第三十八話 そして、ポフーゾ街道へ

「そ、そこの真っ赤な羽の鳥たん……ど、どどどこ行くの? 僕にちょっとなでなで、もみもみ、ぺろぺろされてみない? なでなで、もみもみ、ぺろぺろされてみない!? ハァハァ、ハァハァ……!」


『ピルッ! ピッ、ピッ!!』


『もーーー! 会う鳥、会う鳥、みーーーんなナンパするのやめてよ、クリス!』


「が、眼下にヌーっぽい草食動物の群れが……! ちょっとなでなで、もみもみ、ぺろぺろ……ハァハァ……!


『クーリースーーー! ちゃんとつかまってて! 落ちるよ!』


 ペガサスな僕が結構な高さを飛んでいることも、そんな空飛ぶペガサスの背中にまたがっていることもすっかり忘れてクリスは空を飛んでいく鳥を追いかけようとしたり草原を駆けて行く草食動物たちを追いかけようとしたりする。

 二、三日で行けると言われていたポフーゾ街道の途中に産み落とされてるヒノトリの卵まで五日もかかっちゃったのはそのせい。背中から転げ落ちたクリスを空中キャッチしてどうにかまた背中に乗せたり、ヒールをかけてギリギリ〝いせかいてんせい〟人生が終了にならないようにと四苦八苦右往左往していたせい。


 ルモント国の王宮からギュンターさんと合流するためにルモント国北方の港に向かう道中もこんな感じだった気がする!

 もー! 全っっっ然、成長してないじゃん! ホント、誰かほめてよ! この五日間、迷惑千万な変態型クリスの子守りをものっすごーくがんばった僕を誰かほめて!


 なんて叫んでみても一番、ほめてくれそうな筋肉モリモリのザ・海のオトコなギュンターさんはこの場にいない。次に会うのは一か月ほどあと。待ち合わせているケペルー港で合流したときだ。


『それにしても……』


 僕は顔をしかめた。ものすごーく暑い。じわじわじりじり。肌が焼けるように暑い。


『それになんだか……目の前がチカチカするような……』


 なんてつぶやいていると――。


「あれがうわさのヒノトリたんの……ハァハァ……ひ、ヒノトリたんの卵たん!?」


『だーかーらーーー! ちゃんとつかまってないと落ちるってばーーー!』


 背中にまたがるクリスがいきおいよく身を乗り出そうとする。

 変態型クリスが変態吐息を吐きながら叫んだとおり、ポフーゾ街道のど真ん中にドドーン! と鎮座する炎に包まれた巨大な卵が見えてきた。

 でも、クリスの変態吐息……ちょっと、いつもの変態吐息とは違う気がする。テンションがあがってるってだけじゃなくて、なんだか苦しそう。


『原因って……やっぱり、この暑さだよね』


 ギュンターさんが言ってた。このあたりは砂漠気候で乾燥してるし、日中はかなり気温があがる、と。この暑さ、この渇きは砂漠気候のせいなんだと思ってた。このあたりはこういう気候なんだと思ってた。

 でも、違う。この暑さは炎をまとった卵のせいだ。卵に近づくにつれてどんどん気温があがってる。


『うぅ、暑いー。ていうか、熱いー。頭がクラクラするーーー。クリスー、このあたりが限界だよー。これ以上、近づいたら体中の水分が蒸発しちゃうよーーー』


「ベガ、もうちょっとだよ……ハァハァ……! もうちょっとでヒノトリたんの……た、卵たんにたどり着く……ハァハァ……!」


 僕とクリスの故郷であるエンディバーン国はこんなに暑くなることなんてない。正直、暑さには慣れてないし得意でもない。ギュンターさんの故郷の港に着いたときから暑いなーつらいなーって思ってたけど……これはもう……。


『うう~、これ以上は無理ぃ~~~』


「ベガ!?」


 クリスを背に乗せたまま、僕はへろへろと高度を下げて地面にズザザァーッ! と着地。そのままポフーゾ街道のど真ん中に崩れ落ちたのだった。

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