第54話 新たな仲間


「ってことで、新しい仲間だ」


 アカネの固有領域を経由して今はキルッフの森の中。

 目を輝かせるアカネ、顔を逸らすセレスティア、半眼で睨みつけるレオナと三者三様の反応を示している。


「ブリテン国にて聖女の役を仰せつかっておりますエクリュベージュと申します。以後、ルーク様の手となり足となり働く所存にございます……が、なぜこの場に魔族がいるのか説明を頂けますか?」


 三人に向けて頭を下げていたエクリュベージュの顔がぐるりとルークに向く。

 その威圧感と眼光にはさすがのルークもドキッとした。


「オレの命の恩人だ」

「そのような事はありません。拙は」

「お前には聞いてない」

「はい」


 禍々しささえ感じ取れるエクリュベージュの睨みにアカネは抵抗することなく身を引いた。


「命の恩人とは?」

「お前らに盗人扱いされて逃げてるときに助けてくれたんだよ」

「魔族の小娘如きが何の目的があってそんなことを?」

「えと、魔剣の精霊様のお導きによるモノです」

「なるほど……なるほど?」


 エクリュベージュは納得しかけてから眉をひそめた。

 そして、その困惑した瞳をルークに向ける。


「あぁ、オレは聖剣の主なんだけど……同時に魔剣の主でもあるんだ」


 そう言ってルークの手に魔剣が現れる。

 これにはさすがのエクリュベージュも青い顔で項垂れ、震えた声を絞り出す。


「ハハハ……、聖剣の主が魔剣の主も兼任している?」

「信じられないでしょうけど、これ現実なのよねぇ」

「我からすればこれを機にそこな阿呆を引き取ってもらえると嬉しいのじゃがな」

「あぁん?アンタこそ魔族領に帰りなさいよ」

「なぜ我が主様を放って故郷(くに)に帰らねばならんのじゃ。貴様なら心も痛まんだろうが、我にとってそれは身を割く想いに等しい」

「真っ二つになればいいのに」

「そっくり返すぞその言葉」


 エクリュベージュは騒がしい声をBGMに地面を見つめる。

 明らかに意気消沈した姿にルークが気の毒に思い始めた瞬間、エクリュベージュはグッと顔を上げた。


「ルーク様」

「お、おぅ?」

「この者は信用できる者ですか?」

「当たり前だろ」


 ルークの即答を受けて、エクリュベージュはアカネの方へと顔を向ける。


「魔族の貴女」

「あ、拙はアカネ・イセと申します」

「では、アカネさん。貴女はルーク様の事をどう想っているのですか?」

「ルーク殿……いえ、ルーク様は拙がお仕えすべき御方です。この身のすべてはこの御方のために、そしてルーク様からは御自愛せよとの命令も出ております。故に拙はこの身を一分の傷も付けず、ルーク様とその周りにいるすべてを守り抜くつもりです」


 アカネの言葉、表情にエクリュベージュは黒いオーラを消してフッと微笑む。


「で、あれば私たちは同じ主を仰ぐ同士。まずはルーク様のお命を守ってくださったことここに深く感謝致します」

「いえいえいえ!エクリュベージュ殿も同じ立場であれば行っていた事にございます。感謝など」

「何を言っているのです?貴女が私の立場なら私に対してどういう行動を取ると思いますか?」

「え?あ!ははは、確かに」


 手を差し伸べるエクリュベージュにアカネが応え、がっちりと握手が交わされる。

 アカネはそのまま立ち上がり、両者が至近距離で見つめ合った。


「これからもよろしくお願い致します。アカネさん」

「こちらこそよろしくお願い致します。エクリュベージュ殿」


 ちなみに、音速で仲良くなった両者には周りの誰も付いて行けずにいたのだった。

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聖剣と魔剣の主による世界救済と逃亡生活 八神一久 @Yagami_kazuhisa

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