第13話 魔族の巫女


「こんなところに……部屋……ですか?」


 セレスティアの驚きにルークも無意識に頷く。

 暗闇の中は民家の一室のような広さがあり、中にはご丁寧に椅子と机が用意されていた。

 その暗闇も不思議なもので近くも遠くも見えていないように感じるのに、互いの顔や椅子などははっきりと見えている。


「ここは拙の“固有領域”です」


 暗闇の中から唐突に出てきたのは黒衣の巫女服を着た少女。

 一見すると大人しそうな面立ちだが、両側の側頭部からは黒い巻き角が飛び出ている。


「よくわかんねぇけど助けてくれてありがとな」

「いえ。拙も頼まれた側なので礼には及びません」

「なんで……魔族がこの街にいるんですか?」


 セレスティアはいつの間にか剣を抜き、その切っ先を彼女へと向けていた。

 そんなセレスティアの剣をルークが無造作に掴む。


「おいおい。助けてくれた奴に剣を向けんな」

「ちょ!?危ないですよ!掴まないでください!?」

「だったら、剣をしまえ。コイツが魔族だか何だか知らんが、助けられておいてその相手に剣を向けるなんてバカかお前は」


 ルークの言葉にセレスティアは弱弱しく唸る。

 しかし、助けられたことは事実であり、ルークの言葉にも納得してしまう自分がいたため、大人しく剣をホルダーに納めた。


「御無礼を働きました。私の方からもお礼を。助けて頂きありがとうございました」

「いえいえ。構いませんよ。人族と魔族の確執は拙も理解しております。なので、むしろそちらの方の対応にこそ驚いているほどです」


 そちらのと視線を向けられたルークは不服そうに鼻を鳴らす。


「んなもん知るか。助けられたら“ありがとう”だろうが。んな事も知らねぇのか」


 元盗賊団の頭のセリフとは思えない。

 しかし、そんなルークに対して魔族の少女は柔らかく微笑んだ。


「変わったお方ですね。ですが、貴方を助けろと頼まれた理由も何となくわかる気がします」


 そう言うと、彼女はその場に座り込み、額を地に付けるほど下げた。


「名乗りが遅れて申し訳ございませんでした。拙の名は【アカネ・イセ】。イセ家の三女として生まれ、卜占(ぼくせん)を生業としておりました。そして今は【魔剣ウィーカ】の声を民に伝え、彼女の意思をこの世に伝える巫女にございます」


 アカネの言葉に息を呑んだのは、リインフォースとセレスティアの二人だけだった。

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