第42話 ララの秘密
朝食兼昼食を食べ終えると、セレスシスさんは残りの日本酒を飲み終え、ベロベロな状態で、満腹のエレナちゃんと昼寝をしている。
なんだかんだで仲の良い二人に、タオルケットを掛けてあげた。
ララと美晴は食器類の片付けをしている。
俺はリビングのテーブルを拭き終え、ふと台所の二人を見上げた。
二人は仲良く食器を洗い、拭いている。
違和感がないこの光景を過去に見たことがある気がする。それはいつの頃だろうか。随分と昔の気がするが思い出せない。
でも、ララと美晴はこの家で初めて会ったばかりなのに、昔から一緒にいるはずがないだろうと思ってはいるが、二人が並んでいても違和感の無い光景がそれを拒絶している。
二人は確実に違う人生を今まで歩んでいたはずだ。
「ねえ、昴もさぼってないで手伝ってよ」
「ごめんごめん。何をしたらいいいのかな」
「それでしたら、洗い終わったお皿をかたずけてくれませんか。置き場が私ではわからないので助かります」
「それならお安い御用だ」
二人から手伝いを任されてしまった。何もしないのは心苦しかったから、この申し出はありがたい。自分の家なんだし、収納するところぐらいは任せてほしい。
カタカタと食器をかたずけていると、玄関に誰かが来たのがわかった。
いったい誰だろう。
姉貴は電波天文台の施設に缶詰だろうし、両親はまだ東京の関連施設に向かったとのことだし、帰ってくる人なんていないはず……。
まさかまた
またララがさらわれてしまうのか。
今度こそ守りきらなくては、とはいえ武器はないし、宇宙技術はセレスシスさんのジュラルミンケースの中だしな。
とりあえず美晴の合気道でしばらくしのいで。そのすきに裏口から逃げるか。
だめだ、前回みたいに空間を弄られていたら、逃げ場がないだろう。
とりあえず、相手が誰なのか確かめる必要がある。
俺はリビングをそっと抜けると、相手に悟られないように忍び足で玄関へと向かった。
そこにいたのは意外な人物だった。
「あれ、もう帰ってきたのかよ。東京での仕事はもういいのかよ」
「あぁ、ララちゃんがいなくなったって聞いたから、本部まで出張ってただけだ。そしたらもうこっちに来ている聞いて戻ってきた」
「ちょっとまって、ララのことを知っているのか?」
俺は混乱した。父親はなぜ宇宙人のララのことを知っているのか。
「ララちゃんに会いに行くけど昴も行く?」
母親まで知っているのか。知らないのはもしかして俺一人?
なんだよそれ、俺はドッキリを仕掛けられたみたいだった。
その時、玄関が騒がしかったのか、台所に居たララと美晴がやってきた。
「まぁおじさま、おばさま。ごきげんうるわしゅうございます」
「久しぶりですね。こんなに大きくなられて」
「あなた、そして美しくもですよ」
「そうだったね。一二年で素敵なレディに成長されてよかった」
やはり三人はどうやら面識があるらしい。俺の知らないところで両親はララと以前、出会っているのだ。
「ちょっと待ってよ。三人とも知り合いだったのか?」
父親は呆れて表情で答えた。
「三人だけじゃないぞ。あと三人は覚えてなきゃ困るな」
「あと三人も?」
母親も困り顔で助け舟を出してくれた。
「昴だけじゃないわ。美晴ちゃんも覚えてないかしら」
「え!? 私もですか。ララちゃんことだけど確信がずっとなかったんだけど、一緒にいるときに何となく懐かしい感じがして……」
「そうなると忘れているのは昴だけだな」
「ちょっと待った。あと一人は誰なんだよ……姉貴か」
「その通り、弟よ。完全に忘れてしまったのかね」
「姉貴、いつの間に」
「ララとセレスシスが居なくなったって聞いたから、みんなここに集まっている気がしてね。立ち寄ってみた訳さ」
「昴。本当に覚えてないの?」
今にも泣きそうな悲しそうな顔色を浮かべるララは、言葉を詰まらせながら答えた。
「美晴ちゃんと……昴と……遊んだ日々……忘れちゃったかな」
思い出せ! 俺!! 銀髪美少女と過去に遊んでいた日々を!
海馬を掘りかえすことができるなら、ドリルで過去まで降り起こしてやりたい。
それか一滴残らず脳みそを絞り出してやりたいぐらいだ。
うーん、そうだ。ララの特徴である銀色の髪の毛……。なにか思い出せそうだ。
思い出した。そうだ、だいたい一二年前のことだ。
────俺は昔、ララに会っていたんだ。
あれはたしか幼稚園年長ぐらいのある夏の暑い日のことだった。大人がたくさん集まって何か話すことがあるとのことで、俺と姉貴は二階の部屋にいた。
「彩星、昴。ちょっといい、下りてきてくれる」
一階から呼ぶ母親の声で俺と姉貴は、下の階に降りてきた。
リビングに入ると父親のほかにも、たくさんの大人たちがいてドキッとした。
しかもほとんどが黒いスーツ姿にサングラスをしている。
「どうしたのおとうさん」
「紹介したい子がいてね」
ソファーには銀色に揺れる髪の毛が動いていた。
「さぁ、お嬢様。うちの子供たちです」
そう父親が言うと、ソファーに座っていた銀色の小さな髪の毛がキラキラときらめきながら、立ち上がりこちらを向いた。
それはお人形のように顔立ちが整っており、テレビで見るアイドルよりもかわいい子がそこには居た。水色のワンピースに白のエプロンドレス姿から、現代に現れた不思議の国のアリスそのままだった。
「ララ・スー・フォーダストリアです。長いのでララって呼んでくださいね」
ちょこんとスカートを持ち上げ軽く頭を下げるララは。本物のお姫様のようだ。
「長女の太田彩星です。よろしくお願いします」
不思議な生き物を目の前に、姉貴はスマイルでお辞儀をして挨拶を済ませた。
俺はララのかわいさにに圧倒されてしまい言葉が出ない。
「ほら昴も挨拶をせんか!」
「おおたすばるです。えっとあねのおとうとです。よろしくおねがいします」
父親にせかされて、ぎごちない挨拶しかできなかった。
でもララはにこやかな笑みを浮かべるだけで、特に気にしていない。
ここまで上品で品のある人に会ったのが初めてだが、緊張していたのは俺だけだろう。みんな普通に接しているし、姉貴はララと握手をしたり『髪の毛がきれいだね』なんてなんて言っている。
俺はその場を立ち尽くして動けないでいる。
もちろん緊張しているだけでなく、何をしていいのかが普通にわからないのだ。
女の子の知り合いなんて、姉貴を除いても同じ幼稚園の近所に住んでいる美晴だけだし、どう接すればいいのでしょうか状態。しかも髪の色からしても外国人だよな。
しかしさすがは女の子同士、姉貴とララはキャッキャとはしゃいでいる。
その輪に急に入れと言われても、キツイだろうよ。
そう思っていると俺の動揺を知ってか知らずか、ララは俺もとに走ってきて徐に手を握って
「わたしとおともだちになりませんか?」
そう言ってきたのだ。
目の前には、お人形のように白い肌で大きな目つを見開き、俺の顔を除いている。
正直……恥ずかしい。茹でタコの様に顔を真っ赤にしているであろう俺は、柔らかくて暖かいララの手を握り返すことすらできずにいた。
「なってくださいませんか? わたしはこのくにでおともだちがいないのです。なっていただけるとうれしいしいのですが……」
今にも泣きだすのかと思うほど、目をうるうるさせて見上げてくる。
心が痛い。こんな美少女にめをうるうるさせて見つめられることなんてない。俺は小さな心を決めて、力の入ってなかった手に力をちょっとだけ入れて握り返した。
「もっ、もちろんなってもいいぜ!」
「ありがとうございます。わたし、とってもうれしいです」
「ともだちはおおいいほうがいいしな、そうだ。あとできんじょのみはるっておんなのこもしょうかいしてやるよ」
「まぁ、おともだちをしょうかいしてくださるんですね。うれしいです」
俺の心臓がドックンとした。満面の笑みで答えるララの顔は、かわいすぎて誰もが恋をしてしまうだろう。
だがそれはこの年齢では恋心だとは思わなかった。
今日は挨拶だけとのことで、そのまま帰って行った。俺の心臓のドクドクと鼓動は鳴りやまなかった。
翌日もララは家に来た。
「あそびにきました。あやせ、すばる」
ララの後ろには昨日よりも黒服姿の背の大きな大人の数は少なかったが、サングラス越しに感じる目線が怖かったのを覚えている。
「よくきてくれたね」
と彩星はお人形のように繊細な手を取ると、二階の自室へ招いた。
俺はあっという間に取り残されてしまった、というよりも動けないでした。その時、助け舟が現れた。
「すばる。居る?」
玄関の外に同じ幼稚園の美晴が現れた。
「よう、どうしたんだ」
俺は玄関を開けて美晴を招き入れる。
「ねえ、そとにおおきなくるまがいっぱいだけどどうしたの?」
「それはね。がいこくのおともだちがきているんだ」
「がいこくのおともだち? すごーい」
「あってみたくない?」
「うんうん。はるみもあいたい」
「いま、おねいちゃんせんせいのへやにいるんだ」
「じゅぎょうちゅうかな」
「だいじょうぶ、だいじょうぶさ」
そうして、美晴もララと友達になったんだ。
毎日毎日、三人で一緒に遊んだんだ。
時には黒服たちから逃げて、外で遊んだこともあったな。
あるとき、今回も黒服たちが一階で休んでいるときに、目を盗んで外に出て、近所の公園で鬼ごっこだったか、かくれんぼだったかをしている時だった。
「なんだよ、ぎんいろのかみなんておばあちゃんみたいだな」
「そっそんなことないもん。わたしは五さいだもん」
「うそいうな。五さいでおばあさんみたいなかみのけしているこなんていないぞ!」
「そんなことないもん……」
近所の悪ガキにララがいじめられていたことがあった。
「おい、そのこはがいこくじんなんだ。だからかみのけのいろがちがうんだ」
「なんだよおまえ、なまいきなやつだな」
それでその悪ガキと、喧嘩になったなんてこともあったな。
死ぬ間際の走馬灯のように、懐かしい記憶が次々と思い出されていく。
────たしかに俺は昔にララと会っていた。
「ララ、ごめん。忘れていたんだ。昔一緒に遊んだよな」
「思い出してくれたのですね」
「そうだ。完全に思出せたぜ」
俺は自慢げに昔のことを語り始めた。
ララもそれを聞くと、そうそうとうなずいてくれる。
「ほらお前あの時、ラらからキスされたの覚えてるか?」
「ほえ、キスデスカ?」
みんなが驚く中で、俺は一人凍り付いた。ララときっキスしていたのか。
なんだよそれ。そんな絶対に思い出したい記憶をなぜ蘇ってこない。
「あのね……キスっていってもね……」
顔を真っ赤に染めたララは口ごもってしまう。
「■☆▽▲◇……」
美晴至っては言葉にならないことを口走っている。
「助けてくれたお礼に、昴のほっぺにキスしたことだよ」
ニタニタ顔の姉貴がそう教えてくれた。
そうか、ほっぺか……だよな。そうだよな。
幼稚園児だしね。五歳だしな。何を期待しているんだよ俺は。期待しすぎてないか。
「ごっほん。昔話もいいが、ここにいては良くないな」
「電波望遠鏡の研究室に戻すのか」
「一旦はな……ご両親もとても心配されている。なにより家出同然で地球に来ていることが問題なんだ」
「ララが家出? それは無理やり結婚させられそうになっているからだろ。ララの気持ちを考えてもみろよ。そうなるだろ」
「そうはいかんのだ」
「何がダメなんだよ」
「彼女は王位継承順位二位のプリンセスなんだ。そういえばわかるかね」
そう答えたのは、黒よりも深く黒いダークスーツに身を包んだインテリ系イケメンだった。
このインテリ系イケメン? どこかで見覚えがあるな。
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