第四十一話 なんと罪作りな我!

「我、誕! 生ーーー!」


 そう叫んで割れた卵の中からいきおいよく飛び出してきたのは真っ赤な髪と目をした幼女だった。右手は腰に、左手は真っ直ぐ伸ばして空を指さしている。

 そう、幼女。人間の小さい女の子。


 ポカーンと口を開けて幼女ちゃんをしばーーーらく見守っていた僕とクリスだったけど――。


「ヒナたんは!? ヒノトリたんのヒナたんはいずこに!!?」


『全裸ー! 日が落ちてきてこれから寒くなるのに全裸ーーー!』


 同時に叫んだ。

 かと思うとクリスは割れた卵の殻に駆け寄って頭を突っ込んだ。


「いない! ヒノトリたんのヒナたんがいないぃぃぃーーー!」


「ここにおる、ここにおるぞ」


『いろいろ聞きたいことはあるけどまずはなんか着るもの! 羽織はおるもの!』


 んで、僕はといえば背中にしばりつけてあった荷物をポーン! とおろすと鼻っ面をズボッ! とつっこんだ。ゴソゴソゴソゴソと荷物の中身をあさってクリスの服を引っ張り出す。丈の短いフードつきのマントだ。


「どこ! ヒノトリたんのヒナたんはどこ! ヒノトリたんのヒナたーーーん!」


「ここだと言うておるのに……そうか! 我のあまりの美しさに目がくらんで見えないのだな! ただ、そこにるだけで人の子の目をつぶしてしまうとは……なんと罪作りな我!」


『もしかして、クリスとは違うタイプの話が通じない変態さん!? それはさておき、羽織って! いいから羽織って!』


「おお? なんだ、なんだ、ペガサス。この服を着ろと言うことか?」


『そうだよ、着ろってことだよ! 人間は全裸でいると変態さん判定されて捕まっちゃうんだよ! あと単純に死ぬから! 日が落ちて気温が下がる中でそんなカッコウしてたら死ぬから!』


「我のあまりの美しさに直視したら目がつぶれてしまうから隠してくれということだな! あい、わかった!」


『わかってない! 全然わかってないけど、とりあえず服着てくれたからもういいや!』


 ペガサスな僕の言葉は人間なクリスには通じない。どうやら目の前の幼女ちゃんにも僕の言葉は通じないらしい。まあ、言葉は通じても話が通じないタイプな可能性もあるけど。


『むしろ、その可能性の方が高そう』


「よ……っと。これで美しすぎる我を直視しても目がつぶれないか、ペガサスよ!」


『あーはいはい、つぶれない、つぶれない』


 一応は大人しくマントを羽織った幼女ちゃんを見守りながら僕はげんなりとため息をついた。

 まあ、確かに。自分で自分のことを〝美しい〟と胸を張って自画自賛できるだけあって人間としては整った顔立ちをしている気がする。

 ペガサスの僕には人間のきれいきれいじゃないはよくわからない。でも、まわりの人たちに美男美女と言われていたクリスパパやクリスママを見てるからある程度の基準はわかってる。その基準に照らし合わせるなら幼女ちゃんは人間の中ではとってもかわいらしい部類。

 でもまあ、そんなことよりも重要なことがある。


「ねえ、ヒノトリたんのヒナたんは? どこに行っちゃったの!? ねえ……ねえねえ!」


 そう、ヒノトリのヒナはどこに行ったのか、どうしたのかということ。卵のからの割れ目からひょっこり顔を出していたヒナはまちがいなく鳥のヒナだった。炎をまとっていたけど鳥のヒナだった。

 それなのに、顔を引っこめたかと思うと次に現れたのは幼女ちゃん。赤い髪に赤い目の幼女ちゃんなのだ。


『自分がヒノトリのヒナだって言ってるけど……どういうこと?』


「もしかしてキミが食べちゃったの? ヒノトリたんのヒナたん、食べちゃったの!!?」


『ないない。それはいくらなんでもないよ、クリス』


「食べておらん、食べておらん。我がそのヒノトリのヒナだと何度も言っておろうが」


 手をひらひらと振って否定する幼女ちゃんを見つめて僕とクリスはさらに首をかしげた。私がヒノトリのヒナですと言われたってヒノトリのヒナはかなりの大きさではあったけど鳥のヒナの姿をしていたし、目の前にいるのは人間の小さい女の子だし……。


『どういうこと?』


「どういうこと?」


「ウワサ好きの人間たちなら我のこの美しい姿についても語り継いでいると思っていたが……そういえば人間に姿を変えるのは初めてやもしれんな」


 そろって首をかしげる僕とクリスを見上げて幼女ちゃんは腕組みするとうむうむとうなずいた。

 そして――。


「ならば、説明しよう。ヒノトリたる我がなぜ、このような姿をしているのかを!」


 マントをバサッ! とはためかせて高らかにそう言ったのだった。

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