第九話 フェナとフリスビー
時にクリスの変態語に無言で怖い顔になり。時に副団長さんのフォローに表情をやわらげ。でも、その直後にクリスが余計なことを言うもんだから無言でもっと怖い顔になり――。
「これは……なんだ?」
なんだかんだあってようやく目的のモノを僕が背負っているカバンから探り出した団長さんは首をかしげた。
「フリスビーというおもちゃです」
「フリスビー?」
平べったいお皿みたいな形の木でできた〝フリスビー〟を見つめて団長さんは眉間にしわを寄せた。どうやって遊ぶおもちゃなのかわからないのだろう。僕もさっぱりわからない。
「投げて遊ぶんですよ!」
「投げる?」
「フ、フリスビーを追いかけるフェナたん、ハァハァ……! しっぽをふりふり戻ってくるフェナたん、ハァハァ……! 早く、早く投げてください!」
「追いかける? 戻ってくる?」
クリスがハァハァ言いながら説明するけど、なにせ変態語なもんだからやっぱりよくわからない。
と、――。
「なるほど。フーベルト団長がフリスビーを投げて、それをフェナがキャッチして持ってくるという遊びなんですね!」
副団長さんがぽんと手を叩いた。
「そう、なのか?」
クリスがハァハァ言いながらこくこくこくこく! と、いきおいよくうなずいた。大正解らしい。うーん、副団長さんを通訳として雇いたい。
「これを、投げる……?」
「見本を見せます! だから、このロープを……!」
「断る」
スパーーーン! と言い放って団長さんはフリスビーを平べったいお皿を持つみたいに横に構えた。
「フェナ」
『……』
名前を呼ばれたフェナはフリスビーをチラッと確認したあと、じっと団長さんの目を見つめた。団長さんもじっとフェナの目を見つめ返す。
フッ……と短く息を吐いて――。
「取って来い!」
団長さんはフリスビーを投げた。
『うわぁ、遠くまで飛ぶなぁ』
「どうして! どうして初めて投げたはずなのにそんなにきれいに飛ぶの! すとん……って落っこちてくれたら僕が見本を見せられたのに! フェナたんと遊べたのに!」
『持って生まれたセンスってあるよね』
絵でも運動でも。
ロープでぐるぐる巻きにされたまま、がっくりと肩を落とすクリスを見下ろして僕はうんうんとうなずく。
ちなみにクリス。見本を見せる、フェナと遊ぶなんて言ってるけど上手にフリスビーを投げられていなかった。荷造りのときにフリスビーを投げてるのを見たけど、それこそすとん……と落っこちてた。団長さんのアレが正解ならクリスは全っっっ然、下手くそだ。
「どうして……どうして……!」
うん、やっぱり持って生まれたセンスってあるよね!
そんなこんなでがっくりと肩を落としていたクリスだったけど――。
「うわぁ……!」
空中で見事にフリスビーをキャッチしたフェナを見て歓声をあげた。
フェナもフリスビーをやるのは初めてのはずなのにきちんとルールを――団長さんの意図を理解してる。
体をひねって着地したフェナはフリスビーをくわえて戻ってくると団長さんの前におすわりした。誇らしげに胸を張って、しっぽもふりふりしている。
「よくできたな、フェナ」
自分よりも体の大きなフェナを見上げ、団長さんはフリスビーを受け取るとたっぷりとした首の毛をなでた。フリスビーをくわえて戻ってきたときよりもずっとずっとうれしそうにしっぽをふって、フェナはヘッヘッと舌を出して息をつく。
「僕も……僕もフェナたんにしっぽふりふりされたい……リーネたんにゥニャニャニャされたい……」
『団長さんが言ってたでしょ。我が獣騎士団に相棒をど変態に売る下劣はいないーって。……あきらめて』
前足のひづめの先っちょでツンツンとクリスの背中をつつくと、クリスは目に涙を浮かたキラッキラの笑顔で振り返った。
「フェナたんやリーネたんをなでなで、もみもみ、ぺろぺろできない代わりに僕を好きなだけなでなで、もみもみ、ぺろぺろさせてあげるって? ありがとう、ベガ! お言葉に甘えて全力でなでなで、もみもみ、ぺろぺろさせてもらうよ、ハァハァ……!」
『違う! そうじゃない!! そんなこと一言も言ってないし思ってない!!!』
「ありがとう、ベガぁぁぁーーー!」
『ぎゃーーー! 僕ご自慢のペガサスヒップをもみしだくな、ど変態ー!!!』
言葉が伝わらないって大変ね、と同情たっぷりの目でフェナとリーネが見つめている。……いや、二匹とも! 見てないで助けてよ!!!
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