第44話 ララの婚約者

なごやかな雰囲気の中で、俺の自己紹介? は終わったようだが、ララは俺が逃げないようになのか、腕を離さない。

というよりも、さっきから小刻みではあるが震えているようにも感じて、手を振りほどけない。ララも少し怖いのかな。

「ですが、国王陛下。私の婚約は継続なさいますでしょうか」

「それは変わりがないのも事実だ」

その言葉を聞きニヤリとするララの婚約者。

「あなた。それではララちゃんの意見はどうなるのです。勝手にかけをして負けたのはあなたのせいですよね。それを娘に穴埋めをさせるのはどうでかと」

「それについては何度も話したではないか。仕方なかったんだよ。酔っていて気持ち悪くてな……やつがあんなにも強いとは思わんかったわい」

「まさか、反故になさるおつもりではないでしょね国王陛下。僕、エルフィン・ランラドールこそが、ララ様の許嫁として決まって八年たつのですよ」

「お前の意見も当然だ」

「あなた!」

「国王陛下!」

じりじりと国王陛下に詰め寄る二人。

「ではこれではどうでしょうか。僕とスバルとやらが決闘して勝ったほうが改めて許嫁としてララ様と結ばれると、言うのは」

おいおい決闘ってなんだよ。俺はララの許嫁のエルフィンと決闘をしなければならなくなってないか。あれかフェンシングとかでやる感じか。俺やったことないし。それよりもララが景品扱いされているのに腹が立った。

「ちょっと待ってくれ、ララは景品ではないぞ。勝ったとかで貰うとかやめないか。ちゃんと二人が好き同士であれば、問題ないはずだ」

んっ!? 俺は何を言ってるんだ。好き同士って、俺はララをどう思っているんだっけ……。

「怖いのかね。僕に負けるのが。そしてララ様を奪われるのが嫌なら戦え!」

「ちょっと待てよ。やっぱり戦う前提で話が進んでするんですがね。ララの気持ちは無視かいな」

エルフィンの不敵な笑みは止まらない。

「そんなの決まっておるだろ、強い方にララ様は好きになるであろう」

「いや、それは絶対にないから」

冷たいララの一言が入った。

「ララ様。このエルフィンがそんなにもお嫌いですか。最初に出会っ頃は、愛を育みながら、楽しく遊んでいたではないですか!」

「それはあれです。あなたが許嫁だと知っていたら遊んでもいませんでしたし、あなたと愛を育んでもいませんでした」

────ズキュン!

エルフィンの心を貫く音が聞こえたと思えた。彼はまたしても膝をついて、項垂れてしまった。

なんだかエルフィンが、かわいそうになってきたな。本当にララのことを好きだったとしか思えない。

だがそんな彼を擁護するのは国王陛下。

「エルフィンよ。すまぬ。わしの娘の育て方が悪かったのだ。許してほしい」

「……いいえ、国王陛下! いえ、お父様!! エルフィンはこんなぐらいで倒れたりは致しません。なぜならララ様を真の底から愛しているのは、僕だけですから!!」

エルフィンはドン底から立ち上がると高らかに宣言した。

なんてポジティブなやつなんだ。見習いたいぐらいにポジティブ思考な持ち主なんて見たことがない。

「お父様、お母様。エルフィンは一度国に帰り出直してまいります。必ずやララ様のハートをつかんで見せましょう! あっはははははははは」

「うむ。よかろう。エルフィンよ、国に帰りしっかり出直してまいれ」

「ありがたきお言葉に感謝いたします。ララ様!」

「はっ、はい!?」

「次に会うときは、婚約者エルフィンとして参りますので、成長した僕を必ずや見てくださいね」

そう言い残すと、すかさず観光バスに乗り込み、出発していった。

国王や女王陛下をそのまま残して……。

ララはというと、ずっと俺の腕を握りしめて、「あっかんべー」をしている。ララは子供かっつーの。

観光バスは少し進むと大空へ飛び立っていった。待て待て飛び立った!?

あの観光バスはバスじゃなくて宇宙船も兼ねているのかな。月まで行ける観光バスとかって、もう月はある種、観光地なのかな?

「ところでララと昴とやら、いつまで二人はくっ付いているのだ」

状況を改めて理解したララは、顔をほんのり赤くして俺の腕をそっと離した。

「あらあらまぁ、なんて愛らしく初々しい光景でしょうね。あなた」

「そうか。わしは、賭けのことでランラドールがなんて言ってくるのかが心配でな……」

「ふーん、私に内緒で娘を賭けていたことが、心配でなりませんわ」

「ごほっごほっ。それについては、もう何度も謝ったではないか。それにエルフィンは、昔から好青年で礼儀正しい子だったので安心したまえ」

「だからと言って、ララは私の娘でもあります。勝手に許嫁を取るなんて聞いていませんわ」

「もちろん、ララは大切な私達の大切な娘だ。娘の将来を考えたと時に、あれぐらいの好青年であればと思ったのだよ。もちろん賭けとは別だぞ」

国王陛下の声が駄々ん弱まっていくのを感じた。

なるほど、女王陛下の知らないところで、賭けをして許嫁を取ってしまったわけだから、女王陛下が怒るのもわかる気がする。

とりあえず今日のところは許嫁が食い下がったけど、諦めたわけではないみたいだし、これからララはどうするんだろうね。

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