第48話 魔剣の覚醒


 暗い森の中、いつもなら消してしまう焚き火を囲んだ状態で魔剣講義が終わった。


「つっかれた……」


 ルークは急に詰め込まれた情報量によってダウンしかけていた。

 今はレオナの膝の上に頭を置いて、地面に寝転がっている。


「さて、休んでいるところ悪いが主殿」

「魔剣の試しはまた明日にしてくれ。流石に三時間以上も座って魔剣の話を聞くのは疲れた」

「安心してよいぞ。既に魔剣の試しはすべて完了しておる」

「は?」


 意味が分からず体を起こすルーク。

 ちょっと残念そうに頬を膨らませたレオナ。

 そんな彼女の表情を見て微笑ましそうに顔を綻ばせるセレスティアとアカネ。


「え、待て。オレはいつ試されたんだ?」

「魔剣の試しとはそこの女の言葉に乗っかっただけじゃ。魔剣の覚醒に必要なのは魔剣が保有するすべての術の詳細を魔剣の口から聞くことじゃ」

「マジか……。なんて手軽なんだ」


 そうは言いつつも、ルークはこのやり方はあんまり自分に合わないなと感じていた。

 言葉には出さないがこれなら聖剣の試しの方が好みに合っている。


「魔剣を握ってみよ。それで覚醒完了じゃ」


 ウィーカの言葉に従い、ルークは魔剣の柄を握り締める。

 すると、魔剣の輪郭が一瞬だけ黒く灯った。


「おぉ!?」


 声を上げたのはアカネ。

 急に声を出すから皆の視線がそちらに向いた。


「どうしたんだ?」

「あ、いえ。予想以上の驚きに思わず声をあげてしまいました」

「驚き?」

「拙は魔剣の精霊とその主に仕える巫女でございます。その両方が今まさに覚醒し、拙もようやくお役目を全うする責が生まれました」

「ってどういうことだ?」

「先ほどまでよりもルーク殿の存在をはっきりと感じております。そして、拙の中にも巫女としての役割を果たすための特異魔術がもたらされました」


 いつの間にかアカネの手の中には小さな魔法陣が光っていた。

 しかし、それがどのような効力を持つかは語られず、アカネの手の中からスッと消え去った。


「ルーク殿」


 アカネがルークの目の前に立ち、ゆっくりと両膝をついて額を地面に付けるほど頭を下げる。


「あまりこのような振る舞いは望まれないでしょうが、今回だけはお見逃しください」


 そう前置きを入れてから、アカネはスッと顔を上げてルークの目を見つめた。


「魔剣の主・ルーク様。この身、この心、この拙のすべてを貴方様に捧げまする。魔剣のお役目を果たし、そのお命が尽きるその日まで拙はルーク様にお仕えし、その御身を守るために尽力する次第にございます」


 これにはルークも居心地悪そうに頬を掻く。

 本人がその感覚を言葉にして説明する事は出来ないが、背中がむず痒くなるような感覚を覚えた。


「あんまそういうの慣れてねぇから、やめて欲しいんだけど」

「はいです。その辺も承知の上です。ですので、この時ばかりはお許しを。魔剣の覚醒時だけの振る舞いとお考え下さい」

「オレのためにって言って命投げだしたら許さねぇかんな」

「はいです。ルーク“殿”はお優しいですからな」


 アカネはいつもと雰囲気の違う笑みを浮かべた。

 その笑みを見て、ルークの胸がほんの少し跳ねる。

 しかし、その想いに気づける者はこの場には本人含め誰もいなかった。

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