第14話 宇宙からの旅人

空から降ってきた天使だと思っていた美少女ララは、宇宙から来たという。

惑星間を行き来する定期旅船に乗って火星を経由し、地球へ向かったとのこと。

でも月にある地球の発着所には、ララの母星からの使者が待ち構えており、捕まるわけにはいかないから途中下車して今のちに至る。

しかも捕まると、顔も知らない許嫁と結婚させられてしまうとか。

天使ララを守るべく、俺と美晴は結果的にかくまう形になってしまったわけだが、これからどうしたらいいものか。

「少し地球を堪能してみたいです」

俺と美晴の混乱をよそに至ってのんきなララ。

「でも、うかつに外に出て大丈夫かな?」

「そうだな、ララを探している連中は惑星間の旅船から降りたことをもう知っているだろうから、地球中を探し回っているんじゃないか」

「たしかにそうですが、地球もそこそこ広いですよ。私一人を探すにして簡単にはいかないと思うのですが」

「確かに……ちなみに月と地球の移動はどうやってるのかは知ってるのか」

「はい。月からは指定の空港に行くことになっています。ロサンゼルス空港とヒースロー空港、フランクフルト空港などたくさんあるのですが、私は羽田空港の予定でした」

宇宙への出入口は意外と身近な空港にあったのか。そうなると追っては日本に限定して探しているな。地球規模から日本に絞られちゃった。

「日本行きの便は羽田空港しかないの?」

「いえ。羽田のほかにも関西空港があり、そこからは現地の飛行機に乗り換えて移動になります」

追っては日本全国以外からは絞ることはできそうにないな。

世界から見たら日本は小さな島国ではあるが、さすがに一人の人間を探すには広すぎるぜ。

山梨県野辺山付近にララが居るなんて、到底思いつかないだろう。

「ちなみにララが居るのは日本の山梨県野辺山や清里・八ヶ岳ってエリアなんだけど、この地名を聞いたことあるかい」

「聞いたことある様な……無い様な……」

「ララが行こうとしていた、目的地の名前なんてわかるかい」

「それがわかる物は別々になった荷物の中でして、羽田空港に着いたらタクシーに乗って、書いてある住所に連れて行ってももらおうと思っていましたので、詳しくは覚えてないんです。すみません」

困ったな。ララの目的地さえわかれば、そこまで送り届けるだけだったのに。

考えても仕方ない。ララが思い出してもらうまで付き合うか。

「謝ることなんてないさ。こうしてララと知り合えたのも何かの縁。思い出すまで付き合うぜ」

「私も付き合います!」

「お二人とも……ありがとうございます」

目に涙を浮かべながら、ララは俺と美晴の手をギッュっと握った。

「さてと、しんみりしても仕方ないさ。せっかく地球に来たんだし、地元を案内してやるよ」

「そうだね。この付近だけど、大した観光名所なんて無くない?」

「おいおい、まずは清泉寮でソフトクリームとか、まきば公園で動物とのふれあいだってあるぞ」

「鉄道最高地点なんてのはどうかな」

「ララが鉄道ファンならありだけど、さすがに違うだろ」

「じゃあ、アルパカ牧場は?もふもふしていてかわいいよ」

あれこれと観光名所を上げるが、次第に家から遠のいていることに気づき、とりあえず最初に提案した近所の散策として清里寮へ行くことが決まった。

「ソフトクリームは楽しみです」

「あそこは並ぶんだが、その価値のある濃いソフトクリームが食べられるぞ」

「うんうん。私も清里寮のソフトクリーム大好き」

目的地も決まったことだし、早速着替えて出かけることになった。

「ララの服はどうしようか?私の持ってきた服を着る?」

「別に送った荷物は割と近いところにあるようです。圏内であればリンクさせることで、中の荷物が取り出せるかもしれないのでやってみます」

ララは先ほどのビー玉を掌に置くと、またしても呪文を唱える。

するた球体が光り出し、テニスボールほどの大きさに膨れ上がった。

「やはり近くにあるみたいです。これならリンクさせて、一部の荷物を取り寄せそうです」

掌の球体はさらに大きくなりサッカーボールほどに膨れた。

「やりました、リンク成功です。服を取り出しますね」

ララはサッカーボールほどの球体の中に手を入れ始めた。

ガラスの様に硬かった球体は水のように柔らかくなっており、ララがごそごそと探るたびに波紋が広がる。

「これとかどうでしょうか」

四次元ポケットから道具を取り出したかの様に、手には白い清楚なワンピースが握られていた。

「どうですか、似合いますかね?」

ララは取り出したワンピースを体に当てて裾を広げて見せた。

「かっわいい!すごく似合ってるよ」

「……あぁ、そうだな……」

あまりのかわいさにボーとなって見とれてしまった。

「なにデレデレしてんの?」

「別にデレデレなんてしてないさ」

美晴には完全にお見通しのようだがごまかした。

「……ごっほん」

「なんだ、美晴」

美晴はこの状況下で、なんでわからないのって顔で見つめてくる。

「んもぉ、わからないの?乙女が着替えるんだから出て行ってよ!」

美晴に言われるまで着替えをしなければならないことに気づかなかった。

ララが手を合わせて、『ごめんね』のポーズをしている。一つ一つのしぐさが天使の様にかわいらしい。

俺はリビングをそそくさと出ていき、自身の着替えも兼ねて二階の自室へ戻ることにした。

しかし、ララには驚かされることばかりだ。

最初に現れたときは、空からゆっくりと降りてくるし、パスポートらしきものを投影する球体を出したかと思えば、その球体は四次元ポケットみたいに別の空間と繋がっていたりするし、不思議なことばかり。改めてララが宇宙人だと実感する。

美少女二人と出かけることもあって、少しはこぎれいな服に着替えた。


とは言え、さすがに美少女を二人もつれていると周りの視線が痛い。

清里寮は地元の観光名所で、ある程度の人では覚悟していたが、いつも以上に人だかりができてしまった。

不可抗力とは言え、切っ掛けは美晴なんですがね。

さっき起きた出来事を思い返すとこんな感じだ。

俺がソフトクリームを買ってくる間、美少女がゆりゆり会話しながら二人ベンチに座っていると、チンピラ風の安い感じのお兄さんたちがナンパを仕掛けたそうだ。

丁寧にお断りをして、俺という殿方もいることを申しても、いいところに行こうとの一点張りで、言うことを聞かないし、手を掴んで車に乗せようとしてくるもんだから、美晴の合気道ニ段と空手初段が炸裂したというわけだ。

『俺の強さに、お前が泣いた。涙はこれで拭いとけ!』って、なったかは置いておいて、お兄さんたちは涙ながらに慌てて立ち退いたそうだ。

その様子をご覧になっていた聴衆の皆さんから、拍手喝さいを浴びたところで、ソフトクリームを買ってきた俺の登場と相成りました。

「おい美晴。なんでこんなになってんだ」

「知らないわよ。チンピラが悪いんだから」

「だからって、ララは追われている身だぞ。目立ってどうするんだ」

「とりあえず、場所を変えましょうか」

「「さんせーい」」

とのことで、ソフトクリームを食べつつ清里寮を後にした我々は、見晴らしの良いまきば公園へ。


ここは県立の牧場で、牛やヤギ、ヒツジなどを飼っている。

高台にあるレストハウスからは、南アルプスや遠くには富士山も拝めるビュースポットなのだ。

俺たちは、観光客の比較的少ない羊牧場付近から、山々をながめることにした。

「きれーだね。今日は雲がないから富士山も見えるよ」

「ここの眺めはこの辺りでは一番いい」

「地球って、緑が豊富で素敵なところですね」

「ララの星もこんな感じなのかい」

「私の星は……ほとんどビルに覆われていて、緑が多い場所は少ないんです」

「すごい近代化されているんだね」

「科学の発展はあるのですが、地球の様に緑の多い惑星はなんだかあこがれてしまいます……」

「むしろ科学の発展しているララの星のほうがすごいって、惑星間を移動する船とか降下装置も作ったんだろ」

「はい。ですが、多くの犠牲も払いました。多くの動植物は住処を追われ、人工的に作られた保護地区にて生息している状態です」

ララは木の策に手をかけ寂しそうに語る。

「私ってば、わがままですね。科学の力に普段から頼っているのに、地球みたいな緑ある惑星がうらやましいだなんて」

「そんなことはない。たしかにない物ねだりかもしれないけど、いいなって感じる気持ちはあってもいいと思うよ」

「ありがとうございます」

「それにこうして出会えたりも、ララの星の科学力のおかげだしな」

風が吹き抜けララの髪を揺らす。

「おーい二人とも、もふもふの羊を触りに行こうよ」

「そうだなせっかく来たんだし、ララも地球の動物に触れあってみないか」

「はい。羊はふわふわしていて楽しそうです」

俺たちは、羊牧場でもふもふを堪能した後、ポニー牧場と動物ふれあい牧場でヤギなどに餌をあげて過ごした。

お昼ご飯は、見晴らしが格別に良いまきばレストランで取ることにした。インスタ映え必須の清里ジャンボバーガーを堪能した。

高原の恵みを存分に味わえる一品は訪れたら必ず食べておきたい。

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