第43話 ララの父と母
「昴君だったよね。僕のフィアンセの弟でもあるから穏便にしたいところだ」
「誰が
「そんな君に惚れてしまったのが、僕の過ちだ。だがそろそろ僕の愛を受け止めてほしいところだけどね」
彩星に向けてウィンクしている。
された当の本人はゲンナリしているが、めげないのがこのイケメンのいいところだろうな。
思い出したわ。合宿の最後の日に帰るとき、黒塗りの高級車に乗ってきた人物だ。姉貴と親しそうに話してはいたけど、現実はそうでもなさそう。
「まぁいいけどね。いずれは僕と一緒になるんだからさ」
「はいはい、そりゃーどーも。それでララ姫をどうするんだい」
彩星はめんどくさいながらも、話を戻してくれた。
「ララ姫には法務省の入国管理局のところには返さないさ。外務省宇宙局第九課が管轄する、西棟にある日本のフロンティアへお連れする」
「ところで入国管理局に渡さない理由は?」
「ララ姫がそう望んでいるからな。だからこの僕、外務省が出張ってきたんだ。国のやり方とはいえ、無理やり花嫁にされる立場の女の子を突っぱね返しはしないさ」
「あんた、思っていた以上にいいやつじゃんか」
「あいてー。だから最初から言ってるでしょ。僕の彩星ちゃん」
彩星はイケメンの肩をバシッとたたき、ほめて遣わした。
「さてと一応、亡命扱いにしているけど、法務省が引き渡しをずっと要求していてるからね。それとさ、ララ様のご両親であるエミュータス惑星国王、女王陛下が地球へ向かっているそうだ」
「えっ? お父様とお母様がですか……」
「そりゃ娘が地球に亡命したとなれば焦るわよね。中立惑星でもある地球。でも宇宙的には発展途上国だから、治安の心配もあるしね」
俺は地球の立場を知った。宇宙から見た地球なんてチッポケな物だけど、地域によっては発展していると思ってはいたが、宇宙的見れば未発展で治安も安定していないと思われている惑星なんだな。
俺は宇宙的な世の中を知って、うぬぼれていた心が少し寂しくなる。
───ぷるぷるぷるぷる。携帯が鳴った。
「はい。九課の上嶋だ。どうした……そうか
「あの、お父様とお母様が到着されたのですね」
「あぁ、おっしゃる通りです。月の入国審査にて地球行きの便を待たせて足止めをしているが、そんなに持たないそうです」
「一旦、九課の施設へお戻りくださいませんか」
「いやです。ここに居させてはもらえませんでしょうか」
「ララ、この家に居ても解決はしナイよ。上嶋チャンの言うとおりに安全な九課の施設に行こう」
「セレスシス、
「それはそうかもしれないケド……」
宇宙にも国家間の国際紛争が起きているわけなんだ。
規模は小さいけど地球も国境問題や紛争、テロなど安全ではない。
日本だって例外ではない、隣国の領土問題でもめている。
いつ戦争になってもおかしくないと見解を出している学者もいるわけだ。
ここはセレスシスさんの言う通り、外務省が管理している施設であるあの偽の日本の街へ戻っていたほうが安全だろう。
だがしかし、あそこに居たくないというララの気持ちも考えてあげたい。
お姫様とのことだから、おそらく自分の惑星でも自由な行動はできなかったはずだからだ。
せっかく中立の地球に来ているのだから、できる限り自由に行動させてあげることはできないだろうか。
そこへ突如住宅地に不似合いの観光バスが現れた。
家の前に止まると、プシューとドアが開き、バスからスモークが立ち込め、さらに赤い絨毯を持ったメイド風の二名が降りてくると、ハリウッドばりに玄関まで広げた。
みんな唖然と取られていると、一部ではあるがことを察した上嶋や姉貴をはじめ、黒服たちがバスの入口に向かって片膝立ちで頭を下げている。
誰が降りてくるのか、何となく俺ですら察しがついた。
降りてきた人物に真っ先に反応したのがララだ。
「お父様、お母様。なぜ地球に……」
やはり下りてきたのは、エミュータス惑星国王、女王陛下であり、ララの父と母である。
RPGに登場する、いかにも王様っていう威厳のある格好をしていた。
俺も膝立ちとかしたほうがいいのかな。
セレスシスさんもすでにしているが、エレナちゃんはしていない。
この差は何なんだよ。まったく分かりやすくしてくれよな。
とりあえず棒立ち状態よりかは、姉貴に従い跪いておくか。
「家出同然で国を出るなど言語道断。どれだけ迷惑をかけたのか知っているのか」
「いいえ、家出ではありません。ちゃんと旅行に出で来ると申したはずです」
「置手紙をして、旅行に出かけるやつがどこにいる!」
「まぁまぁ、あなた。こうしてララは無事なんですし、良かったではありまんか」
「そうです。エレナちゃんが面倒見ていましたのでご安心を」
エレナちゃん! このタイミングで親子間での会話に突っ込むとかダメだろ。
「エレナ姫。私共のわがまま娘が、ご迷惑をおかけしたようですみませんお詫び申し上げる」
国王はエレナちゃんに一礼をした。しかもエレナ姫だって。
そうか、エレナちゃんも女子寮の一階で護衛がつく身分だって言ってたよな。そういうことか。エレナちゃんもどこかの惑星の姫君なんだな、納得できたわ。
「エレナ姫だけではない、地球政府にまで迷惑をかけているんだぞ。それに不法入国したと聞いたぞ」
「それは……お父様が地球の入国審査の段階で、私を通さないようにしていたと聞きます。それならば途中下車でもして地球へまいります」
それが空から降ってきた女の子。ララだ。それを俺があの公園でキャッチしたことから物語が始まったわけか。なるほどね。
「地球にどうしてそこまでこだわるのだ。幼い時に一度きり来た惑星だぞ。どうしてそこまでもして」
「それはあれですね。許嫁の僕が居ても、それよりも大切な何かを探しに来たのではないでしょうか?」
観光バスから新たな人物が登場した。
下を向いているからよくは見えないが、おそらく同い年ぐらいであろう、こちらもRPG要素の高い王子様ルックというのだろうか。白い制服姿の男が降りてきた。顔はそこそこ……いやハンサムというべきであろう。
許嫁と言っているからには、ララはこの男から逃げてきたんだな。
「誰が許嫁ですか。そんな取り決めは昔のことではありませんか。私は認めたくないのです。自分のことは自分で決めます!」
この発言はララの強い意志を感じる。よくも知らない男と結婚させられると知ったら大半のやつならお断りでしょう。
「親の取り決めを守ることも、時には必要ではないのですかね?」
この男のおっしゃる通り、全部を守る必要もないが、必要な時には言い伝えを守ることも大切だ。
だがしかし、好きでもない人と結婚することは、例え親が決めたことでも疑問を感じる。
そこまで守るべきことなのか。結婚は残りの人生地を左右する大切なことだ。それを親が決めるにしても、限度があると感じる。
一歩を踏み出して反論してやりたい。だが、その思いを感じ取ったのはほかでもない姉貴だ。
俺が踏み出そうとしているところ、服を引っ張り首を横に振る。さすがは姉弟だ。俺の思いを知ってのことだろう。
『これはララ自身が解決すること』そうと言いたいのだろか。
それれでもララを助けたい。それが俺の答えだ。
一歩を踏み出そうとしたところ、誰も予期しない発言をララがした。
「わっ、私の初恋の相手は昴だもん。昴のそばに居たいから地球に来たのです!」
「ほえっ!?」
下を向いていた俺は、呆気にとられ前を向いて立ってしまった。
それだけではない。ララの発言で、みんな一斉に頭を上げてララや昴のことを知っているものは、俺を見た。
「誰だ。そのスバルとやらは? いったい何者だ!!」
ララは強気にのしのしと歩き、俺の隣に来て腕を抱いてあっかんベーをしている。
小学生かとララに突っ込みを入れたかったが、そんなことはできず
「お前がララ様の初恋の人だと……それで地球まで……ありえない……ありえない!」
ララの婚約者は徐々に怒りを露わにして、俺をすごい形相でにらみつけた。
「なんだって、僕たちは許嫁ではないか。それなのにその男を選ぶというのかね」
「だって、好きな人には……ずっと、一生ついていきたいんだもの。私はあなたを好きではありません」
「うわっ……うぐっ、ぐはっ」
『好きではありません』宣言に、相当な精神力を持っていかれたララの婚約者は両足をついてうなだれてしまった。
それを見てあきらめたと思ったララは、にこにこ顔で俺の顔を覗き込んだ。
最初は強引な奴だと思っていた、ララの許嫁がボロボロになる姿を見て哀れに思ってしまい、ララには苦笑いしかできなかった。
それからララは、俺の腕を引っ張り、国王・女王陛下の前まで連れてくると
「お父様、お母様。この殿方が私の選んだ最愛の昴です」
さらに腕を引っ張り、俺に挨拶するように促してくる様子のララにせかされてしまった。この状況から断ることもできず……。
「あのえっと、国王、女王陛下。私は太田昴と申します……ララ……様とは、以前地球に立ち寄られた際、遊んだ中でして」
「……遊んだだと、娘と遊びの付き合いだと申すのか!」
「いえ、違います。幼いころのことで、一緒に遊んだ仲間という意味でして、決してふしだな関係ではございません」
「まぁまぁ、あなた落ち着いて。昴さんとおっしゃるのね。地球に来た時にうちの娘と遊んでくれた子でしたよね。ちゃんと覚えていますよ」
女王陛下は穏やかに昔話を語りだした。
地球の一般家庭の生活を見てみたいとのことで、うちの家に来たこと、その時一緒に遊んだことなどを話してくれた。
「それとて一時的な接触ではなかったのかね。ララ。なぜその昴を好きになったのだ」
「国王陛下それは、二人はキスしたからではないでしょうかね」
外務省の上嶋がそっと耳打ちをすると、さらに国王は少し怒りに満ち溢れていた。おいおい上嶋とやら、なんと余計なことをするんだよ。弟の俺が惨殺されたら姉貴に嫌われるぞ。
「昴とやら、先ほどふしだらなことはと申したではないか! これはどういうつもりだ!!」
「あらやだ、あなた知らなかったのですか? その日夜、ララちゃんは助けてもらったお礼にほっぺにチューしたと言ってましたよね。ララちゃん」
「お母様のおっしゃる通りです」
ララは顔を真っ赤になりながら答え、恥ずかしさや緊張からかさらに俺の腕を締め付け、小さく柔らかい部分がよりマシマシにあたってきて、俺は色々な意味でドギマギしてしまう。
「がっははははははははは。昴、勘違いをしてしまったようですまぬ。ほっぺにチューとはかわいらしいではないか。がっはははははは」
「あっ痛い痛い」
国王陛下は大きく笑うと、俺の左肩を大きくたたいたと同時にグッと肩をつかむと俺にだけ聞こえるこうな小さな声で一言だけ言い放った。
「それ以上のことは、絶対にないよな」
「もちろんです。ございません」
「ならよい。婚前の行為は断じて許さんからな」
凍り付くような低く威嚇するような声色で、国王陛下はくぎを刺してきた。俺は凍り付くようにブルブルと震え凍り付いた。
「あなた。そんなこと言っても駄目ですよ。私は大分あなたに遊ばれて大変でしたからね」
「これ、人前で何を言うか。やめてください……っね」
国王陛下でも女王陛下には頭が上がらないようだ。
どこ世界にもこういう関係あるよなとか思ったりしてしまう。うちもそうだしな。
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