第17話 領域の外へ


 ワイワイと騒ぎ立てる女性陣にルークは溜息を吐く。

 こんなにうるさいと外にいる兵士に見つかりそうだと、今更ながらに気づいたのだ。


「なぁ、アカネ」

「あ、はい。なぜか拙にもリインフォース殿の姿が見えるようになりました。どういうことでしょうね?」

「いや、それは知らん」

「ですよね~」

「主様、先ほどの巫女の言葉はお忘れくださいますよう。我は純粋に主様をお慕いし、支えたいと考えているのみでございます」


 アカネの後ろに引っ付いているウィーカの言葉はとりあえずスルーして、ルークは言葉を続ける。


「なぁ、ここってこんなにギャアギャアと騒いでるけど外に声漏れてたりしないのか?」

「あぁ!そっちの話でしたか。それは大丈夫です。ここは拙の固有領域ですので、外界とは隔絶されております。なので音が外に漏れることはありません」

「……そっか」


 説明の大半は理解していないが、とりあえず声が漏れてないならいいやとホッとする。

 そこでセレスティアが今の状況を思い出したかのように声を出した。


「と、言いますか……そもそもここからどうやって出るのでしょうか?」

「あ、基本的に領域の出入口は拙が作ります。というか、拙にしか作れません。招かれた皆さんは領域の端をさらに進めば先ほどの場所に戻るようになってますので、ご安心ください」

「さっきの場所に戻るだけか……」

「兵士が捜索を止めるとは思えませんし……。いつまでここにいれば良いのか……」


 セレスティアの足が僅かに揺れる。


「まぁ、確かにな。最低でも丸一日くらいはこのりょーいきにいる必要があるな」

「えぇぇ……」


 困ったように眉をひそめるセレスティア。

 すると、アカネはポンと手を叩いた。


「大丈夫ですよ」

「ん?」

「拙の固有領域は広さと快適さが無い分、出入り口が五つまで作れますので」

「って事は街の外にも出口があるって事か?」

「はいです。拙は魔族ですからね。もし正体がバレた時用にと保険は残しています。これでもしっかり者なのですよ」


 グッと胸を張るアカネだが、どことなく頼りなさが漂うのはどうしてだろうか。

 ルークもセレスティアも言いようのない不安を抱いていた。


「その出口ってのは作ってもらえばどこにでも出られるもんなのか?」

「いえいえ。拙が入り口として使用した場所で更にその場所を設定する必要があります。今登録しているのは皆さんを招いた倉庫街の隅と街の外の川岸にある変な形の木、魔族領の拙の家の三つです」

「……んなら、いったん外に出るか」


ルークはスヤスヤと寝息をたてるレオナを抱きかかえる。


「追いかけてる奴らも今はまだ街中に目が向いているだろうし、街の外に出てもバレることは無いだろ。それにここで隠れてても腹は減るし、そろそろ出すもんも出したい」

「はいですな。食材も拙の分しか残っておりませんし、ここで出されるのは御遠慮願いたいです。ルーク殿の言う通りに動いた方がよろしいかと」

「で、でも……その出口はどこに?」


 セレスティアがキョロキョロと顔を動かす。

 そんな彼女を見てアカネは手招きをする。


「こちらに」


 アカネに誘われるがまま皆が集まる。

 しかし、そこに扉があるわけではない。

 アカネは先ほどの説明で“この空間の端”と言っていたが、アカネを除く全員がその端を認識できていないのだ。


「この先が街の外に繋がっております。足場が悪いのでお気をつけて」


 何もない暗闇に向かってアカネが歩き出し、フッとその姿が消える。

 その後に続くようにレオナを抱えたルークが進みだし、リインフォースとウィーカが少しいがみ合いながら進む。

 最後にセレスティアがピョンと暗闇の中へ飛び込んだ。

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