第26話 お別れと発見


「亜人ってのは初めて見たが、思った以上に人族に近いんだな」


 レオナは自分が亜人であることを理解しているが、他の亜人を見たことが無い。

 だから、フォグの言う“人族に近い”という感覚が理解できずにいた。

 レオナから反応が一切返ってこないため、フォグはどうしたもんかと頭を掻く。


「一応言っとくけどな。俺もミロリーもセレスティアの味方だ。何があってもアイツを売るような真似はしねぇ」


 フォグの的外れな保証はレオナを更に混乱させる。

 レオナにとってセレスティアの価値はそこまで高くない。今も彼女のお守りをしている感覚だし、それ自体もルークに頼まれたからだ。

 沈黙はさらに続き、フォグはとうとう対話を諦める。

 そんなタイミングでミロリーとセレスティアが戻ってきた。


「なんだい?アンタがだんまりなんて珍しい」

「いや……嫌われてるみたいでな」

「ま、アンタの顔は子供受けしないだろうしね」

「うるせぇ」


 そんな二人のやり取りにも興味を示さず、レオナはセレスティアに近づく。


「おわった?」

「はい。じゃあ、ミロリーさん。明日の夕方くらいに取りに来ます」

「あいよ。ちょっぱやで仕上げてやるよ」

「お願いします」


 セレスティアは深々と頭を下げる。

 フォグはそんな彼女の肩に手を乗せる。


「まぁなんだ。騎士団から逃げてる奴に言う事じゃねぇとは思うが、捕まんなよ」

「体に気を付けなよ。しっかりとご飯も食べるようにね」

「はい……。ありがとうございます」


 少し涙ぐむセレスティアだったが、こぼれ落ちないようにグッとこらえる。

 無理やり笑顔を作って、いつものように敬礼のポーズをとった。


「では!セレスティア・ルーヴル。必死に逃げ続けます!」

「おぅ!」

「あぁ」


 この聖都に来て一番お世話になった二人に見送られ、セレスティアは武器屋を出た。

 そんなセレスティアに遅れてレオナがついて行ったのだった。


 外に出てすぐ、レオナはセレスティアの服を掴む。


「レオナちゃん?」

「あんまりはなれないで……。れおのじゅつ、そんなにおおきくできない」


 レオナの身隠しの術は対象を指定する類のもの。術精度が高く、一度かければほとんど気付かれることが無くなるが、離れすぎると術効果が弱まるなどいくつかの欠点がある。

 そして、そのことを説明できるほど、レオナは“自分の術の事を知らない”。

 だから、注意が言葉足らずだった。

 セレスティアはレオナの手を掴み、彼女の方に体を向ける。


「ゴメンね。レオナちゃん」


 だが、レオナの術のせいで二人に気付かず歩いてくる人に気づき、セレスティアはその人とぶつからない様に繋いだ手を離して後ろへと跳ぶ。

 そして、すぐにレオナへと近づこうと足を出したところで周りから声が上がった。


「セレスティア?」

「え?セレナ!?」

「セレスティア・ルーヴルだ!セレスティア・ルーヴルがいたぞ!」

「え?え?え?」


 セレスティアが困惑している間に赤い鎧の騎士たちが続々と集まってくる。

 逃げる隙も無く、セレスティアはあっという間に囲まれてしまった。


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