第50話 邪魔者


 エクリュべージュはここ五日モヤモヤを募らせ、イライラを積み上げていた。


 理由は単純。せっかく聖剣の主の所在が分かるようになったというのに会いに行けないからだ。

 そして会いに行けない理由は今も部屋に留まる【金剛騎士団団長】ゴルディウス・エイローのせいである。


「ゴルド様。数年間も教会を離れて好き勝手した挙句、今はこんな小娘のお守りですか?聖伐も近いというのに随分と暇そうですね」


 口元に髭を生やしたチョイ悪オヤジ風の騎士・ゴルディウスは自嘲するように笑みを浮かべた。


「これは心が痛むな。ここ数年の動向は教会上層部に通達済みだ。まぁ、貴女に伝わっていない理由は察してくれ。君に教えたくても守秘義務があるのでな」

「いや、どうでもいいですよ。貴方の近況なんて」

「これは手厳しい」


 両手を挙げるゴルドにエクリュベージュは半眼で睨みつける。

 金剛騎士団。

 それはたった16人しかいない“教会最大”の騎士団。

 彼らは個別任務で国内外を飛び回り、各地に散らばる黒錆騎士団を操って教会に仇為す敵を誅す。

 エクリュベージュが知り得る程度の情報では教会の何でも屋だ。


「私を監視する意味など無いと思われますが?」

「おや?なぜ監視だと?護衛かもしれないだろう。あの皇子から貴女の身を守るよう仰せつかって」

「そんな見え透いた嘘を言うから信用を無くすんです。あのアホ二人が皇子と私の仲を引き剥がすなんて考えられません」

「私に命令できるのは教皇様だけなんだがね」

「だとすればもっとあり得ないでしょう?あの引きこもりババアがこんな無意味な命令出すとは到底思えませんよ」

「あまり侮辱しないで頂けるかな?思わず剣を引き抜いてしまいたくなる」


 ゴルディウスは本気とも取れる声色を出している。

 しかし、エクリュべージュは顔色一つ変えず剣のグリップを握った手をチラッと見ただけだった。

 そんな反応に気が削がれたのかゴルディウスは再び笑みを浮かべて、剣から手を離す。


「よろしい。ただ、今回は本当に教皇様の命令だよ。任務報告に戻った際、キミを守るよう命じられた」

「なぜですか?」

「その理由まで私が知っているはずないだろう。私たちは教会の忠実なる騎士。その行動命令は教皇様のみが与えられ、我々は彼女の言葉にのみ従う」

「はぁ……。相変わらずの……いえ、何でもありません」


 ゴルディウスの狂った信仰心に触れ、エクリュベージュは抱えていた怒りがどこかへと飛んでいく。


「それに個人的にも気になることがある」

「それは?」

「キミは一体、どこへ行こうとしているのかな?」

「意味が分かりません」


 内心の驚きなど表に出さず、エクリュベージュは淡々と声を出す。


「一人になりたいのだろう?誰に会いに行く……まさかレグルス殿に懸想を?」

「あーはいはいそのとおりです」

「もう少し演技をしたまえよ」


 ゴルディウスはそこでピンとくる。


「もしかして、本物の聖剣の主を見つけているのかな?」


 ゴルディウスの言葉にエクリュベージュは“ようやく”と心の中でニヤリと口角を上げた。


「仮に……見つけていたとしたら、どう致します?」

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