第28話 赤銅騎士団団長


 セレスティアを簡単に奪取されてしまった赤銅騎士団。

 そこに一際豪華な赤茶色の鎧を着た男がやってきた。


「状況を」

「ヴァン団長!セレスティア・ルーヴルを発見したのですが、窃盗仲間によって奪取され、現在逃亡中です」

「やはり街中に潜んでいたという事か……。ルーヴル嬢は確かサポート系の法術は使えなかったはずだ。仲間に身を隠すような術を持った者がいるんだろう」

「確かに……。発見当時、彼女は馴染みの武器屋に入ろうとしていました。ですが、それまで近くにいた騎士および民間人は誰一人気付いていた様子がありませんでした」

「ふむ……。よほど高位の法術師が関わっているか、条件を厳しくして効果を上げたか……。恐らくは後者だろうが、気を抜く理由にはならない。団員に通達、逃走犯の中に高位の法術師が存在する恐れがある。心して掛かれ」

「ハッ!」


 騎士の一人が走り出す。

 すると、カームが少しだけ怯えながらヴァンに近づいた。


「どうした?少年」

「せ、セレナ姉ちゃんに酷いことすんのか?セレナ姉ちゃんは悪くない!絶対にアイツに、あの黒いヤツに騙されてるんだ!」


 一生懸命に訴える少年にヴァンは微笑む。


「安心しなさい。我々はルーヴル嬢を捕えるつもりだが、かつての仲間に対して酷い扱いをしようとは思っていない」

「ホント!?」

「ああ。だが、急がねばならん。聖剣の喪失はこの国にとってだけでなく、人族全体への問題に発展する。君たちの命を守るためにも聖剣の居場所をルーヴル嬢に案内してもらう必要があるんだ。だから、ルーヴル嬢を見つけた時はそばに居る騎士に報告して欲しい。彼女を守るためにも、我ら人類を守るためにもだ」


 ヴァンは優しく少年に説明する。

 その説明を聞いていた周りの人たちも少しばかり苦い表情を浮かべる。


「わかった……」


 少年の声は少し沈んでいる。

 しかし、次の瞬間には目に強い意志を宿し、ヴァンの鎧にしがみついた。


「オレも探すの手伝う!だから、セレナ姉ちゃんだけは助けてくれ!」

「ああ……。任せてくれ」


 少年は自分の頭を優しく撫でるヴァンに少しばかり自分の親を重ねる。

 この人なら信用できる。

 そんな想いを抱くと同時に、一人の騎士が走ってきた。


「ヴァン団長!」

「どうした?」

「逃亡中の二名ですが、門を閉めるのが間に合わず、街門を突破されました。その後、北東の方角へと逃亡中です」

「追跡班は?」

「街の外へは三名が追っております」

「そうか……。追跡班はそのまま。他の街へと向かった騎士たちはその場で待機するよう伝えろ」

「ハッ!」


 ヴァンは街門の方角を見つめ、奥歯を噛む。

 一体、何が起こっているのか……。

 今の事態を理解できていないのは教会上層部にいるはずの騎士団長も同じだった。

 だからこそ、この状況が最悪に近い事を理解している。


「早くルーヴル嬢から事情を聞きださねば」


 取り返しのつかない事にならないように。

 己の存在理由である“民の命”を守るために……。

 彼は今起こっているすべてを理解する必要があった。

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