第41話 ターニングポイント


「待ちなさい」


 セレスティアが言葉を発する前に間に入ってきたのはリインフォース。

 正座中のルークをいつものように鋭い目つきで睨みつける。


「剣術の稽古をするのもいいけど、アンタはそろそろアタシやアイツの覚醒をしなさい」

「かく……せい?」


 ルークは言葉の意味を分かっていない。

 その事に気づいたリインフォースは面倒臭そうに頭を掻いて、顔を歪める。


「聖剣の主になったアンタが真っ先にしなきゃいけなかった事よ。全然言い出さないから痛い目見た時でいいかと思ってたけど、今なら最適でしょ?」

「相も変わらず意地の悪い女じゃな」

「そういうアンタだって自分の覚醒の話をしてなかったでしょうが!」

「我は主様の意向に従うのみ。我を振るうも振るわないも主様に預けておる。まぁ、巫女には伝えるよう言っておいたがのぅ」


 急に話を振られたアカネは戸惑いつつも、理由を話すべく口を開けた。


「えと……、スミマセン。正直に言いますと、魔剣の力は強大がゆえに躊躇しておりました。下手に覚醒してしまえば味方をも巻き込む力です。慎重を期するのが良いかと」

「っつか、“カクセイ”ってなんだ?」


 ルークはリインフォースに視線を戻す。


「聖剣と魔剣の覚醒。要するにアタシらの力を使うために必要な儀式の事よ。そもそも“聖剣の試し”ってのは聖剣に認められるためのモノじゃないわ。聖剣の力を引き出す時に必要な試練のことで、試練を受けるのは聖剣の主だけよ」


 その言葉にセレスティアも驚く。

 教会騎士である彼女にも“聖剣の試し”の本当の意味が伝わっていなかった。


「細かい話はどうでもいいけど。どうすりゃカクセイできんだ?」

「本気でやるつもり?」

「当たり前だ。今のままじゃダメな事くらいオレでもわかる」

「強くなってどうすんの?今さら人族を守るために戦うって言うの?」


 リインフォースの言葉にルークは叫ぶ。


「ンなもん知るか」


 これにはレオナを除く全員が目を剥いた。

 そのままルークは言葉を続ける。


「レオナやセレスティア、アカネ、それにリインフォースやウィーカも含めて。お前らを守るためには強くなる必要があんだよ。人族とかは関係ねぇ。オレはオレの守りたいもののために強くなりたいんだ」


 ルークの想いにリインフォースは少しホッとする。

 それでもいつものように目端を吊り上げて、ルークの胸に足を乗せた。


「っざけんじゃないわよ。アタシは人族を守るために神々が造った兵器よ。それをたった二人のために使うって?ハッ!正気を疑うわね」

「二人じゃねぇよ。三人だ」

「ソイツは魔族。人族じゃないわ。魔族を守るのはアイツの仕事よ」

「だからオレのやるべき事なんだろ」


 挑発するリインフォースに淡々と答えるルーク。

 そんなルークの真っすぐな瞳にリインフォースはフゥとため息を吐く。


「あーもー、わかったわよ!覚醒したいんならすればいいわ。その手助けくらいはしてあげる。アンタも!それでいいわよね」


 リインフォースはウィーカを睨みつける。

 すると、ウィーカはニコリと微笑んで頷いた。


「構わぬ。我は主様が我を使って誰を守ろうと止めはせぬからのぅ」

「ハンッ、アンタを使って守るなんてんな面倒なことする奴いんの?」

「おるかもしれぬ。今の主様なら、出来るやもしれぬな」

「意味わかんない」


 周りを置いてけぼりにして進む二振りのやり取り。

 それをちゃんと聞いていたのはルークのみ。

 他の三人はそれぞれの心の中で芽生えた覚悟に目を向けていた。

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