第27話 読み違い
赤銅騎士団の面々に囲まれながら、セレスティアは猛烈に自己嫌悪していた。
なんで自分はいつもこんな感じなのかなぁ……。
レオナちゃんも注意してくれてたのに……。
あぁ、騎士団でも今のところでも……いっつも足手まといだなぁ……。
「セレスティア・ルーヴル。聖剣窃盗の容疑で貴様を」
「セレナ姉ちゃんはそんなことするはずない!」
セレスティアを捕えようとした騎士の前に青年が身を挺するように現れる。
足は震え、目は潤んでいる。それでも勇気を振り絞って両手を大きく広げ、セレスティアを守ろうとしていた。
「そ、そうだそうだ!セレスティアがんなことできるはずねぇだろ!」
「もし企んだとしても失敗するのがオチだしな」
「騙されてるってのならわかるけどよぉ!」
街の人から飛んでくる擁護の声に騎士たちも戸惑った。
本来なら彼らは街の人の声を気にする必要はない。
なぜなら、上からの正式な命令でセレスティアの捕縛・殺害を命じられているからだ。
それでも彼らの動きが鈍るのは、セレスティアが犯人だという情報に納得しきれていないからである。
「だ、だが……!セレスティアが逃げているのは事実!無罪であると主張するなら大人しく縛に就け!」
「……ッ!」
セレスティアに一番近い騎士がなんとか捕える口実を見つけ、セレスティアの目を見て叫ぶ。
そして、少年の身体を退かし、セレスティアの腕を掴んだ。
「痛ッ」
「大人しくしろセレスティア・ルーヴル。抵抗しなければ手荒な真似はしない」
「セレナ姉ちゃんにランボーするなぁ!」
少年が騎士へと体当たりする。
しかし、重量の差に押し負け、後ろへと倒れ込んでしまった。
「カームくん!大丈夫!?」
「お、おい……。大丈夫か?」
騎士が空いている方の手をカームに差し出す。
それを見て他の騎士たちがセレスティアの拘束に乗り出そうと動き始めたその時……。
「よかったよかった。ちゃんと騒がしいところにいたな」
上から落ちてきたのは顔を布でグルグル巻きにした男。
右目だけが露出したその恰好に誰もが目を奪われる。
そして、彼が今のセレスティアの仲間だと察した瞬間、現れた男によってセレスティアを捕えていた腕が払われた。
「え?え?」
「逃げんぞ」
「なッ!?逃がすか!」
手を伸ばす騎士の手に足の裏を向け、地面と騎士の籠手を足場に後方上空へと跳ぶ。
「セレナ姉ちゃん!」
カームが最後までセレスティアの身を案じる。
しかし、セレスティアは僅かに手を振るだけで大人しく覆面姿のルークに連れ去られた。
「クッ……。追え!追え!とにかく捕まえて事情を洗いざらい吐かせるぞ!」
「やっぱセレスティアは騙されてんだよ!」
「もともと男っ気なかったしな。アイツ男だろ?アイツに絶対に騙されてる」
「急いで捕まえて保護するぞ!」
「「「おぉ!!!」」」
ルークに連れ去られたセレスティアを見て、なぜか士気を上げる騎士たち。
そんな彼らを先ほどまで邪魔していた街の人達も応援しはじめていた。
セレスティア・ルーヴル。
彼女はそれまでの行いと失敗から、だいぶ街の人や同僚に好かれていた。
大司教と枢機卿が読み違えたのは、彼女が知らぬ間に稼いでいた周囲からの好感度くらいだろう。
そして、その読み違いは決して小さなものではなかった。
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