聖剣と魔剣の主による世界救済と逃亡生活
八神一久
第1話 逃げる青年
「はぁ……はぁ……はぁ……」
息を切らしながら、街の狭い路地を逃げ惑うボロ切れを身に纏った青年がいた。
「いたぞ!ニニーユ通りだ!裏から回り込め!」
「クッソ……」
青年を追いかけているのはこの国の兵士たち。
そんな兵士たちの包囲網を持ち前の身軽さで躱していく。
「上だと!?」
「なんつージャンプ力だ!」
「おい!魔導部隊も投入しろ!この国の宝を盗んだ極悪人だ!殺しても構わん!」
「構うわ!」
逃げながらツッコミを入れる青年は左肩の後ろで不自然に貼り付いた蒼銀色の剣を握り締め、遠くに投げ捨てようとする。
「だぁあああ!なんで手から離れねぇんだよぉぉぉぉぉ!!!」
青年の叫びは街中に轟く。しかし、剣がその手から離れることは無かった。
しかも、走りながら腕を振るったせいで剣先が地面に触れる。すると、その衝撃でグリップを中心に剣が回転。そのまま青年の背中へと刃先がぶつかる。
「ハウッ!?」
とんでもない“なまくら”なのか、刃先が当たったところが切れていないのは不幸中の幸いだ。
それでも不意に背中から衝撃が来ると、かなり痛い。
「クッ……、ふざけやがってふざけやがってふざけやがって」
そもそも青年にこの剣を盗むつもりなど全くなかった。
ただみすぼらしい商車を“物色していた”だけ。
盗む対象は足の付きにくそうな大量生産品のモノや腹の足しになる食材。
いかにもな“刀身に装飾”のある武器なんて彼の眼中には無かった。それなのに奥に進むため退かそうとちょっと触っただけでこの始末。
しかも、触った直後に光輝いたせいで商車の持ち主に見つかるというオマケつき。
「最ッ悪だ!」
街の屋根を飛び移りながら、青年は剣を捨てようと何度も何度も試みる。
しかし、その剣が彼の手を離れることは無かった。
青年の名前は【ルーク】。
数ヶ月前まで【ゾディアル盗賊団】を率いていた男であり、今はたった二人で細々と旅をしているだけの若者である。
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