第10話 大司教と枢機卿
「こちらが本物の聖剣を目覚めさせた勇者ルークです。ルーク、こちらが大司教(アーチビショップ)のガードゥン・プール様。そして、こちらが枢機卿(カーディナル)のレイヴン・グレイ様だ」
一行は別室へと通された後、セレスティアにより紹介される。
大司教は少々肥満気味であり、枢機卿は逆にほっそりとしていた。
しかし、どちらも鋭い視線でルークを見下ろしている。
「セレスティア・ルーヴル。君は何を以ってこの者を聖剣の主だと思った?どう見てもスラムの孤児ではないか。冗談を言うのも大概にしなさい」
枢機卿の言葉にリインフォースがムウッと頬を膨らませる。
「レイヴン様、こちらが本物の聖剣です。見てください。伝承通り体から離れることが無いのです」
ルークはセレスティアの説明に合わせて背中の聖剣を覆っていた布をはぎ取り、手の甲にくっつけて見せた。
「そして、こちらの銀髪の少女こそ聖剣の精霊・リインフォース様です」
セレスティアの言葉に大司教と枢機卿がニヤリと微笑む。
「銀髪の少女?セレスティア・ルーヴル何を言っているのかね?大司教、そんな少女が見えますか?」
「いえ、まったく……。ルーヴル君、キミが言う少女とはそちらの薄汚い亜人ではないのですか?フードで隠しているつもりみたいですが、この鼻が曲がりそうな臭い匂いですぐにわかります」
大司教は不快を表すように顔を歪め、自らの袖で顔の下半分を覆う。
まるでリインフォースの存在を認めないような発言。
それも教会のトップ二人がそんな事を言うなんてセレスティアは思いもしなかった。
「い、いえ!こちらにいらっしゃるではありませんか!」
慌ててリインフォースの立っている場所を教えるも、二人は首を横に振った。
その態度に嘘があるようには感じられず、セレスティアを更なる混乱に陥れていた。
そんな中、ルークが何かに気づいたように口を開いた。
「なぁ、リインフォース」
「なに?」
「コイツらもしかして、お前のこと見えてないのか?」
ルークの言葉に大司教と枢機卿の二人は「お前まで演技とは大変だな」、「おおかた、ルーヴル家の復権のために買われたのでしょう」と馬鹿にしている。
そんな二人を見てリインフォースは少し悲しそうに目を伏せ、直後に小馬鹿にするような笑顔を浮かべた。
「そうね。姿どころか声も聞こえていない様よこの豚と骨」
「ブフッ!ブタとホネって!」
ルークの口から思わず出た言葉に二人は怒りを露わにする。
「誰が豚だと……?やはりスラム街の人間は目上に対する礼儀がなっていませんね。いつまでもこちらが甘い顔をしているとは思わない事です」
「その聖剣はこちらで本物かどうか検める。大人しくその剣をこちらに渡しなさい。そうすればこの場での無礼はすべて許そう」
枢機卿が手を出しだす。
ルークは聖剣を押し付けられるなら、と静かに枢機卿へと近づく。
そして、聖剣をその手に乗せようとした。
「ハハッ、物分かりの良い子供で助かったよ」
しかし、聖剣に枢機卿が触れようとした瞬間、強烈な火花が散ったように見えた。
「痛ッ!?」
「アハハハハ!この二人、見えてないだけじゃなくて触れることすらできない様ね!傑作!」
呆気にとられる者達を置き去りにして聖剣の精霊の嗤い声だけが部屋の中に木霊する。
そして、怒声が飛ぶのと同時にルークは腕を引かれて、この部屋から脱出したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます