第6話 空から女の子が……

翌日、彩星と合宿中に約束した通り、星空を見に昔二人できていた丘の上にやってきた。

俺は今でもここで星を見ている。

いつものようにテントを張って、毛布にくるまりながら待った。

高原の夜は夏でも、ひんやり冷たい。

僕の下に一人近づいてくる足音が聞こえた。


「待たせたかな」


見上げると白衣を着た彩星がそこには居た。

こんな所でも白衣とか服装を気にしないんだな。


「まぁね。テントを張るので明るいうち着ていただけだよ」

「少し風が出てるな。隣いいか」


俺は少し詰め綾瀬が隣に座る。

夜空を見上げ少し昔話をして、星の話をして、最近の話をして、未来の話もした。最近、遠くにいってしまった彩星が、昔みたく近くなった気がして、正直うれしかった。


「成長したな、昴よ。大学は私と同じところを受けるのか。また一緒に星が見たいな」

「あぁ、そうするつもりだよ。いつか追いついてみせる」

「待ってるぞ」


優しく微笑む彩星。

ぐー

いいところで彩星のお腹が鳴った。



「お腹すいたよー。す・ば・る・く・ん。なんか食べ物、ない?」

「お菓子とかパンならあるよ」


頂くよと言って彩星はパンをかじり。

俺はコーヒーでも買ってくるとテントを後にして、俺は丘を少し下ったところにある自販機に向かった。

ここの自販機は面白い物が売っている。秋葉原のおでん缶のように、世にも珍しい肉団子缶が売っているのだ。山奥の自販機で誰が買うのだろうか。

一体どんなマーケティングによって、売れると導き出されたのか知りたいところだ。さすがハッピードリンク。


そういや、彩星は肉団子が好きなんだよね。試しに買ってみことにした。肉団子缶とコーヒーを手に丘を登る。すると空に発光体の点が浮いている。明らかに宇宙上にある星では無く、地球内で光っている。


「……なんだあれ」


興味本位からテントでは無く発光体の下へ向かった。さらに発光体へ近づくと降下していることに気づいた。

降下していることが分かり早足になる。落下地点であろう先には、たしか丘の上公園がある。今は地上からおよそ二百メートルと言ったところだろうか。

だんだんぼんやりとではあるが、発光体と闇の中にもう一つの物体があるこ様に見えた。


「あれは……ひと…人…人だ!」


驚くことに、人が横に寝ている状態で降下をしていた。

胸元の発光体が青白く光を放っており、太陽フレアが吹き出すように人を時より包むみこむ。発光体はさらに落下をしている。


「助けられるか!」


ゆっくり降りてくる人を見ながら、駆け足で落下地点へと急ぐ。

公園内に入ると多数ある遊具をかき分け、さらに足の速さを加速させた。

──間に合うか。とはいえ、落ちてくる人を俺一人で支えられるわけがないが、あのスピードで落ちてくるのであれば勝算はあるかもしれない。

異常に遅い落下スピードをこのときは考えずとにかく走った。

落下してくる人は見晴台の上にまっすぐ降りている。


見晴台の入口に着くと、持っていた缶コーヒーやらを床に投げ捨て頂上を目指しす。

カンカンカンカンカンカン──


けたたましい轟音と供に暗い階段を一心不乱に駆け上がる。

間に合え!、間に合え!、間に合え!、間に合え!

息をすることも忘れて走り、頂上に到着する。

着地するまであと十メートルほどの高さにその人はいた。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。間に合った」


息を切らしながら安堵した。

公園の外灯は見晴台まで届かないが、その人の胸のあたりにある発光体からのまばゆい光は強烈にあたりを照らしている。

そしてそれはゆっくりと降りてくる。

俺はそれに近づく。

徐々に露わになってくる姿をみるとそれは銀色に輝く長い銀髪の女の子である。

見た目から年の頃は十五、六歳ぐらいなのでほぼ同い年ぐらい。

胸の光源が青みかがっているため、白い肌がより透き通って見える。


俺の頭より低い位置に下がってきたため、彼女を抱きかかえるように両手を伸ばした。

もう少しで腕の中に入るかしたとき、手の高さに合わせて浮いている。

すごく軽い。だって腕の中で浮いているから軽いわ。

まばゆい光は徐々に細くなり、次第に収束していく。


俺は胸元で消えていく光を吸い込まれるように見つめていた。

次第に彼女と腕の間が徐々に縮まっていく。

目映かった光は完全に消えて、暗闇に戻る瞬間、両腕に強烈な重みを感じた。


ずしっ────


「うぉぉぉっ!!!」


思わず声が漏れ前に倒れそうになるが、なんとか体制を維持した。

急激な重さは、サー・アイザック・ニュートンごとく、地球には質量に応じた重力が間違いなく生じることを教えてくれた。


両腕に抱えている彼女をなんとか床に下ろす。

暗くてよく分からないが、光の加減で銀髪かと思われた髪の色は、桃色のツインテールに結われている。

学生服なのだろうか、見慣れない服装をしていた。

よく整った顔立ちは、誰からも美少女と言われるだろう。


「えぇい。なんか後ろがまぶしいぞ。オタクがオタ芸の練習でもしているのか。明かりは邪魔だ!他に行ってくれ!」

けたたましい声で台の下から彩星が怒鳴りつけた。

思わずビクッと体を震わせ、声のする方向を見下ろした。


「あっ、姉貴!そこで何やっているんだよ」

展望台から数十メートル先で、彩星が望遠鏡を覗いていた。

彩星が望遠期を覗きながら

「ん? あの光は昴か! お前、オタ芸とか好きなのか!」

「いやいや、オタ芸なんてしてないから」

「そんなことより姉貴大変なんだ」

「待て、今いいところなんだ。もうちょいかな。あったあったよ、アルタイル♪」


彩星は先ほどの怒りは飛んでしまい、今や上機嫌に戻っている。


「しかしなんだ、そんなところで油を売っていたのか。コーヒーはどうした?」

「あっごめん。今もって行くよ」

俺は慌てて見晴台を降りようとして階段へ向かったが、肌寒くなるといけないと思い着ていた薄手のパーカーを脱いで彼女に掛けた。

階段を降り、投げ出した缶コーヒーやらを拾うと、望遠鏡から覗いている彩星に話しかけた。


「姉貴。大変なんだ。空から女の子が……」


軽快なリズムの呼び出し音が鳴り響いた。

オープニングだったっけかな。着信音なんてどうでもいいと、彩星はいつも設定をデフォルトのまま使っている。


「すまん、電話だ。こんな時になんだ」

『はい。…………えっ……軌道がズレた……そうですか……えぇ、なるほど、キャッチポイントで見つからない……すぐに戻ります…………はい、失礼します』

通話中から珍しく困惑した表情を浮かべていた彩星は、通話を終えると

「すまん。昴」

彩星の申し訳なさそうな声。


「なにかあったの?」

「すまないが、私は急いで戻らなくてはならなくなった。ごめんな」

「なんか大変そうだね」

「到着予定のモノを見失ったようで、私も捜索しなければならない」

「それは大変だ」

「この穴埋めはいずれどこかでするよ。後片付けはすまないがよろしく頼むよ」


彩星はそう言うと駐車場へ向かった。


「姉貴、待って! これ良かったら持って行って」


俺は手に持っている缶コーヒーと肉団子缶を買ったことを思い出し、彩星に駆け寄り手渡しした。


「ありがと。わっ、なんだよこの肉団子缶とか超レアじゃん」


満面の笑みを浮かべる彩星を手を振り見送った。

車のエンジンが始動し、静寂な夜に響き渡る。赤いテールランプが早くも過ぎ去ると、エンジン音も次第に聞こえなくなった。


「さてと、俺もテントに戻るかな」


望遠鏡をテントまで片付けた時に、大事なあることを思いだした。

「やべ、あの子どうしよう!!!」

夜空に叫んだ。

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