第三十九話 ポフーゾ街道のヒノトリの卵
ポフーゾ街道のまわりはイネ科の草が生い茂ってる。ペガサスの僕は人間よりもずっと鼻がいい。背の高い草のせいで隠れてしまってるけど地面は乾燥しているところとぬかるんでいるところがあるみたい。背の高い草を踏みしめて馬車が進むのは一苦労だし、ぬかるんでいるところに馬車の車輪がはまっちゃたら大変だ。
ポフーゾ街道と呼ばれている道はそういう問題を解決するべく、草を刈って、ぬかるんでいたところには土をかけて埋めて、馬車がスムーズに通れるようにした道。
逆に言うとそれだけの道。
そんなわけで――。
『ぶふぅーっ! げほげほっ、げーーーほげほっっ!』
「けほっ、けほっ!」
スライディング着地したせいで舞い上がった砂ぼこりに僕とクリスは盛大にせき込んだ。真っ白な毛も羽も砂を被って薄茶色くなってしまってる。たぶん、僕の背に乗ってたクリスも砂だらけだ。
んで、砂ぼこりのせいで薄茶色くなってしまった視界の先にはヒノトリの卵がドドーン! と鎮座してる。ポフーゾ街道のど真ん中に鎮座して見事に道をふさいでる。
空から見たときにはヒノトリの卵は1kmも2kmも先にあるように見えた。でも、地上から見るともっと近くに見える。スライディング着地のスライディング距離が長かったわけじゃない。卵が大きくて遠近感が狂うのだ。
「べ、ベガ、大丈夫!?」
『うん、大丈夫。暑くてめまいを起こしただけだから。完璧なスライディング着地でケガもないしね』
「大丈夫なんだね? ケガはないんだね? よかったぁ~」
ペガサスな僕の言葉は人間なクリスにはわからない。だけど、付き合いが長いせいか。なんとなくわかってくれることもある。心配そうな顔からほっと笑顔になるクリスを見てほほに鼻面でぐいぐいと押し付けた。
『生まれてこの方、十六年、やっぱりいっしょに暮らして育って旅してきただけのことはあるね。直前まで変態型だったのにちゃーーーんと心配してくれるんだもの。僕、とってもうれしいよ。クリスのことだからヒノトリの卵を前にしたら僕の心配なんて一切しないですっ飛んでくかと……』
「……というわけで、ヒノトリたん! ヒノトリたんの卵たーーーーーん!!!」
『…………うん。僕の心配をしてからすっ飛んでったもんね。無事を確認してからすっ飛んでったもんね。うん!』
変わり身の早さに乾いた声で笑いながら僕はよっこらせと立ち上がった。暑さと熱さにハァハァ言いながら炎をまとった卵へと駆けて行くクリスをおろよろと追いかける。
ポフーゾ街道をドドーン! とふさぐヒノトリの卵を正面から見つめる。もしも、卵がもっと小さかったりポフーゾ街道の周辺が
ヒノトリが孵化して卵の
そんな状態なのに――。
「ひ、ヒノトリたん……ゼェゼェ、ハァハァ……ヒノトリたんの卵たん……ゼェゼェ、ハァハァ……なでなで、もみもみ、ぺろぺろしにきた、よ……!」
『ねえ、クリス! 燃え盛る炎が見えてないの!? ヒール! クリスの〝いせかいてんせい〟人生が終わっちゃわないように念のため、ヒーーール!!!』
変態型クリスは卵に向かって全力疾走していくんだもの。炎に飛び込みかねないいきおいで全力疾走していくんだもの。悲鳴をあげちゃうし、
『ていうか、クリス! あんなのになでなで、もみもみ、ぺろぺろしたら
なんて叫んでも人間なクリスにペガサスな僕の言葉は通じない。もし、通じたとしても変態型クリスの場合は右から左。
そんなわけで――。
「ゼェゼェ、ハァハァ……ヒノトリたんの卵、たーーーん!!!」
『クリーーーーース!!!』
炎をまとったヒノトリの卵に抱きつくべく、運動神経皆無のいつものクリスからは想像もつかない俊敏さと跳躍力で大ジャンプするクリスに僕は青ざめつつ
でも――。
「へ?」
『あれ?』
卵を包み込んでいた真っ赤な炎がひゅん! と消えてしまったのだ。
まあ――。
「……って、ぅあちゃーーーい!」
余熱で卵の殻はあっつあつだったみたいだけど。
卵に抱きついた瞬間、クリスが悲鳴をあげるのを聞いて僕はパカパカと地団駄を踏んで抗議した。
『そりゃあ、そうなるよ! ていうか、その程度ですんだことに感謝しなよ! ヒール! クリスのやけどにヒーーール!』
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