第19話 ウサギを追って

日はどっぷりと落ち、辺りは漆黒の闇に包まれ、電波天文台の明かりだけが煌々としている。

月は出でない新月の夜だ。潜入するのにはぴったりの夜と言える。

中に入ったら後戻りできないぞ。捕まった場合どうなるかわからないんだぞ。

だがララとセレスシスさんを助けたい。その衝動に勝るものはなかった。

深く息を飲みこみ、もう一度、球体にウサギになりたいと念を込めた。

すぐに体は小さくなり、白いふさふさの体毛が生えてくる。ウサギに変身完了だ。

ぴょんぴょんと塀へ向かいウサギが掘った穴に向かった。

トンネルは真っ暗で何も見えない。少しばかりでいいから明かりが欲しいと感じた。

すると首物がうっすらと光り出した。どうやらセレスシスさんの球体は変身すると首輪としてくっつくらしい。

これなら暗いトンネルでも安心して通行できる。

トンネルに入ると穴はまっすぐ塀の中に続いていた。しばらくぴょんぴょん歩いていると、複数の横穴が現れた。ダンジョンの様に入り組んでいる。明かりがなくさまよっていたらと思うとぞっとする。

道は三つに枝分かれしていて、一番通行されていそうな広い左の道を選択。

ぴょんぴょん

またしても二手に分かれ道が伸びている。さてと、どちらが正解だろう。

ここも勘でいくしかない。今度は左の道を選択した。

ぴょんぴょんとダンジョンのようなウサギの穴を進むと出口を発見。

とりあえず外を覗くと、敷地内であることは間違いないだろう。

だがもう一つ、内側の有刺鉄線を超える必要がある。

一度外に出て、内側へと続くウサギの穴を探さなくてはならない。

地上をぴょんぴょん歩いていると、一羽のウサギが現れた。

さきほど入口を教えてくれた、首輪に懐中時計をつけている懐中時計ウサギだ。

懐中時計ウサギは鼻をひくひくすると、ぴょんぴょん歩いて行ってしまったかと思うと、こちらを振り返りまた鼻をひくひくしている。

おや、もしかしてまた案内してくれるのかな。

そう一度あることは、二度三度あるともいうし、ついて行ってみることにした。

二羽のウサギがぴょんぴょんと、夜の有刺鉄線内を歩いている。

誰かが見ていたら、俺らの光景はなんてかわいらしいと思うだろう。

ぴょんぴょん

しばらくすると懐中時計ウサギは、一つの穴の前で止まった。

この穴が敷地内へ続くダンジョンであろうか。

俺は鼻をひくひくして、お礼をした。これが懐中時計ウサギへ伝わればいいのだが。

早速穴に入ると、またもやダンジョンの様に右へ左へとトンネルは続いていく。

途中行き止まりもあったり、別のウサギが寝ていて通れない個所もあったが、ようやく出口を見つけた。

頼むぞ、敷地の内側であってくれ。周りを見渡すと建物の近くであった。

やった!成功だ。

最後のダンジョンを攻略したパーティーの気分だ。

建物内に入りたいが、扉からは普通には入ることはできない。カード型の専用パスが必要だからだ。どこかで入手しないと、どこの扉も開けられない。

手っ取り早くパスを手に入れられる場所に覚えがある。

姉の彩星から拝借するのだ。

この位置からだと彩星の研究室がある棟へは、右へ五0メートルほど進めばいい。

ぴょんぴょんと急ぐが、なにせウサギの歩みである。速度には限度があった。

せっせっ、ぴょんぴょん。せっせっ、ぴょんぴょん

やっとの思いで彩星の研究棟に到着した。

周りに人気が無いことをしきりに確認して、ウサギの姿から元の姿に戻った。

しばらく低い視界でいたせいか、いつも以上に高く感じられ、身長が伸びたのかと錯覚するほどであった。

研究棟へ入るのにもパスは必要だ。

しかし俺は裏口を知っている。彩星の部屋の窓は一か所だけ開けっ放しにしているのだ。

合宿のときに彩星の部屋を掃除したときに、鍵が開いているのを指摘したが、ここだけは開けておいているそうだ。

なぜなら、セレスシスさんと花見をしながら、外で飲んでいるときに、部屋にパスを忘れて入れなくなったことがきっかけで、1か所だけ開けておいているそうだ。

掃除を手伝ってよかった。うんうん。

彩星の部屋の窓をそっと開けた。すーと扉が開いた。やったね。

これで研究棟への潜入成功。

一歩一歩、着実にララとセレスシスさんへと近づいていると思うと、昂る感情を抑えきれない。

待っていてくれ、そして二人に何事も起きていなければいいのだが。

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