第21話 逃亡生活のはじまりはじまり
「もう一度言いますが、拙は魔剣の精霊の声を伝える巫女です。たとえ祖国が魔剣の主を殺す事を望んでも、ウィーカ様が望まないのであれば、拙は迷わず国に背きます。それが魔剣の精霊に仕える巫女というものです」
「ん……、じゃあこの後どうするんだ?」
「ちなみに、今のアカネさんの話を考えると人族領でも同じことになると思います。魔剣の主だった気付かれれば、殺されちゃいます」
「ま、そりゃそうでしょうね。え、なに?この地雷女がいるせいでアタシたちどこにも行けないの?」
「待て待て地雷女よ。我のせいにするでない。貴様がこの場にいなければ済んだ話じゃ」
「言っておくけどアタシの方が先に見つけたのよ」
「順番なんぞ関係ない。我と主様以上に濃く太い繋がりを持つ者はおらんという事実があるからのぅ」
「ハハハ。妄想でしょ?」
「砕くぞワレ」
精霊同士がヒートアップしてきたので、ルークが手を叩く。
「お前ら騒ぐなら離れてろ。なぁ、つまりはこのまま逃げ続けろってことか……?」
「はいです」
「しかも、街にもうかつに入れません……」
当然である。
時間が経てば経つほど周囲の町にまで捜索の手は伸び、厳重な検問を敷かれるだろう。
だからこそ、ルーク一行が打つ手は限られてくる。
「んじゃあ、ここを拠点に適当に暮らすしかないかぁ」
アカネはルークの意図を理解できず、おずおずと手を挙げた。
「どうした?」
「いえ、夜通し歩いて他の町に移動するのではないのですか?検問を敷かれる前に安全圏へ離脱しておいた方が拙は無難だと思うのですが」
アカネの言い分が正しい。
だが、ルークは全く逆のことを言い始めた。
「いや、お前の能力で隠れられるんだから遠くに行く必要ないだろ」
「ですが、顔を見られていますので人相書きなどが出回るやもしれません。それはどうされるのですか?」
「その人相書きな。だいぶ難ありだから大丈夫。オレなんてちょっと前までゾディアル盗賊団の頭やってて」
「えぇぇぇ!!??」
思わずセレスティアが声を上げ、皆に白い目で見られてシュンとなる。
「ごめんなさい」
「えと、セレスティア殿は何を驚いたのですか?」
「あ、うん。ゾディアル盗賊団ってこの国で一番有名で凶悪な盗賊団なの……。そこのお頭ってことはその盗賊団を率いていたって事で」
「今はやめたけどな」
「そんなあっさり!?」
「いろいろとあって頭の座をほっぽって逃げてきた」
いい笑顔を浮かべているルークにセレスティアは苦笑いしか浮かんでこない。
「ま、そういうこともあってな。似顔絵だけじゃ見つからねぇよ。それにさっさと遠くへ逃げんのが普通の考えなら、時間が経てばここが一番安全な場所になる。だろ?」
ルークの言う事にも一理あるように思える。
しかし、それを実現するためには敵に見つからないように動き回る必要がある。
アカネはその事を始めとするいろいろな問題点を指摘しようとした。だが、先に余計な一言が入る。
「流石は主様じゃ。敵の裏を掻くその思考、我も見習いたく思うほど……。のぅ?巫女よ」
「あ、はいです」
魔剣の余計な一言のせいで、ルーク一行は敵陣ド真ん中での逃亡生活を余儀なくされた。
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