第4話 聖剣


【聖剣リインフォース】

 それは聖典ラウンドナイツ・サーガにおいて、初代聖剣の勇者であったサー・アルトリウスが神の地・アヴァロンより持ち帰ったとされる神造の対魔武器である。

 一般的なロングソードに比べてブレード部が幅広く作られており、盾としても使えると記述が残っている。

 また、その刃は魔族のみを斬り裂き、人を一切傷つけることがないと伝えられている。真偽は定かではないが……。

 そして、そんな伝説の武器の実物はこの聖都ヴィヴィアンにて保管されている。

 聖都ヴィヴィアンの中でもっとも有名で最も人気の高い観光スポット【エレイナ聖堂】。

 その中に沸き上がる小さな水殿の中心に聖剣は鎮座しているのだ。


 清廉かつ厳かな雰囲気にマッチしたその姿は観光客からのウケもよく。

 聖剣を抜くという行為でさえ【聖剣の試し】と銘打っており、500G出せば挑戦できる。

 だが、聖剣は有事の時に選ばれた者にしか抜く事は出来ないと言われているので、ほとんどは挑戦しただけに終わる。


「だから、キングの話だと聖都が金儲け目的で作った眉唾モンのガラクタってことだったよな……」


 ルークの前の頭だった【キング】はそれを聖剣商法と呼んでいた。

 抜けないように作った聖剣と台座。それを用いて、聖剣の勇者と言うおとぎ話で夢見る若者や夢を見るしかないバカ者を呼び込んで金を毟り取る金策。

 その説明の後に「アイツらと盗賊のオレら、一体何が違うんだろうな?」と笑ったキングの言葉にルークも頷いていた。


「がらくた?」


 ただ繰り返しただけのレオナの言葉にルークは頭を掻く。


「んーどうなんだろうな」


 少なくとも目の前にあるコレはただのガラクタではないとルークは考えている。

 呪いであれなんであれ、この剣は不思議な力でルークに憑りついている。

 それをどうにかしないと、こんな目立つ剣を背負っていては聖都から逃げ出す事も出来ない。

 仮に聖剣であるのならそもそも台座から抜けないはずだ。その聖剣がなんであんなボロッちい商車に抜き身のまま乗っていたのかも理解できていない。


 ルークは聖剣(仮)を杖代わりに立ち上がり両手でぎゅっと握ってみる。

 その行為に明確な理由はない。

 単純に剣としての使い道があるかどうかを改めて確認したかっただけ。

 不思議と手に馴染んだが、グリップを握る手に全く重みを感じない。軽く振っても腕を振っているのと変わらない感覚だ。

 こんなモノでは剣としての性能は絶望的だと諦めようとした時……。

 見知らぬ声が下水道の中に響いた。


「これが新しい私の担い手なの?随分と粗野で頼りなく見えるわね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る