第35話 女子寮からの脱出

突然の呼び鈴の音にビクつく三名は一気に背筋が凍りついた。

──ピンポーン

再度呼び鈴が鳴る。

もう入管くろふくにバレたのか。軟禁場所から脱出してからは、まだ三0分も経っていないのに……。

まさか、室内にも監視カメラがあったのか。いやプライバシーを守るために、そこまでは行わないだろう。

では何で入管くろふくが動いたのか。そんな推測よりも隠れる所を探す。リビングにいるよりかどこかに一旦隠れなくては。

「エレナちゃん一旦俺らは隠れているから、何かいい場所は無いか」

「えー、隠れなくても大丈夫ですよ。入管くろふくではありませんから、私の用意した脱出ルートですから」

エレナちゃんは余裕の顔で玄関へ向かった。俺は恐る恐るその後ろをついて行く。

玄関を開けると武蔵さんが、ランドリーリネントロリーを持って入ってきた。

「エレナ様お持ちしました」

「グッドタイミング、ありがとう武蔵」

「爺はお嬢様の言うとおりに何なりと」

状況がまだ読めない。こんなときにクリーニングでも頼むつもりなのか。それとも……。

「さあ、脱出の準備は整ったわ」

「まさかとは思うが、このランドリーリネントロリーに隠れて行くつもりじゃないよな」

「そのまさかです。二人が監視カメラに写った時点で入管くろふくに発見されるでしょう。ならば姿を自然な形で隠す必要があります」

エレナちゃんは鼻高々に語る。

「作戦はいいが、二人では小さく無いかい」

「大丈夫です。ちゃんと二台用意しましたから。そうですよね、武蔵」

「はい。エレナお嬢様のおっしゃるとおり二台用意しております。もう一台は廊下に置いてあります」

行ける。これなら行けるぞ。入管くろふくに見つからないで女子寮を突破してやっるぞ。

「昴、だいじょうぶだった?」

ひょっこりと上半身だけをだして、ララはリビングから不安げに覗き込む。

「あぁ、大丈夫だ。俺らの味方だ。そしてここを脱出できるぞ」

「本当ですか」

「脱出方法が見つかったんだって」

セレスシスさんもリビングから出てきた。

「エレナちゃんの事前の準備の賜物です」

「よくやったぞチビッコ」

「チビッコ言うな! 大酒飲み」

相変わらず戯れ合う二人は置いておいて

「武蔵さん、ランドリーリネントロリーでは、どうやって下の階に行くんですか」

「それでしたら、清掃員用のエレベーターがありますから、それで地下に降りて行きます」

「地下ですか」

「ゴミやランドリー収集所がありますので、まずはそこにお連れします。その後お車で出庫されてはいかがでしょうか」

「車か……ちなみにエレナちゃん車持っていたりする?」

「私、免許持ってないわよ」

終わった。地下まで辿り着いても車がなきゃ逃げられないじゃんか。

「全くチビッコは詰めが甘いな。私のマイカーが地下に駐車してアル」

「むーーチビッコ言うな! ……確かに詰めは甘かったわよ」

「ほー過ちを認めるのは偉いぞ」

セレスシスさんはエレナちゃんの頭をワシワシと撫でている。

「むーー撫でるな! 子供じゃいんだから」

剥れてはいるが照れているエレナちゃんは可愛かった。

「時間もないし二人とも乗って。それから昴、また変身よ」

エレナちゃんの言葉に疑問を感じた。

「ちょっと待った。変身球メタモパンタシアンとかは持っていると、入管くろふくに居場所を特定されるのではないか」

「それは平気、西棟全体が宇宙の技術で作られているから、その方法での特定は不可能よ。それにここは女子寮。普通の男子は基本入れない」

ここは女子寮だもんな、俺が潜入している事自体も不自然。

それに西棟は街全体が地球外の技術だったもんな。その中で宇宙の技術で作られた物を探すのは、森の中で木を探すようなもんだ。

これなら心置きなく玲香先輩に変身できる。いや別に積極的に変身したいわけじゃないけど、ほらパスが先輩のだから仕方ないんだ。

女装に目覚めた訳じゃないから……って。誰に釈明してるんだろうか俺は……。

ララとセレスシスさんがランドリーリネントロリーの乗り込んでいる間に、俺は変身球メタモパンタシアンで変装を済ませておく。

「準備も整った事だし出発しますか。昴、準備はできているようね」

「うん、変身済みだよん」

「だいぶ女の子になるのがなれてきたみたいね」

「仕方ないだろう。ここは女子寮なわけだし、パスは玲香先輩のだしさ……」

「まぁ、そう言うことにしておいてアゲるよ。くっふふふふふふふ」

なんか笑われているが気にしないことにする。気にしたら負けだ。

「さあ、出発しよう」

エレナちゃんの部屋を出ると武蔵さんを先頭に、清掃用に使用している業務用エレベーターのある部屋を目指している歩き始めた。

しばらく歩くと非常用階段の裏側に目立たないように、メンテナンスルームと書かれた入口があった。

「ここが清掃員などが使う、業務用エレベーターのある部屋です」

武蔵さんは扉を開けると真っ暗だ。一歩入るとセンサーが反応してライトがついた。

内部はコンクリートが剥き出しの空間は、先ほどまで絨毯張りの廊下と比べると殺風景で寒さすら感じる。

棚にはトイレットペーパーやタオル、シーツ類が部屋別に所狭しと置かれており、清掃担当者がここから清掃に向かうのだとわかる。

武蔵さんは青い扉のエレベーターを前にくると下のボタンを押した。

エレベーターは、上層階にいて順々に降りてくる。

各階に止まるエレベーターは、僕らの乗っていた高層階向けエレベーターよりも遅い。

順々に向かっているのはわかるが余計に長く感じる。

──チン

軽い音とともに青い扉が開いた。

中には先客の清掃のおばちゃんが清掃道具と共に乗っていた。

「あら武蔵さん、こんなところでどうしたんですか」

「富江さん、これですよ。お嬢様のお使いで来ているんですよ」

中に乗っていた先客は富江さんと言うらしい。富江さんは武蔵さんの他に我々を見つけると畏まった。

「西園寺お嬢様にエレナお嬢様。ご機嫌麗しゅうございます」

「富江さん、いつも清掃ありがとうございます」

「エレナお嬢様、私はただの清掃員にございます。勿体無いお言葉ありがとうございます」

「私たちも同乗してもよろしいかしら」

「もちろん構いませんが、こんな汚いエレベーターをご利用なさらなくても、専用エレベーターをご利用くださいまし」

そういうと真ん中にいた富江さんはエレベーターのボタンの位置に移動し、小さく会釈した。

俺たちは開いた空間に入りこむ。

武蔵さんはサッと地下のボタンを押す。富江さんは2台のランドリーリネントロリー見て

「洗濯でしたら、私たち清掃員へお申し付けくださいませ」

「今日はいいんですよ。社会見学も兼ねて、武蔵さんにお願いをしたんです。富江さんたちの苦労が判りましたわ。ねえ、玲香先輩」

「えっ、あ……そうですわ。いつもありがとうございます」

「私たちはこれが仕事でございます。本当にもったいないお言葉です」

いきなり振られて焦ってしまったが、この会話からエレナちゃんたちは相当いいところの出身なんだなとわかる。ただ今は普段と違い猫をかぶっているがな。

てゆうか、ランドリーリネントロリーに入れた二人は、大丈夫だろうか。それが気がかりで仕方ない。

「そういうことでしたら、あれですが……今度からは私達清掃員にお申し付けくださいませ」

──チン

「私はこの階で失礼いたします」

富江さんはエレベーターから出ると、すぐさまこちらを振り向き、扉が閉まるまでお辞儀をしていた。

本当にエレナちゃんといい、玲香先輩はお嬢様なんだな。

ということは、ララやセレスシスさんもお嬢様なのか。

ララはなんとなく想像できるが、セレスシスさんもお嬢様なのか?

こちらは想像できないな。くっふふふふっふ。

「何笑っているんですか。中身の昴が笑っていると思うと気持ち悪い」

「気持ち悪いとはなんだよ、ひどいな」

「富江さんが来るとは思いませんでした」

「この時間なら清掃中が多いので、乗ってくるとは思わなかったのですが、さすが業務が早い富江さんですな」

「もう誰も乗ってもないよな」

「わからないですが、多分大丈夫かと思います」

武蔵さんを信じて祈るしかないか。

“おーい大丈夫か。バレてナイか”

「ランドリーが喋るな」

エレナちゃんはランドリートロリーを蹴り飛ばす。

“──ごふ”

「おい、お手柔らかに頼むぞ。バレたらおしまいなんだぞ!」

「だそうだ、喋るなよ」

“ほーい”

エレベーターは遅いながらも着実に目的の地下へと向かっている。

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