第49話 第一の術
無事に覚醒を終えた次の日。
ルークは左手で聖剣を握り締め、右手で魔剣を握り、ちょっと変わった構えを取っていた。
「うっし行くぞ。《ルーフェイ》」
ルークの手から聖剣に向かって光の筋が走る。
すると、聖剣全体が淡く発光し、刃先に光が集まった。
「はぁぁぁぁ!!!これが聖剣の法術ッ……!」
感動に身を震わせているのはアカネ。
そんなアカネを横目に見てから、セレスティアは眉をひそめた。
「思っていたよりも地味ですね」
そんなセレスティアの感想に二人の目がギラッと光る。
「はぁ!?ふざけんじゃないわよ!この駄肉騎士!アタシの放つ高貴かつ聖なる波動が見えてないの!?」
「地味とは聞き捨てられませぬ!《身体強化(パワード)》、《耐久上昇(プロテクション)》、《切断力強化(シャープネス)》などを始めとする複数の法術効力を有し、数多の新術まで生み出してきた実績あるッ」
「巫女よ」
「何でもありません。拙の言葉はお気になさらず」
ウィーカの優しげな声に背筋を震わせ言葉を止めるアカネ。
そんな彼女らのコントを横目にルークは目の前の木の幹に向かって聖剣を斜めに振り下ろす。
「おぉ!」
思わず声が漏れるほど滑らかに幹の中間まで刃が飲み込まれる。
幹から引き抜く際もほとんど力を入れる事もなく、まるでフレッシュチーズを包丁で切るような感覚だった。
「へぇ~法術発動すると剣としての重さも出るんだな。すっげぇ違和感」
ルークの言う通り、今の聖剣には普通の片手剣程度の重さがある。
「そりゃあ、《重量操作(ウェイトシフト)》も入ってるもの。当然でしょ」
「本当にいろいろ入ってんだな。つか、入ってないのは何なんだ?」
「それを探すのもアンタの役目よ。色々と試してみなさい」
リインフォースは今のようにほとんど自分を語らない。
聖剣の精霊としてどうなんだ?と思われるかもしれないが、当のルークはそれを当たり前のように受け入れ始めていた。
「んじゃ、次はウィーカな」
「第一の術と言えど、我は本当に危険なモノじゃ。仲間を巻き込まぬよう注意されよ」
「ん」
逆にウィーカはすごく面倒見が良い。
過保護と言っても良いが、ルークは魔剣がそれほど危険な代物と言うことを昨日の講義でよぉく理解している。
だからこそ、魔剣を利き手で握りしめているのだ。
「《三途の渡(さんずのわたし)》」
魔剣の第一の術・《三途の渡(さんずのわたし)》
刃を振るった軌跡から魔力の帯が三本出現し、持ち主の意思に従って動く。切断・拘束・防御など様々な使い方ができるが、そこは持ち主の操作力による。
魔剣の制御方法を学ぶための術という事だが、第二の術以降は制御がほぼ無理と説明を受けている。
その時はルークも理解を諦めていたが、すぐにその意味が分かった。
軽く振った軌跡が黒く染まり、そこから魔族の着物の帯ほどの太さを持つ黒線が木の幹へと向かって走る。
ルークはすぐに危険を察知しそれらを必死に止めようとしたが、思うように動いてはくれず目の前の幹と周囲の木々を巻き込みながら地面へと落ちていった。
黒い線が消えて残されたのは、えぐり出された地面と食いちぎられたような痕を残して倒れた木々。
「は?」
「え?」
想像以上の威力とデタラメな攻撃範囲にルークとセレスティアが思わず声を出す。
レオナは即座に距離を開け、全身の毛を逆立たせている。
「相変わらず節操のない術ね」
「貴様のように何もできない術と違って何でも出来るからのぅ」
「こっちだって何でもできるわよ!だけど、アンタみたいに手あたり次第破壊するような地雷女じゃないの!」
「ハハハ!面白い事を言う。何でもできると謳っておきながらその方法は明確に示されない。何でもできるというのは存外不便なものでな、使い手によっては選択肢が多すぎて何もできなくなるのじゃよ。ま、我はキチンと使用例を示しておるがの」
「はぁぁ?!」
もう見慣れた精霊同士の口喧嘩。
それを見ながら、四人はこの二人に戦う能力がない事に感謝した。
この二人が日常的に戦えば、それこそこの地上の生物は滅んでしまうだろうから。
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