第35話 聖剣の勇者?エンディング編


「いやぁ、とっさの事とはいえ大司教なんて身分の高い方を殺さずに済んだことは僥倖でしたなぁ」


 と締めくくるアカネに三者三様の視線が向けられる。


「アンタんとこの巫女。ぶっ飛び過ぎじゃない?」

「思い切りの良い娘であることは認めよう」

「薄々気づいてましたけど、やっぱり聖堂内の聖剣って偽物だったんですね~」

「だから、手配書に暗殺未遂って書いてあったのか」


 ルークはアカネの話を聞いてようやく合点がいった。

 手配書の中で“大司教の暗殺未遂”のみ身に覚えがなかったからだ。


「うわぁ、そんなことまで書かれてるんですね……」


 どこか他人事のように言うセレスティアにルークとアカネは目を向ける。

 その視線にイヤな予感を覚えたセレスティアは口元をヒクつかせた。


「えっと……、どうして私を見ているんですか?」

「手配書通りなら主犯はセレスティアだぞ」

「何故?!」

「まぁ、セレスティア殿が一番見つけやすいからでしょうな。まぁ、身内の不祥事を明るみに出すのは教会側にとっての損失も多いはずです。ですが、そんな事よりも優先すべき事があったのでしょうな」


 身内の不祥事はなるべく喧伝したくないと思うのが普通だろう。

 それでも大司教たちは聖剣を取り返す事を優先した。自らが多少傷ついてでも事を成す必要があったのだ。


「優先すべき事って?」

「それはわかりませぬ。ですが、手配書から察しますに教会に捕まれば弁明の余地なく処刑されるでしょうな」

「しょッ!?」


 異端審問官による死罪確定裁判の光景がセレスティアの記憶の中から掘り起こされる。

 異端審問官が関わる裁判では、基本的に被告人には弁明する権利が与えられていない。一方的に罪状を述べられ、処刑方法を提示させられるだけの場。


「ででで、でもなんで?本当に私は何もしてなくて……。あ、聖堂の聖剣が偽物だったことを知っているから?」

「それもあるとは思いますが、今一番重要なのはそこではありません」


 アカネはセレスティアの震える肩に手を置く。


「なぜ本物の聖剣が他の街から輸送されてきていたのかご存じですか?」

「え?」

「ルーク殿から聖剣を手に入れた経緯を聞いていたのですが、荷車に無造作に積んであったのですよね?」

「ああ」

「聖剣が魔剣と同じ性質を持つのであれば、普通の人間には触れる事さえできませぬ。それこそ枢機卿とやらが触れなかったように。それは布一枚隔てようとも同じことです」

「ん?でも、アカネは魔剣に触れるだろ?」


 ルークの指摘は正しく、アカネは静かに頷く。


「はいです。だから、聖剣を持ってきた巫女がこの街におられるはずです」

「それってもしかして聖女様?」

「ここではそう呼ばれているのですね。それとこれらはあくまで拙の考えなので、全部が全部当たっているとは思えません。ですので、今から話すのも憶測の域を越えません」


 そう言うと、アカネは一呼吸おいて再び口を開いた。


「仮に聖女が聖剣と共に秘密裏に呼ばれたのだとするなら、聖剣の勇者をでっちあげるため……ではないでしょうか?」


 荒唐無稽とも言えるアカネの読み。

 その考えにリインフォースは心の中でニヤリと微笑んだ。

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