第2話 仲間の少女


 家並みの屋根を伝い、水路に身を投じたルークはなんとか兵士の追跡を逃れた。

 そのまま水路を潜りながら移動し、下町の下水道まで移動。

 濡れネズミのように身を震わせていた所を頼りになる仲間と合流することに成功した。


「あぁー……最悪」


 風邪をひくわけにはいかないので、ボロ切れのような上下の服を脱いで火に当たる。

 火に照らされた顔は不満そうに頬を膨らませており、脱いだ上着を絞って濡れた体を拭き始める。


「おカシラ、だいじょうぶ?」


 そんな風に愚痴るルークを心配そうに見つめる少女が一人。

 年の頃は10歳に満たない褐色の亜人少女。

 赤茶けた毛並みはそれなりに整っているものの、レオナール族の証である頭頂部の猫のような耳は片方が半分欠けていた。


「ん?あぁ……いや、全然だいじょばない」

「だいじょ……ばない」


 ルークの言っている意味が分からず再度首を傾げる少女。

 そんな少女を見つつ、ルークは左手にくっついた剣を見せる。


「濡れてんのは拭きゃいいとして、この剣が手から離れねぇんだよ」

「なんで?」

「オレも知らねぇよ」


 落ち込む様に俯くルークを見て、少女は慌てて駆け寄る。

 そして、見様見真似でルークの髪をゆっくりと撫でた。


「いいこッ!、いいこ!」


 まったく状況に合っていない行動だが、ルークはそんな健気な少女を見て思わず感動し、笑みを浮かべる。


「ありがとうなぁ~、レオ~」


 レオナール族の少女【レオナ】。

 ルークがまだ盗賊団にいた時に拾った少女で、拾った当初からルークによく懐いていた。

 ルークの方も懐かれるのはまんざらではなく、名前を付け、当時の頭に頼み込んで彼女を妹分として盗賊団の一員として迎え入れた。

 だからこそと言うべきか、ルークはレオナに激甘である。


「いいこ?れおも、いいこ?」

「あぁ!レオはめちゃくちゃいい子だ!はぁ……癒されるなぁ」

「えへへ」


 少女と抱き合う半裸の青年。しかし、その光景は年の離れた兄妹の抱擁にしか見えない。

 今はたった二人しかいない家族。

 ルークは愛すべき妹分を抱きしめながら、この剣をどうしたもんかと悩んでいた。

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