第29話 追いかけっこ
ルークはセレスティアを抱え、街を出ると“北東”へと走り出した。
その事にセレスティアも気づき、声を出す。
「ルークさん、アカネさんのいる方向と違いますよ?」
「いいんだ。つか、走ってるときにあんま喋んな。舌噛むぞ」
「あと……たぶん追手も来てます」
ルークに担がれているセレスティアは目を細めてルークの見えていない背中側を注視している。
「わかんのか?」
「はい。そういうの得意なんで」
セレスティアが最初にルークたちを見つけたのも偶然などではない。
彼女が未だにルークたちを追う立場にいたのなら、今もなお逃げ続けているという状況には至らなかっただろう。
「つっても、見られてる状況じゃレオの術も効かないしな」
「レオナちゃんの方に視線が向いてないんで、レオナちゃんはまだ見つかってないみたいですけど」
「術対象が見つかっててもダメなんだ」
「それだと振り切るしかないですが……。多分あの人たちは追ってくるだけで近づいては来ないはずです」
「そっか……。ま、手は尽くしてっけど、どれくらいうまくいくか……」
ルークはそのまま北東にあるキルッフの森へと突入。
それを見た追手も速度を上げて森へと突入した。
「やっぱり凄いですね。まだ追ってきてます」
「感心するところじゃねぇぞ」
「あれ?レオナちゃんは?」
それまで少し離れた位置で並走していた彼女の姿が見えなくなっていた。
「大丈夫だ。気づかれてないんだったらって離れるように指示を出した」
ルークはその指示の時に一言もしゃべっていない。
セレスティアは二人の見えないところでのやり取りに驚き、少しだけ羨ましく感じた。
「ん?」
「どした?」
「あ、いえいえいえ。気にしないでください」
なんで羨ましく感じたのか……。
セレスティアはその根底にあるものにまだ気づいていない。
「でも、どうやって逃げ切るつもりなんですか?」
「ん?そりゃあ、アカネの力を存分に使うんだよ」
それまでの進行方向から90°西側に向けて急激に方向を変える。
抱えられたセレスティアにそれまでとは比較にならないGがかかるが、そんな事もお構いなしにルークは走り続けた。
そして、目的の場所には先にレオナが立っていた。
「おカシラ」
「サンキュ」
そのままルークはレオナを抱きしめ、三人は大木の洞(うろ)に飛び込んだ。
暗く影が差す洞の中に消え行く三人。
そこにはあらかじめ開けたままにしていたアカネの固有領域への出入り口があったのだった。
一方、視界の悪い森の中で僅かな痕跡を頼りに追跡を試みる騎士三名。
ルークの方向転換にもキチンと対応した三名はとある場所で足を止める。
周囲に何か特別な物があるわけでもない。
あるとすれば動物が寝床にしていそうな洞(うろ)がある大木。
その洞も奥行きなどほとんどなく、人族が隠れられるような場所ですらない。
「一体、どこへ……?」
ここで追跡を行っていた三名はルーク一行を取り逃がしてしまった。
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