動物画家クリスはついでに絵を描く
夕藤さわな
序章 動物画家クリス・ブルックテイラーとは
第一話 ただの迷惑な変態である
この国、この世界に生まれてくる前のクリスは〝にほん〟の〝とうきょう〟というところで生まれ育って。
絵を描くのが好きで。
空想動物が出てくるファンタジーなお話を読むのが好きで。
十三年の人生のほとんどをベッドの上で過ごす体の弱い少年だったらしい。
最後の一年は絵を描くことも本を読むこともできなかったけど、毎日のようにお父さんやお母さんが読み聞かせてくれて、それを聞きながら空想動物の姿を思い描いて楽しんでいたという。
たくさん愛してもらって、たくさんのものをもらって。
すごくすごく幸せな人生だった。
懐かしさに目を細めながらクリスは〝てんせい〟前のことをそんな風に話して聞かせてくれた。
だけど――。
「それはさておき! 生の空想動物、最っ高ーーー!!」
なんだそうだ。
「ペ・ガ・サス! ペ・ガ・サス!!」
とかとか、謎のハイテンションで何度、僕ご自慢の真っ白なたてがみやしっぽや背中の羽をぐっしゃぐしゃになでまわしたことか。
初めて出会ったときもそう。
「ばぶ、ばっぶぅーーー!」
――生の空想動物、最っ高ーーー!
〝いせかいてんせい〟とやらを果たした生まれたてベビーなクリスはその日、めでたくお外デビューも果たした。両親に抱っこされて訪れたのはクリスの実家であるブルックテイラー家の広ーい敷地のすみっこにある牧場。
そこには青々とした草原を悠々と飛び回る大人のペガサスと、のちにクリスによって〝ベガ〟と名付けられる生まれたてベビーなペガサスの僕がいた。
「ば・ぶ・ばー! ば・ぶ・ばー!!」
――ペ・ガ・サス! ペ・ガ・サス!!
まだぬれている白い体をお母さんにペロペロとなめてもらいながら、ふるふると震える四本足で今まさに立ち上がろうとしている僕を前にクリームパンとも称されるベビーハンドを空高く掲げて生まれたてベビーなクリスは歓声をあげた。
かと思うと、シュバッ! と生まれたてベビーとは思えない俊敏な動きで抱きつき――。
「はぁはぁ……ば、ばぶば、ば? ばぶばぶばぶば、はぁはぁ……!」
――ハァハァ……ペ、ペガサスたんの地肌、何色? 何色の地肌してんの、ハァハァ……!
僕の生まれたてベビーヒップをもみしだき始めた。
『~~~!!?』
『私のかわいい坊やにさわるな、このど変態がぁぁぁ!!!』
「ドウ、ドウ! クリス坊ちゃまもドウ、ドウ!!」
多分、牧場のおじさんが止めてくれなかったら僕のお母さんにペガサスキックを食らってクリスの短い〝いせかいてんせい〟人生は終わっていたと思う。
「ハッハッハー! たかがペガサスでこんなに喜んでくれるとはな!」
「フフ、本当。たかがペガサスでこんなに喜んでもらえるなんてね」
とかとか、クリスパパとクリスママものんきに笑ってる場合じゃなかったと思うし。
「たかが!?」
――ばぶば!?
とかとか、クリスものんきにツッコんでる場合じゃなかったと思う。反省するべきだと思う。悔い改めるべきだと思う。
徹底的に教育するべきだったし、矯正するべきだったと思う。
そのへんをなまけちゃった結果――。
「ハァハァ……ド、ドラゴンたん……ドラゴンたんの鱗の質感ってどんなになってるの?」
『我にふれるな、このど変態がぁぁぁ!!!』
『ヒール! ヒール!! ドラゴンさん、ごめんなさいぃ!!! ヒーーーール!!!!』
被害者続出だし、僕も迷惑をこうむりまくりな現在にいたっちゃったわけである。
「お腹……お腹は柔らかいんだね……ハァハァ……それじゃあ、し、しっぽは……しっぽの質感は……!」
『ヒール! ヒール!! クリス、もうやめてよぉー!!! ヒーーーール!!!!』
『我の……我のしっぽまでもを……! さすさすさすさす撫でまわすな!! ペロペロペロペロなめまわすなぁぁぁ!!!』
『ヒール! ヒール!! ごめんなさい、ドラゴンさん! クリスはただの変態なだけで害はないんです! 多分、きっとないんです! だから、許してくださいごめんなさいぃぃぃヒーーーール!!!!』
火をふいて怒るドラゴンさんに泣きながらごめんなさいをしつつ、クリスに
誰がって、僕が! 風魔法しか使えないはずのペガサスである僕、ベガが!!
本当に! 早々に!! 反省して、悔い改めて、矯正してくれないとクリスの〝いせかいてんせい〟人生が終わっちゃうことになるんだから!!!
ていうか、クリスのお姉ちゃんが僕に付与してくれた
「な、なら……ドラゴンたんの翼は……!」
『だから、撫でるな! なめまわすな! もみしだくな、このど変態がぁぁぁ!!!』
『ていうか、もういっそ終わっちゃえ! クリスのバカ! ど変態! あぁぁぁもぉぉぉおおおヒール! ヒール!! ヒーーーール!!!!』
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