第四十話 我、誕! 生ーーー!!!
「熱い……ヒリヒリする……痛い……」
『だから、炎をまとったヒノトリの卵をなでなで、もみもみ、ぺろぺろするなんてやめなって言ったじゃん。ヒール。卵の炎が寸前に消えて消し炭にならないですんだなんて相当に運がよかったよ。ヒーーール』
「あ、ベガの純白すべすべお首をなでなで、もみもみ、ぺろぺろしてたら痛みが引いていく感じが……やっぱりなでなで、もみもみ、ぺろぺろにはすごい力が!」
『ないよ! なでなで、もみもみ、ぺろぺろにそんな力、ないよ! 痛みが引いたのは
なんて悲鳴をあげていた僕はそれはさておきとポフーゾ街道をドドーン! とふさいでいる目の前のヒノトリの卵を見つめた。
高さは三メートルほど。
卵がまとっていた炎はクリスが抱き着くほんの一瞬前に消えてしまった。消えたというか……卵の中へと吸収されていったように見えた。近づく者を焼き、まわりの温度を殺人的にあげていた炎が消えたおかげか、夜が近づいてきたからか。あたりはちょっと肌寒くなっている。
と――。
「あれ?」
『ヒビ?』
卵の一点にヒビが入った。
瞬間――。
「こ、こここここれはぁぁぁーーー! は、はははし……っ! はししし……っっっ!」
『うん、そうだね、
興奮のあまり上下左右小刻みにブルブルと震え出す変態型クリスに僕は冷ややかに言った。
嘴打ちって言うのはヒナが
『本当にヒノトリのヒナが出てくる瞬間に立ち会うことになっちゃったよー』
ため息をつきつつ、その場でパカパカと足踏み。僕が準備運動を始めたのはクリスを止めるため。生まれたてのヒノトリのヒナを変態型クリスのなでなで、もみもみ、ぺろぺろ攻撃から守るためだ。
「ハァハァ……ハァハァ……!」
クリスはと言えばヒノトリのヒナが卵の殻を割り、外の世界に飛び出してくる瞬間を見逃すまいとじーーーっと卵を見つめている。おとなしいとは言いがたい呼吸音を発しているし、僕が背負っていたカバンから瞬時にスケッチブックを取り出してシュババババッ! と絵筆を走らせているけど顔だけは動かさず、目だけはそらさず、じーーーっと卵を見つめている。
そんなクリスの目の前で大きめの殻の破片がぽとりと地面に落ちた。
「ひ、ひひひひヒノトリたんの……ひ、ひひひひヒナたんのつぶらな瞳ぃぃぃーーー!」
『はい、落ち着いて、クリス! 落ち着いて、うぐぐぐぅーーー!』
割れた卵のすき間から真っ赤な羽毛と真っ赤な炎をまとったヒノトリのヒナが一瞬、見えたものだから変態型クリス、大興奮。ポーン! とスケッチブックと絵筆を放り出して駆け出していこうとする。僕は大あわてで服のえり首をくわえて踏ん張った。
でも、無理。僕の体はずるずると引きずられていってしまう。毎度のことながら思うけどペガサスな僕の巨体を引きずるって……変態型クリスの気迫、恐るべし。
でも、変態型クリスの気迫は
目の前のヒノトリのヒナだって逃げ――。
『……ない!?』
「ひ、ひひひひヒノトリたんのヒナたーーーん!!!」
『って、ダメダメダメ! 抱き着いたらやけどするから! なんなら一瞬で消し炭になっちゃうからぁー!』
殻の割れ目からひょっこり顔を出したヒノトリのヒナに一瞬、動揺した僕だったけどなでなで、もみもみ、ぺろぺろするべく大ジャンプの構えを取るクリスのえり首をとっ捕まえた。
「は、放して、ベガ……ハァハァ……! ひ、ヒノトリたん……ヒノトリたんのヒナたんが……ハァハァ……僕になでなで、もみもみ、ぺろぺろされるのを待っているーーー!」
『待ってない、待ってない。たぶん、きっと、待ってない……よね?』
疑問形なのは殻の割れ目から顔を出したヒナが興味津々、お目々キラキラで首をにゅーっと伸ばして変態型クリスや僕を見つめているからだ。僕もヒナをまじまじと見つめ返す。
首から上しか見えていないけれどつややかで真っ赤な羽をしている。炎をまとっているせいもあるけど羽自体も真っ赤。長い首に比べて頭は小さい。ぱっちりとした目の色も真っ赤。あと、まつ毛が長い。頭からは飾り羽がぴょんと生えてる。
「ちょっとクジャクっぽいかも……ハァハァ……クジャクは赤色じゃないけど……ヒノトリたんのヒナたん、ちょっとクジャクっぽいかも……ハァハァ……!」
『〝くじゃく〟?』
僕は聞いたことがないから〝てんせい〟前の世界にいた生き物の名前なのかな。
と――。
「あああぁぁぁーーー! ヒノトリたんのヒナたんのかわいいお顔が見えなくなっちゃったぁぁぁーーー!」
変態型クリスが悲鳴をあげた。首を伸ばして外のようすをうかがっていたヒナが顔を引っ込めたからだ。
『ようやく変態がいるなって気が付いたのか、な……! ふぐぐぐぅーーー!』
ヒナが隠れてしまったことに絶望して再び馬鹿力を発揮する変態型クリスを止めるべく必死に踏ん張っていた僕だったけど、パッリーン! と割れた卵の中からいきおいよく飛び出してきた〝それ〟を見て目を丸くした。
だって――。
「我、誕! 生ーーー!!!」
そう叫んで飛び出してきたのは真っ赤な髪と目の幼女だったから。
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