第5話 彩星の研究室のパソコン

善は急げと彩星の研究室に来て、ドアをノックするが返事がない。

ドアノブに手をかけると、ドアはすぅーと開いた。

中は薄暗いが、一カ所だけが明るく部屋を煌々と照らしていた。


「姉貴。居るのか」


問いかけながら、散らかる部屋の中に進んだが、返事がない。

明かるいのは机の上のデスクライト。その机の椅子には誰も座っていない。違和感を感じて目を凝らして明かりの周辺を見ると、ソファーから白い物が見えた。

それは細い人の手がだらっと垂れ下がっている。


「──まさか。あねき……」


とっさに姉貴の下に駆け寄った。

慌てて垂れ下がった手を取り脈を測ろうとするが、慌てすぎていて場所がわからん。

開いている口元に手をやる。生暖かい吐息を我の手に履いていた。

ソファーの手置きを枕にして寝ている。

美晴が恐る恐るこちらに近づいてきて、彩星を見るや


「ひぃ……しん…で」

「いや美晴。俺も驚いたが生きているよ。寝てるだけだよ。家に居るときも同じだったから、ここでも変わらないな」


ふぅ、やれやれ。

寝るなら部屋に帰ればいいのに、困った姉様だよ。


「起こさないようにしておこう。姉貴は寝起きが一番たちが悪い。特に人から起こされたときは最もやっかいだ」


ほんと手に負えない。俺が小さかったとき、何度か気絶されたらたことがある。もうこりごりだよ。

俺は辺りを見回し、膝掛けを姉にかけてやった。


机の上にはメモで


[起こしたらお仕置き]


とか書いてある。やっぱり今でも危険な香りがするので、さっさと起きる前に退散しよう。



ブゥォ~ン


「ひっ、昴、今何か音がしなかった」


私がそう言うと昴は部屋の周りを見渡していた。

昴にもこの音が聞こえたのだろう。

もしかして、幽霊とかだったりしないかなぁ。

どうやら発生源を見つけた様で、それに向かって歩みを進めている。


「昴……大丈夫……」

「あぁ、これだよ。パソコンだよ」


研究室の隅に置かれた古めかしいパソコンから、暗闇の中で煌々と光を放っていた。

昔のテレビみたいに大きなモニターは黒く光っており、突然にメッセージが表示された。


[023-kf/dmmgkrngla\^\@23[/cs:]

[f,n5-6430-0/]f/)(O>+_NHVGHCR%'Y93nks74]


誰かが手打ちしているように、ゆっくりと文字が打ち込まれている。


「──幽霊が打っているのかなぁ……どう思う……」


昴は声を発せずモニターを凝視している。

私は恐くなってきて、昴の背中に抱きついた。

恥ずかしさよりも怖さのほうが勝っている今だからできる。


[34tkopkz)0H()HLKff2,デス]

[34tk0デシタガre;gkd/sブジニツウカ,rem]


「少しずつ、読めるようになってきたよ」


恐る恐る昴の背中越しから顔を覗かせ、そっと画面を見てみた。


「なんだろ。何かのメッセージか」


[l,lw.#:sdkhiwuf#なので、まもなく到着予定$%'HBDf]

[定刻にて待ってください]

[……? あの、返答を頂きたいのですが、いいですか?]


だんだん文字が読めるようになってきた。

今までのは何かのエラーで、文字表示がうまくできていなかっただけなのかもしれない。


[もしも、寝てますか?]

[受取許可の申請はすでに降りているわけだし、ちゃっちゃっと返答くださいな]


昴が言うには、姉貴の実験用の荷物の受け取りか何かだろう。とはいえ姉貴を起こすと面倒なので、


「えっと。[では、受取許可します。よろしくお願い致します。]こんなとこでよかろうか」


うんうんと私は頷き、昴はメッセージを送信した。

数分待ってみたが、相手からの返信がない。


[あざっす。ではでは~]


ゆっくりと文字が表示される。

どうも双方またはどちらかの通信状況が遅いようで、タイムラグがあるみたい。


[通信を切る前に、このことはくれぐれも内密に頼みますよ。ばれるとやっかいなので。お会いできることを楽しみにしています。ララ]


ララって女の子かな。外国の名前みたい。


「そんじゃ[こちらこそ、ララさん。お会いできること、私も楽しみです。]と、こんなとこでどうだろ」


メッセージを送り終わると、通信が切れたみたいで、自動的にパソコンがシャットダウンされた。


「ねー昴。このメッセージ、何だったんだろうね」


しばらく昴は考えた後


「とりあえずララさんが内密にって書いてあったし、このことは忘れよう」


そう昴はなにやら呟いて、みんなが心配するから帰ることにした。


就寝時間を過ぎるギリギリところで、二人は部屋に戻った。

俺は部長と直樹に問い詰められたが、事実通り彩星の部屋に行っていたことで事なきを得た。


床についたが、あのメッセージのことが頭をよぎり離れない。

とんでもないことをした子供のように、落ち着かないのである。

緊張とこれまでの疲れからか、いつの間にか眠りについていた。


初日からなんだかんだあった、七日間の合宿もついに終わり。

セレスシスさんは、廊下でも研究中でも会うごとに、つきまとわれたが、美晴の懸命な阻止によって、なんとか回避された。

天文学部一同は荷物をまとめ、みなさんにお礼を言うと電波望遠鏡施設を後にした。

正門では、すれ違いに黒塗りの高級車が一台通り過ぎていった。

ふと車を振り返ると、先ほど別れた彩星の前で止まりる。

車から出てきた黒いスーツのインテリ系イケメンと、彩星は親しげに何か話して居る様子。彩星の意外な一面を見た。

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