第53話 聖女との再会
「お久しぶりです」
エクリュベージュは小さな声でリインフォースに挨拶をする。
「ホントにね」
「先ほどの方が?」
「ええ……、アンタの理想からはかけ離れてるけどね」
清廉潔白、眉目秀麗、武法両立、悪逆を許さず、義を重んじる。
貴族の年頃の娘であれば誰もが一度は夢見る聖剣の勇者像だ。
それは聖女となったエクリュベージュにとっても変わりはない。
しかし、エクリュベージュはリインフォースの言葉にニコリと微笑む。
「理想はあくまで理想です。私がお仕えすべきお方に私の身勝手な価値観を押し付けるつもりはありません」
リインフォースは“変わらぬ”彼女の言葉に背筋を震わせる。
個人の好みとは滅多な事では変えられない。
好きな相手に理想を押し付ける行為は誰しもやってしまう事だし、それが原因で対立してしまう人間をリインフォースはたくさん見てきた。
だが……、エクリュベージュは違う。
これぞ真なる信仰者の姿だろう。
信仰対象の行動すべてが正しいと考えており、自分の頭の中にある考えと乖離した場合、それは誤りだと本気で考える。
人によっては異常者にしか映らないその人柄が、聖女としてはとても高貴で、神々しさを醸し出しているのだ。
「それならいいけど。諫言を受け止めるタイプのヤツだから言いたい事はちゃんと言いなさい。全部が全部アイツが正しいなんてことは無いわ」
「ご安心ください」
「安心できないから言ってんのよ」
「どんな苦難も乗り越えるために磨いてきたこの身。法術も、体技も、知識も、美しく磨いてきたこの容姿も全てを賭してあのお方に仕えましょう」
「あぁ……理解してないわね」
諦めモードに入ったリインフォースは溜息を吐く。
歴代聖女の中で一番才能に溢れたこの娘。
余計な部分まで歴代聖女の中で抜きん出ているのがリインフォースの悩みの種だ。
だが、リインフォースにとって彼女を引き入れるのは急務だと考えていた。
「もぅいいわ。とりあえず合流するわよ。ちなみに追手は振り切りなさい」
「それこそご安心を。行き先はどちらでしょうか?」
「倉庫街の奥。細かいところは指示するわ」
「畏まりました」
その言葉と共にエクリュベージュの身体が消えていく。
遠目から監視をしていた金剛騎士団の団員は自分の目を疑った。
隠匿系の法術を見抜くための術を発動しているはずなのに、エクリュベージュの姿がどんどんと見えなくなっていく。
隠れることを止め、どんなに法力を注いでも雲散する彼女の姿を捉えられない。
慢心せず、油断せず、全力を注いだ彼らの努力は本物の才能を前に呆気なく膝を折った。
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