第19話 裏切者?


「ふぅ……」

「すっきりしたか?」

「あ、ノーコメントで」


 セレスティアが戻ってきたところでルークが軽く手を叩き、寝ているレオナ以外の全員を呼ぶ。


「この後の話だ。まずセレスティア」

「え?あ、はい」

「お前、本当にこのまま逃げ続けていいのか?」


 その問いにセレスティアは顔を俯かせる。

 聖堂教会の蒼銀騎士団所属騎士。

 その肩書は容易に得られるものではないし、彼女の努力の結果でもある。

 他の騎士に比べて信仰心が薄めであった事、生まれた時には没落していた家柄を加味しても犯罪者と手を組むメリットはない。


「やっぱり……疑われてますよね」

「何をだ?」

「私を聖堂教会のスパイと考えてるんじゃないんですか?」


 セレスティアの言葉に皆が首を傾げる。


「スパイになる女ってあんな鮮やかに窓ガラス割れるものなのかしら?」

「はうっ……!?」


 リインフォースの含み笑いにセレスティアは胸を抑えて膝をつく。


「あ、本当に聖堂教会の方だったんですね」

「うぐっ……」


 アカネの純粋な言葉でさらに体が縮こまる。


「何だと思ってたんだ?」

「ルークさんの仲間の方が聖堂教会の鎧を奪って向こうの味方になりすましてたのかと」

「かはっ……」


 そして、大きく咳き込んで砂利の上に倒れた。


「さっきからその反応はなんじゃ鬱陶しい。あと、あまり砂利の上で遊んでいるとまた転ぶぞ」

「あ、はい……きゃっ!?」


 ウィーカの忠告を聞き入れて立ち上がるも、形の悪い石に足を取られてよろめくセレスティア。

 しかし、その体は倒れる前にルークによって支えられた。


「気をつけろよ」

「あ……はい」


 二振りの恨みの籠った視線にも気付けないくらいセレスティアの胸が高鳴る。

 自分の背中と肩に密着する腕はとても硬く、自分と言う大女をも支えているという事実に頼りがいを感じた。

 更にドキドキを抑えるために息を吸ったはずなのに、男性特有の香りがセレスティアの肺へと送り込まれ、妙な高揚感を覚える(逆効果)。


「見た目に反してどんくさいんだから」

「へ?」


 しかし、ドキドキは長く続かなかった。


「なんつーか、最初に会った時はめちゃくちゃヤベー奴って思ってたけど、一緒に逃げてる間にだいぶ印象が変わったからな」

「あの……」

「お前が向こうの言いなりでオレらのところにいるとは思ってない。つか、んな器用なことできねぇだろ」


 それはその通りなのだが、セレスティアの中で己の不甲斐なさにちょっと涙が流れそうになる。


「オレは早めに戻って謝れば、まだ向こう側に戻れんじゃねぇかと思っただけだよ。元仲間に剣向けられんのとかあんまいい気分じゃねぇしな」


 そんな風に自分の事を心配してくれるルークにセレスティアの心は再びトクンと鳴った。

 しかし、彼女は首を勢いよく横に振って、その想いに蓋をする。


「大丈夫です」

「ホントか?」

「はい。実家には迷惑かけるかもしれませんが、後悔はしていません」


 あの時、真っ先に行動したのはセレスティアだ。

 そういう意味では今の状況を作り出したのは彼女なのである。

 なんであの時にあんな行動を取ったのか、未だに本人もよくわかっていない。

 だけど、ルークたちを身代わりに自分だけ古巣に戻ろうなどという考えはルークに言われるまで思いつきもしなかった。


「そんならいいけど」


 ルークはそれ以上言及しなかった。

 そしてその事がセレスティアの運命を大きく変える事となったのだ。

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