ。なりたいものに。
体は熱くなり体の変化を感じた。
変身が終わったからだろうか、胸の部分が少々キツイが致し方ない。
端末の電源を切り、会議室を後にするとした。
途中談話室にて缶コーヒーを二つばかり購入していった。
本棟から西棟へ向かう通路に立つ、緊張のあまり足が震え出した。
ついにここまで来た、最初の潜入時にはここので来れるとは思っていなかったが、段ボールがなくても、人間はなんとななるものである。
西棟へ続く長い廊下を歩く、東棟と本棟間と同じ長さでのはずが、こちらの方がより長く感じる。
細長い廊下を進むと、警備員がこちらに気づいた。
すごく凝視されている。
監視カメラも複数台設置されており、特に物々しい雰囲気を醸し出している。
なぜそこまでして、管理体制を強化しているのだろうか。
答えはこの中に必ずあるはず。
ずんずんと進み、入口の前に立った。
白衣のポケットからパスを取り出すと、リーダーにタッチする。
──ピッ
乾いた電子音が鳴る。
だが扉は開かない。自動ドアではなかったのか。
アレ……もう一度タッチする
──ピッ
乾いた電子音が鳴る。
ロックは解除したはずなのに自動ドアが開かない。
ガラス張りの警備室から警備員が
「平賀教授。網膜スキャンをお忘れですよ」
そうだった。俺ってば緊張のあまり網膜スキャンをするのを忘れていた。
「あっはははは、私ってばすっかり忘れていたわ、寝ぼけているのかしら」
俺は壁にあるスキャナーに目を近づけた。
──ピッピッピッ
自動ドアが開いた。
ホッとする私、いや俺は大きな胸をなでおろした。
たった一つのミスが命取りだというのに、何してるんだよ。コンテニューなだということを肝に銘じた。
「ふぅ」
つい息が漏れる。
「平賀教授。先ほど帰られた思っていたんですが、まだ研究をするんですか」
「えぇ、ちょっとと思い出したことがありまして……」
「そうですか、お疲れなのに研究者は大変ですね」
「好きでやっていることですから、良かったらコーヒーでも飲みませんか?差し入れです」
「これはこれは、いいんですか」
「いつもお世話になっているお礼です」
「本当はもらってはいけないのですが、先生からとあればいただかないわけにはいきませんな。はっはははははは」
「それでは」
ついに西棟への潜入が成功した。
難攻不落と思っていた西棟へ、段ボールなしで潜入ができた。
えっ段ボールはもういいって?
それより、どうやって網膜スキャンをパスしたのかって、それは段ボールに隠れて……ってそれは置いておいて、俺は平賀教授、つまり玲香先輩に変身をしたのだ。
パスと登録された網膜があっていないと扉は開かない。
であれば、俺は玲香先輩になる必要があるのだ。
だが男物の服の上に女の人の体は合わないな。胸がつっかえて苦しい……。
女性って大変なんだなと思った瞬間でもある。肩こりそう……。
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