第36話 ドライブはお好き

──チン

目的の地下駐車場に到着した。

「ここにも監視カメラがあるから注意しろよ」

「私がセレスシス様のお車を監視カメラのない場所まで、運転してきましょうか?」

「それしかないね。酒飲み、車のキーを出しな」

「せめて名前で呼んでもらえナイかな。ほらキーだよ」

ランドリーリネントロリーの中から手が出てきて、車のキーを出してきた。

エレナちゃんは強引に奪うと、武蔵さんに渡した。

武蔵さんは車を取りに出かけた。

僕たちは監視カメラの無いエリアまで移動し武蔵さんが運転する車を待った。

セレスシスさんはともかく、ランドリーリネントロリーにいるララはさっきから無反応だ。

俺は小声でララの反応を確かめてみた。

「ララ、窮屈じゃないか。大丈夫か」

“…………”

無反応だった。喋ってはダメだと思っているかな。

「今なら誰も居ないから大丈夫だよ」

“…………”

全くの無反応なので、気になって中を覗いてみた。

タオルやティーシャツなどの着替えが乱雑におかれている。

中を掻き分けると綺麗な銀色の髪の毛が見えてきた。

”すーすー”

どうやらランドリーリネントロリーの中で寝てしまったようだ。

よくこの状況下で呑気に寝てられるんでよ。中はめちゃくちゃっ狭いし。

このまま寝かしておくわけにもいかず、起こすことにする。

もう少し掻き分けると、ララはランドリーリネントロリーの中で体育座りの様に両脚を折りたたみ、両手で足を抱なが横になっている。

器用な奴だな。

俺はララの肩に手で摩って起こしにかかる。

「ララ起きろ、もう安全だぞ」

すでにセレスシスさんはランドリーリネントロリーから這い上がっており、中からこちらの様るを見ていた。

「なあ、起きナイならキスして起こしてみたらどうだ。地球ではよくそうやって起こすんだろ」

「セレスシス、地球はひどいな。そんなことしないと起こすことができないのか。ファーストキスの余韻すらないな」

「いや、二人ともそれ間違い情報ですからね」

「なんとかって言うお姫様はそうやって起こされていたぞ。ひどい王子だな」

「それって、白雪姫とか眠れる森の美女ぐらいですからね」

「おぉそれそれ、キスして起す話だろ」

「卑猥な! 地球の男は野蛮だな」

「いやいや、いい男にされるなら何度でも歓迎だぜ。昴、なんだか私眠くなってきたカナ。誰か私をパチリと起こしてくれる昴はいないかな?」

「それはずるいぞ。わっ私も眠くなってきてしもうた」

「二人ともやめなさい。だいたいキスで起こされるのはお話しの世界だからね。現実ではそんなかとはしませんから」

「なら、現実でも起きることができるか私と試してみナイかい、昴」

「ダメです。そんな不純行為はダメです!」

ランドリーリネントロリーからガバッとララが起き上がる。

ララを除く俺たち三人は、きょとんとその様子をみていた。

物語を信じていた宇宙人はどうやらもう一人いたらしい。

「べっ別に地球の物語を信じていたわけじゃないんだからね」

タオルを頭に乗せながら、顔をゆでタコの様に真っ赤に染めてあたふたしている。

なんとも可愛いい姿なんだ。つい見惚れてしまいそうになるが、タオルぐらいはどかしてやるか。

「ララ起きていたのか」

俺は今までの下りはなかった体を装ってララの頭に乗っているタオルをどかそうと近づいた。

「昴、あのねこれには事情があってね。別に物語の再現をしようなんて微塵も考えてないんだからね。って昴どうしたのこおっちに来て……まだ心の準備とか済んでないし、ましてはこんな場所でしなくても……でもここでなら……ヤダ私ったら……」

焦っているのか、早口で捲し立てるララとの距離が短くなるたびにララは、慌てふためいて何を言っているのかわからなくないいている。

「ララ」

「はい!」

なぜか目を瞑ってしまったララの頭に俺は手を伸ばした。

「タオルが頭に載ったままだぜ」

ララの頭に乗っていたタオルを取り上げた。

恐る恐る目を開けたララはほっぺを膨らましている。

「タオルね。そうよねタオルなんかが乗っていたら雰囲気出ないもんね……タオルがいけないんだもんね」

なんだかわからないが、フテ腐れているララ。

後ろでは「チキン野郎」とか「がっかりしたよ」なんて声が聞こえてきたが、めんどいので聞こえないふりをする。

しばらくするとお腹に響く唸るような重低音サウンドがこちらに近づいてくる。

もしかしてセレスシスさんの車?

──ブォン

と一拭きして眩しいヘッドライトを光らせて、我々の前で停車した。

「う〜ん。いつ聞いてもいい音だ。地球に来てヨカッタと思えるよ」

「これがセレスシスさんの車ですか?」

「そうだよ。惚れ直したかい昴」

「いやそれは無いんですが、外車とは驚きです」

「ポルシェ九一一カブレオさ」

白いボディのポルシェが姿を表した。カブリオレというからには天井が布張りなことから、オープンカーになるのだろう。

「セレスシスお嬢様お持ちしました」

「ありがとう武藏。少々じゃじゃ馬仕様にしているから大変だったろう」

「じゃじゃ馬はお嬢様方の方が多いので慣れておりますゆえ」

「はははははっは、これは一本とられたな」

「俺こんな高級車乗ったことないよ」

「昴は助手席ね。あとの二人はリアシートに乗りタマエ」

「何を偉そうに大酒呑が」

「いいんだよここでさよならしたって」

「むぅーーーー」

エレナちゃんは地団駄を踏んだが、ララの誘われるがままに仕方なくリアシートへ座った。

俺はセレスシスさんの隣に座る。すげー車高が低い。地面スレスレだよなこれ。

隣に座るセレスシスさんはダッシュボードの上に置かれたサングラスをすると

──ブォンブォン

と、エンジンを噴かし飛ばす気満々だ。てゆうか夜なのにサングラスして見えるのか?

それを察知してか慌てて後ろの二人はシートベルを装着した。

俺とセレスシスさんのシートベルとは、リアシートとは異なり、カーレースでよく見る四点式のベルトだ。

どうして前列のみ違うのかと戸惑いつつも装着していく。

あのセレスシスさんだから相当飛ばすんだろうな。

少し……いや、かなり身構えておいた方がよさそうだ。

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