第20話 潜入!研究棟

彩星の研究室に潜入成功した。

室内は間接照明が付いているのみであった。

上の階も探したが姉貴はいなかった。どこにいったんだろうか。電話も常に圏外だしな。

できれば姉貴に事情を話してララを助け出せればと思っていたが、そう簡単にはいきそうにない。

そこで次のターゲットは彩星のパスを手に入れることだ。

室内をくまなく捜索するがパスを発見することはできなかった。

にしても掃除したばかりなのに、またしてもあちらこちらに書類のタワーマンションが構築されていた。

今の時間は夜の一一時を過ぎた所であった。これ以上時間をかけるわけにはいかない。明日の夜明けは午前五時四五分ごろ。

それまでに二人を救出し、電波天文台を後にしなくてはならない。タイムリミットまで残り六時間弱。


俺は彩星のパスを奪還することをあきらめ、ソファに置いてあった白衣を着用し変装することにした。

ここの研究員は白衣を着ているとこが多く、白衣を着てさえいれば何かしらの研究員だと思われるに違いない。

彩星の白衣を羽織り鏡の前で確認する。

髪型を整え、黒淵メガネをしてそれっぽく変装した気がした。小道具にバインダーと、その辺に転がっていた適当な研究レポートも拝借することにした。

準備は万端だ。彩星の研究室を出るため、恐る恐る扉をゆっくりと開く。

扉を開けて外をそっと覗くと、左右に廊下が続いている。

「誰もいない……か」

ドアの閉める音がしないように注意して扉を閉める。

左は行き止まりなので右に進む。まずは研究棟から本棟へ行ってみよう。二人の情報を掴めるかもしれない。


長い廊下を進むと本棟への通路が見えてきた。

しかし、本棟から歩いてくる警備員の姿が見える。

まずいな。いきなりのピンチかよ。

警備員は俺の姿に気づいた。もう逃げることは許されない。

今引き返せば余計に怪しまれてしまう。行くしかない。

意を決して、本館へと続く通路を進む。警備員もこちらへ向かって歩いてくる。

俺は研究者っぽくバインダーのレポートを捲って、あたかも忙しそうにして見せた。

今にも心臓が爆発しそうなほど鼓動が早くなっているのがわかる。相手にも聞こえてしまうほどにバクバク波打っている。

警備員とのすれ違いまで、後五秒、四、三、二、一……警備員とすれ違った。

「ふぅ」

何もなかった安堵からなのか息が漏れてしまう。その時

「おい、ちょっと待って」

すれ違った警備員から呼び止められ、俺は歩みを止めた。

息を漏らしたことで何かを察してしまったのか。はたまた、変装がバレたか。

またしても心臓の鼓動が早まる。

俺はゆっくりと後ろを振り返る。顔面は血の気が引いて蒼白になっているに違いない。

「……なにかありましたか?」

「これ、落としましたよ」

警備員は俺が落としたとされる物を差し出した。

それは、ヘアピン?

「バインダーからこれが落ちましたよ」

「あっあれ、落としてしまいましたか……スミマセンキヅカズニ、ありがとうございます」

俺はお礼を言い、落としたとされるヘアピンを受け取ろうとしたが、警備員の問いかけに言葉を失った。

「あんた、髪の毛が短いのにヘアピンなんて何に使うんだ」

アウト。完全にアウトだよな。

警備員は俺がヘアピンなんて使わないと、知っていてこんな質問をしてくるなんて。

多分バレてる。変装して侵入したことがバレてる。

警備員だもんな、毎日巡回していれば研究者の顔だって、ある程度知っているだろう。

またしても認識が甘かったのか。

頭の中をぐるぐると考えが駆け巡る。まだ、バレたって決まったわけじゃないさ。

切り抜ける策を考えろ。

「あんた大丈夫か。顔が青いように見えるぞ」

「えっ。ええ大丈夫です。ちちょっと考え事をしていたものですから」

バインダーから落ちたのなら、あれしかない。

「ヘアピンでしたよね。さすがに僕の髪では使わないですよ。ほら資料のはさむのにクリップがなかったので、女性の研究員の方からヘアピンをいただいたのです」

これでどうだ。クリップがわりにヘアピンを使っていたなら通るだろう。

「ああ、そうですか、クリップっていざ欲しいときになかったりしますからね。こちらお返ししますね」

警備員は俺の差し出した手のひらにヘアピンを置いた。

「それでは」

「ありがとうございます」

切り抜けた!

「そうそう、研究のし過ぎには気をつけてくださいね。顔、うっすらですが青いですよ」

警備員はそう忠告すると、研究棟へ歩みを進めていった。

俺は警備員を見送ると、どっと疲れが押し寄せてきた。

あぶねーよ。最後の最後まで油断のならない警備員だったな。

だが、この変装なら何とかなりそうだ。毎日巡回している警備員ですら、全員の研究員の顔を覚えているわけではない。

しかし、顔色まで見られているとは、これかは注意して挑まないとな。

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