第22話 秘密の花園へようこそにゃん

さてと女湯に潜り込むのは不本意ではあるが、ララとセレスシスさんを救うためならば致し方ない。

段取りはこうだ。

球体の力を利用してネコに変身して、パスを拝借する。

至ってシンプルかつ明確だ。

もちろん覗が目的ではないので、パスを見つけ次第すぐに退散しよう。


作戦が決まったことで俺は、ちびちび飲んでいた缶コーヒーをグイっと一気飲みした。

談話室を出てお風呂場のある一階を目指す。

変身する場所を探してみたが、お風呂場からはここのトイレが一番近いらしい。

早速トイレの個室に入り、セレスシスさんからもらった球体を取り出す。

球体を手に握りしめ目を閉じた。

念じるんだ。念じろ。念じろ。

ネコになりたい。ネコになりたいと強く念じろ。

俺はネコになるんだ!

ウサギに変身したときの様に、体が熱くなるのを感じた。

目を開けるとまたしても視界が低く感じる。

手は茶色と白のしましま模様の毛が生えていた。

ネコに変身が完が了したんだよな。

手元に鏡がないため確かめる術がない。


個室の下から背を低くして恐る恐る出てみた。

誰もいないみたいだ。

トイレの出入口までくると廊下が見える。

すると足音が地鳴りの様に響いてきた。誰か来る隠れなきゃ

壁際にぴったりくっついて外の様子をうかがう。

黒い革靴の男が通り過ぎて行った。

あれはさっきヘアピンを拾ってくれた警備員だ。

あぶねー。

見つかったら外に出されて一発退場だ。

またしてもコンテニューなしの一発勝負。

優しくないゲームを進めているようで、ほんとうに心臓に悪い。


気を取り直して廊下に出てみた。

先ほどの警備員はどこにもいない。

さてと女湯はどこだ。

左右を確かめると斜め向かいが入口だ。


もう一度左右を確かめ、誰も来ないことを確認すると、すばやく移動した。

早い。早すぎる。

ネコだからかウサギのときとスピードが違う。

俺は女湯の入口の壁に頭からぶつかってしまった。

痛い。ぷるぷるぷる。

頭を振って、痛みに堪えた。走るときは速度は調整する必要がありそうだ。

頭の上には赤い女湯の暖簾がある。

ここをくぐれば女湯に潜入できる。

「ゴクリ」

生唾を飲みこんだ。

大丈夫俺はネコ。人間の男ではない。俺はネコになったんだ。

だから決して覗きに来たんじゃないぞ。

そう言い聞かせないと、やりきれない。

一歩一歩歩みを進める。脱衣場が見えてきた。気配を察するにここはに誰もいないようだ。

だが風呂場からは水の音と女の人の声が聞こえる。

多分、先ほどの玲香先輩と美桜さんだろう。

深夜帯ということもあってか、他には誰もいないみたいだ。

これなら探し物は楽だ。

脱衣場内の籠を探して回ると、二つだけ着替えの入っている籠を見つけた。

あったこれだ。上から二段目のボックスの籠がそうだ。

二つあるうちのどちらだろうか。まずは右から確認する。

俺はぴょんとジャンプして、籠の中に入る。

一番上にはバスタオルか。その下を覗きたいが、ネコの手だとなかなかうまくいかない。

やっとの思いでバスタオルをどかすと、白衣が現れた。名札を見なきゃ。

残念これは美桜さんのほうであった。

とすると残りは左。選択を誤ってしまったようだ。

二分の一なんだから仕方ないさ。

俺はチョンと下に降りた。

だが、降りた先に脅威が迫っていることに気づかずにいた。


「あれっ、ネコちゃんだ」

「うそ、ほんとだ。ネコが居るね。かわいい」

白衣を着た女の子たちは俺めがけて手を出してきた。

頭をなでなでされた。

気持ちいいかも……。いかんいかん、ネコの気持ちになってどうする。

女の子たちは、さらになでなでしてくる。

「かわいい、ふわふわだ」

「ねー、かわいいね。でもどこのネコなんだろう」

「ほら首輪をしているから、誰か飼っているネコだよ」

「本当だ、きれいな色をした首輪をしているね」

女の子たちはのど元をわさわさしだした。

あーーーーーーーーーーーーーー

気持ちいーーーーーーーーーーー

だぁぁぁぁぁぁぁぁ、ダメだ。

俺、正気を持てって。ネコじゃないんだからさ。いや今はネコの姿なんだけどね。

はぁはぁ、ネコの体はキツイぞ。

「私、家ではネコを飼っていたんですよ。だからここを触るとさらに気持ちいらしいですよ」

すると女の子はしっぽの付け根をトントンし出した。

ぐわーーーーーーーーーーーーー

もっともっとして……、この感じたまらない……。

「にゃーーーーん」

「本当だ。声出して喜んでする。私もしてみよう」

トントン

おぉーーーーーーーーーーーー

あぁーーーーーーーーーーーー

たまらない……。

「にゃーーーーん」

そこを責められると、ネコはこんなにも気持ちいいのか。

トントン

ぐぅーーーーーーーーーーーー

ぶぁーーーーーーーーーーーー

「にゃーーーーん」

トントン

もうだめ、腰が抜ける。逃げなくては……。

よろよろ歩いて逃げていると、突然体が軽くなって、視界が高くなった。

なんだなんだ。何が起きたんだ。

「トントンされるの気持ちよかったですか?ネコちゃん」

女の人に抱き上げられていた。

豊満な胸の中に抱き上げられ、柔らかくとても気持ちいい。

「抱っこ上手じゃないですか」

ネコの本能的に身動き取れなくなっている。

暖かく包まれている感触は、まるで赤ちゃんの揺りかごの様だ。次第に眠気を誘ってまでくる。

ゴロゴロゴロ

ゴロゴロゴロ

「あれ、ゴロゴロ言い出したね」

「それって、とてもリラックスしていて、心地いい状態ですよ」

そうかそうなのか、ゴロゴロ音がすると心地よいのか。

一旦寝てしまおうか。

いや、まてまてまてまてまて待てよ。

ネコの本能に逆らわなくては、でも……本当に気持ちがよすぎる……。

「そろそろお風呂にはいんなきゃね」

やっ、やっと解放されるのか。

「ネコちゃんも一緒に入る?」

マジですか。それだけはお断りしなくては、

ジタバタジタバタ

「ネコちゃん急にどうしたの」

「お風呂に入るって、言い出したからじゃないかな。お風呂が好きな子も居るけど水に濡れるのをとことん嫌がる子もいるんだよ」

はい、そうです。僕は濡れる系は得意ではありませんので。

女の子はそっと地面に卸してくれた。

助かった。

「でも汚いのは良く無くない?」

「飼いネコだし、飼い主に任せましょ」

「それもそうか」

「ネコちゃんわたしたちはお風呂に入るからね」

そういい服を脱ぎだした。

ちょい待て、俺がまだここにいますが、やめようよ。

って、今はネコだから無関心なわけか。

女の子たちは、衣服を脱ぎ、さらにブラジャーやショーツを脱ぎかごに入れる。

俺の前で完全に生まれたままの姿になってしまった。

俺はあたふたしていると

「じゃあね、ネコちゃん」

「今度は一緒にお風呂に入ろうね」

そう言い残し、風呂場へと去っていった。


ぐたーーーーーーーーーーー

さんざんな目にあった。

俺は床に寝っ転がり、先ほどのネコいじりを思い出し、どっぷりと疲れだ出た。

ネコも毎日のんきなわけじゃないんだな。大変なんだと思う俺。

おっと、こうしてはいられない、さっさとパスをゲットしなくてはならない。

確か左側の籠が玲香先輩のだ。

もう一度、ぴょんとジャンプして、籠の中にうまく着地する。

今度は一番上に白衣があった。

この白衣のどこかにパスがあるはず。

ネコの手でうまくめくることができない。

ごそごそ捜索すると、やっと見つけた。パスだ。

これを口にくわえて、今度はしくじらないように降りる前に辺りを見回した。

よし、誰もいないぞ。

チョンと床に降り、急ぎ足で脱衣所を後にした。

後は廊下からトイレに逃げるだけだ。

廊下も誰もいないことを確認するとスタスタとトイレへ一直線。

個室の下をくぐり戻ってきた。

パスを手に入れた後は元の姿に戻るだけだ。

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